6.やはり乙女ゲームでしたか
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早速作戦会議です。
お父様はすでにジョセフ様の動向を監視していました。
「さすがでちゅわ。お父しゃま」
アン姉さまと二人でほめたたえると、お父様は、威厳を保とうと試みるものの、鼻の下は明らかに伸びていました。
「サラからの手紙をもらってすぐに早馬でアンと二人で駆けてきて、昨日の夜に到着した。マクライン伯爵も奥方も、今回の御子息に関しては業を煮やしていた様子で、公爵からの手紙を持参し事情を説明すると、全面的に協力してくれるそうだ」
「お父しゃま、そんなにしゅぐ私たちのこと信じてくれたんでしゅか?」
「サラが緊急事態だと判断したんだ。親として信じるのは当たり前だろう」
「お父しゃま……」
感動していると、
「これで行けりゅ口実ができたと喜んでたわよ」
アン姉さまがそっと耳打ちしてきました。
ああ、だからお母様の視線が冷たいのですね。
それでも、やっぱり私の話だけで信ぴょう性のない情報だったら動けなかったでしょう。事前にそれなりに問題になっていたに違いありません。ともあれ、影が、しかも頭領のカラスが動いてもいい事件と公爵様に判断して貰えたのは僥倖です。
「お父しゃま、なにか分かりまちたか?」
「両親からの話によると、ジョセフ伯爵子息は伯爵家としての仕事は問題なくこなしているらしい。ただ、幼少から側近候補として王太子をサポートしていたが、卒業以降王太子の側近は保留にしているようだ」
まあ、ライバルの下で働きたくはないでしょうねえ。
「私もジョセフ伯爵子息を監視したが、仕事が終わるとすぐに自室に引きこもってしまい、食事も一人で取っていた」
「部屋で何をしているんでちょう」
「保存魔法の付いたガラスケースに入れた緑色のユリを夜更けまでずっと見ていたぞ」
彼女からもらったユリかしら。
『私と思って下さい』とか何とか言われて。
ベタですわ。
なんで男ってそんなにベタなシチュエーションに簡単に引っかかりますの?
憤慨していると、隣でアン姉さまも怒りで顔を真っ赤にしていました。
さすが私たち。怒るところまで一緒です。
「「浮気男が! 感傷に浸るなどおこがましいわ」」
「「えっ?」」
私とアン姉さまのセリフに、お父様、お母様少々ドン引き気味ですが、気にしてはいられません。
「お母しゃまはマクライン家の使用人たちから何か聞いていまちぇんの?」
「まだ今日ついたばかりだし、そんなに話せては無いけどね。どうやらジョセフ様の学園の事はかなり有名だったみたいね。一人の女性をジョセフ様含め5人の男性が取り合っていたようね」
「馬車でミネルバお嬢しゃまが話ちてくれたお話でしゅよね。その女性は結局王太子を選ばれたとか」
「そう。現王太子のファラル=デュボア=ブレジール様と婚約を結ぶという事だけれど…」
「何かあるのでしゅか?」
「身分が平民上がりの男爵だからね。今どこか上位貴族の養女にしようという話が進んでいるそうなんだが、」
さすが王家と血縁関係のある公爵家の影。お父様、裏事情をよくご存じです。
「何か問題でもありましゅの?」
「今回彼女のせいで婚約者とトラブルが起こった令嬢たちの家族が猛反対していてな」
まあそりゃそうでしょうね。
「クラジオ公爵家も反対しているのでしゅか?」
「もちろん。というか筆頭ね」
お母様も事情を知っているらしく、補足してくれます。
「だから私から公爵様に今回のサラからの提案を伝えた時、どんどんやれ。次いでにあの女狐の弱みを握って来いとおっしゃられた」
それは強い味方を得ました。
「では王子しゃまと女狐……もとい名前はなんでしゅか?」
正直特に名前に興味はないですが、話しづらいです。
「デイジー=バチストだ」
ん?デイジー=バチスト……、
「「あーー!!」」
私とアン姉さまは同時に叫びました。
「どうしたの二人とも?」
「い、いえ何でもないでしゅ」
お互い顔を見合わせうなずいた。
間違いない。ここは本当に乙女ゲーム「フラワーガーデン -君は僕の一輪の華ー」の世界! しかも逆ハーレム後の世界。
フラワーガーデン、別名「イケメンの花園」。学園に転入した元平民の女の子デイジーが、花にたとえられるイケメンたちと恋を繰り広げる、よくあるスマホ乙女ゲームだ。
ジョセフ様は「ユリの君」花言葉は【無垢】。マクライン家の家紋にも入っている花。
ジョセフ様ルートでは、政治的な意味合いを持つ政略結婚で、家格が上の婚約者との愛情の無い結婚に劣等感と同時に、愛せないことに関して罪悪感を抱く。そんな時デイジーと出会い、真実の愛に目覚めたジョセフ様は、王家の思惑の為に自分と婚約させられてしまった婚約者(ミネルバお嬢様)の幸せの為、そして真実の愛の為、王家と対立。婚約解消目指してデイジーと2人色々奔走しながら愛を深めていく。
その過程でデイジーとミネルバお嬢様が友情をはぐくむハッピールート。
断罪の無い、誰もが幸せになれるルートとして人気が高かった。
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