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【2】②

 最も危惧していた親の反対は、拍子抜けするほどに何もなかった。


「航ちゃんがいいって言ってるならそれでいいわ。良さそうな方みたいじゃない。お子さんも。もうあんたもいい年だし、しないけどもし反対したってやめないでしょ。それで孫に会えなくなる方が辛いもの。……まあでも、顔合わせの場は設けてよ。『親族』になるんだしね」

 母が何らかの答えを出せば、父はよほどのことがない限り異を唱えることはない。

 隆則にとって母の言葉は正直意外で、──しかしどこか納得が行ったのも確かだった。


 離婚について話し合う中で、元妻はいきなり声を荒らげたのだ。「航大なんていらない!」と。

 母親のくせに(・・・・・・)なんてことを。

 それが「どうして俺が離婚なんて」と苛立つ心を、決断させた最後の一撃だった気がする。

 もしかしたら母は元妻の、……航大の実母についてなにか感じるものがあったのか。

 それが結局は、自分の息子(隆則)に起因するものであるということも。

 実際に、離婚に際して母が元妻を責めたり罵ったりしたことはなかった。


「あたしは時代もあったし我慢して来たわ。でもそれを七海子(なみこ)さんに強要はできない。あたしも全然平気だったわけじゃないのよ」

 ただぽつりと隆則に目も向けず零した言葉は、母が秘めていた本心に違いない。

 お前が悪いのだ、と口には出さない母の声が胸に突き刺さるようだった。

 だからこそ「航大()がいいならそれで良い」という結論に達したのだろう。

 親との話し合いの前に、航大は祖父母の家に呼ばれていた。

 おそらくそこで、「父親の再婚について」話を重ねたのだろうことは想像に難くない。


 二人で話して、結婚式に類することは行わないことにした。

 双方の実家に四人揃って挨拶に行き、結婚報告をしたくらいだ。

 隆則はともかく、まだ若く式を挙げたことのない涼音のために何かするべきでは、と必死で考えた。

 せめてウェディングドレスを着せてやりたい。

 それが『女の子』の夢なんだろうから、と身構えていたのだが、彼女は特に興味もない、とあっさりしたものだった。


「記念は何か欲しいから家族写真を撮りましょうよ。ちょっとお洒落して写真館で。あとレストランでお食事、って言っても子どもがいるからいいお店は無理だけど。どう?」

「ああ、いいな。じゃ予約しとこう! 写真館と、レストランはどこにする?」

 涼音の提案に不満などない。

 承諾を返した隆則に、彼女は当然のように答えた。


「それは子どもの好みで選んだ方がいいんじゃない? 二人が気楽に過ごせるところ。だからファミレスでもいいわ。航ちゃんは何か食べたいものあるかな。行きたいところとか。隆則さん、訊いておいてよ。雪ちゃんがいるから小さい子も大丈夫なお店にしてもらえたら」

 この女性(ひと)は本当に「子どもが一番」なのだ。表向きでも口先だけでもなく。

 女性の夢だと信じて疑わなかったウェディングドレスや、「主役」になりスポットライトを浴びることより、息子たちの希望の食事に意識が行く。

 隆則が『最後の伴侶』として、どうしても共に生きたいと願う人。


「そりゃそうか。わかった。雪ちゃんは好き嫌いあったっけ?」

「絶対に食べられないものはないわ。トマトは苦手だけど、出されたら食べるわよ。給食でも残さないって」

 言葉通り、隆則は後回しで「一番最後」になるのかもしれない。

 それでも構わなかった。待てば必ず順番は回って来る。

 かつて待たせるのみで放置したままだった自分には、むしろ贅沢かもしれないと胸のどこかが痛んだ。


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