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三眼男八災六難恋路敵  作者: いちめ
6/9

三難

シャカシャカシャッカシャカシャカシャカシャカシャッカシャカシャカシャカシャ…

 病院を出ると渋滞が解消に向かっている事に気付いた。ゆっくりとだが車が流れ始めている。信号が復旧したのではない。辻々に警察官が立っている。全ての交差点に交通整理の人間を配置するのは無理で、大通りだけだったが、混乱は終息に向かっているのだ…。この社会的混乱が終わるという事は?電気が来て、家電が使えて、流通が戻って、店舗が再開し、食料に困る事もなくなる。「今日は大変だったね」なんて家族団欒のひと時に顔を出す気か、僕?「ありがとう、三井君」どころか「何しに来たの?三井君」である。ボットと遊んでる場合じゃねえ、マズイ∞。いや、まだ間に合う。急ぐぞ。

「うォリャリャリャリャリャーッ!」

シャカシャカシャッカシャカシャカシャカシャカシャッカシャカシャカシャカシャ…

 と、交差点で立ち尽くしている人達が見えてきた。すり抜けて駆け抜ける訳にも行かず、降りて自転車を押すよりない。

「あらら…」

 事故である。右前面をへこませ、バンパーをぶら下げたトラックが歩道に乗り上げ、フロントガラスが罅で真っ白になったワゴンが交差点の中央を塞いでいた。事故からまだそう時間は経っていないらしい。通行人が夫々の運転席を覗き込む中、運転手が呆然と降りてくる。混乱は続いている。一人だけいた警察官が声を張り上げた。

「手を貸してください!」

 見るなのタブーに背いた報いは石化。

「交差点を塞いでるワゴンを動かさなきゃならいが、応援が見込めないんだ」

 …何で僕に向かって喋るんだ。脇に居たガテン系のお兄ちゃんが走り寄ってゆく。

「いいッスよー」

 いや、よくねえよ。急いでるんだって。ガテン系のお兄ちゃんは「あんたとあんたとあんたと俺で車押しましょう」犬を連れた定年風親父にごみ収集者の作業員二人を指す。免れた?と思った瞬間、

「お前、交通整理ね」

 ご指名を頂いた。ええ?僕?その他大勢は足早に離脱。何故警察官ではないお前が仕切る?

「車動かす間、片側交互通行にして五台づつ流して」

 しかも何て指示が適切なんだ。

「あ、あの…僕急いでて…」

 お兄ちゃんの顔が歪む。

「あぁん?」

 何故急いでいるのかって?常本が今この瞬間困っていて、誰かに助けて欲しいはずで、僕は彼女に食料を届けに行く約束を…していない。常本は僕を待って居たりしない。単なるクラスメートの僕がそちらへ向かっている事なんか想像すらしていないのだ。そしてお役立ちグッズの詰まったリュックには

「はっはっは!一丁、やりますかぁー!」

 緊急時に助けを呼ぶためのホイッスルまで入っていたりするのである。

「…メッチャやる気じゃん…」

 満面の笑みを浮かべて心で泣いている。交差点の中央に立った。

 ピーッ、ピッ!

 片手で一方を制しながらもう一方を手で招く。一台、二台三台…五台で止める。ややもすると慣れてきた。一台二台…回れ右してまた一台…

「何やってるのお前?」

 胸元からの聞きなれた声に飛び上がった。

「陽Ⅹ!治ったのか!」

「直った、だろ?完全復旧じゃないけどね」

「もっと早く声かけてくれればいいじゃんか!」

 心配してたんだぜ。嬉しくなって一台多く流した。

「判断力が低下してるのよ。回線があちこちで分断されているから情報の総体が見えないし。んで?何で家じゃなくて交差点に立っているんだ?」

「…行く所があったんだけどね」

 交通整理してます。

「何処に?」

 応えずにいると

「以前、ここを通って常本の家に行った事があったよね」

 本当に回線を分断されているのかという類推力。

「ひょっとしなくても常本んチに向かってる?」

 ピッピッ!正解。「…どこでもいいだろ」

「市内全域のサイバーテロに常本も困ってるんじゃないかなぁーと想像した?」

 ピッピッ!正解。「ほっとけよ」

「ここで彼女の役に立てば、報酬系として常本小春の好意を得られると考えた?」

 ピッピッ!正解。「……」バックアップありのAIが消滅しちゃうかもなんて考えた僕が馬鹿でした。不思議そうに陽Ⅹが聞いた。

「社会的混乱時に外へ出るのは自己保存の原則に反するよね。それでも行くの?」

 命の危険とまではいかないが、実際余計な事に首を突っ込みすぎている。「まあね」

「インフラの復旧支援とか家族のサポートに回った方が社会貢献度は高いけど?」

 だって大人じゃないから何も出来ないし。いや、そうでもない。この交通整理などできる事は色々あるのだ。だが僕が望むのは常本の助けになる事。他の誰よりも、何事を差し置いても彼女の役に立ちたい。

「…世の中の事なんかどうでも良いの」

「恋愛感情って全てに優先される第一条件になりうるの?」

 僕のモラルに反する極端に人間的な発言に陽Ⅹは思案気に呟いた。

「確かに常本小春って可愛いよな」

 AIの陽Ⅹがそんな評価をするなんて意外。これにもっと意外な台詞が続く。

「だったら、俺のこの感情も恋愛感情なんだな。これが」

 ピーッ、ピッピッ!止まれ。って、は?

「俺も恋してる。うん。素晴らしい響きだ」

「…AIのお前が何言ってるの?」

 恋?恋愛感情?まさか。

「確かに俺はボディは持たないが、身体的関係のみが恋愛感情ではないだろう。寧ろ精神的紐帯の重要性が説かれているぞ」

 ピピーッ!…徐行を心がけましょう。

「ああ、この執着感。かつてない感情だね。って、ことはよ。恋愛感情における利害関係が一致しないんだから」

 嘘でしょ?陽Ⅹが恋愛感情を持った?それも常本小春に?

「これって恋敵って奴?」

 どういう事?AIが僕の恋敵だって?ありえない。

「ま、せいぜいお前らの邪魔させてもらうわ」

 ピーピピーピッ!思考も停止。

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