4.昔々じゃないでしゅわね
お越しくださりありがとうございます。
こうしてミネルバお嬢様一行はマクライン領へ向けて旅立ちました。マクライン領へは馬車で3日の行程です。
私は私のお母さまのシイラと一緒に、ミネルバお嬢様の馬車に乗せてもらいました。
初めての馬車での移動で私は緊張していました。何せお屋敷から出ること自体初めてです。
あの、乙女ゲームで良く見かけた馬車に私は今乗っているのね!
なんだかワクワクが止まりません。
でもそれも最初の内だけ。
馬車って揺れるのね。しかもうるさいわ。
出立してそうそうに私は気分が悪くなってきました。
ミネルバお嬢様は、そんな私を気にかけてくださいます。
「サラ、もう少しクッションを下に敷きましょうね」
そういってミネルバお嬢様は自分のクッションを私に分けて下さいました。
美しいうえに優しいなんて最強です。
「大丈夫でちゅ。クッチョンありがとうございまちゅ」
真っ青な顔をしていたのでバレバレだったと思います。でも気丈にふるまうと、ミネルバお嬢様は微笑みながら手を額に当ててくれました。ミネルバお嬢様の手は冷たくて少し気分が良くなりました。
「まあ、ふふ。サラは強い子ね。寝ていたらあっという間よ。横になっていなさい」
私はお嬢様に褒められ、横になった情けない姿にもかかわらず得意満面で鼻の穴を膨らませました。
ミネルバお嬢様と一緒だとどんな旅でも楽しいな。
お嬢様に額に手を置いてもらったまま、その心地よさにすぐに眠りに落ちました。
目を覚ますと、まだ馬車の中でした。
気分は大分落ち着いています。
ミネルバお嬢様はどうしているかな。
ミネルバお嬢様の方を伺いみると、お嬢様は憂いた顔で外を眺めていました。
どうしたんだろう。なんだか寂しそう。
お母様もどことなく憂鬱そうです。お母様も何か知っているのかな。
そうだ。ここは、子供ながらの武器を使うところよね。
「ふぁああ」
「あら、サラ起きたのね。気分はどう?」
「すっかり良くなりまりた。ありがとうございましゅ。でも、ミネルバお嬢さまも気分が悪いんでしゅか?」
「私は大丈夫よ。心配してくれてありがとう」
「でもなんだか哀ちそう。もしかして結婚が嫌なのでしゅか?」
ちょっと無理やりすぎたかな?
「こ、これ! サラ! お嬢様になんてことを言うの」
私はお母様に頭を押さえられて下げさせられました。
「いいのよ」
ミネルバお嬢様はすぐに許してくれ、少し考えるそぶりをした後、
「そうね。サラはお姫様の物語が好きだったわね。では暇つぶしに私の作ったお話聞いてもらおうかしら」
ここで唐突にお話なんて、何かありますわね。
「聞きたいでちゅ!」
私は可能な限り無邪気に見えるよう喜びました。
また横から「こら」とお母様から怒られましたがミネルバお嬢様がまた庇ってくださいました。本当に素敵なお嬢様です。
「じゃあ行くわね。昔々ある所にー」
ミネルバお嬢様が話したお話はこうでした。
上位貴族が大勢通う学園に、ある日一人の少女が転入してきました。
彼女は元平民の娘でしたが、男爵に引き取られ貴族の仲間入りとなったのです。
彼女は転入した途端、次々に上位貴族の男性を虜にしていきました。
平民が貴族の男性と恋に落ちる。とても素敵な恋物語です。
でもそこには一つ大きな問題があったのです。
それは、彼女が虜にした男性たちには皆、それぞれ婚約者がいたのです。
早々に婚約破棄をした者まで現れ始めました。
ここに、この少女に夢中になったある一人の男性がいました。
彼にも当然婚約者がおりました。子供の頃に決められた婚約者で、そこに愛や恋はなく、あくまで政治的な繋がりの政略結婚でした。
それでも、家の為と割り切り、義務的にではあったものの、定期的に会ったり、プレゼントを送り合ったりしておりました。
でもそれも彼女に出会ったとたん途切れてしまったのです。
何も知らない婚約者は、突然連絡が途絶えたことに不信を覚え、調べさせたところ、これらの事が分かったのでした。
二人の間には愛はなくとも信頼関係は築けていると信じていた婚約者は、とてもショックを受けました。
これは王家からの打診で成立した政略結婚です。婚約破棄などできるはずがありません。
彼女は悩みました。
でもそんな彼女の元に、知らせが入ったのです。
卒業パーティーで、彼女の心を射止めたのは、自分の婚約者ではなく、王太子だと。
王太子は卒業パーティーで自分の婚約者を断罪し、彼女を自分の婚約者へと挿げ替えたのでした。
「そうして平民だった彼女はお姫様となり、幸せに暮らしたのでした。おしまい」
こ、これって! これって、まんま乙女ゲームじゃないですか!!
途中主人公が入れ替わりましたが、最後は無理やり元に戻し、ハッピーエンドにして終わらせてしまいました。
途中に出てきた王家打診の政略結婚した人たちって、ミネルバお嬢様とマクライン伯爵家長子ジョセフ=マクライン様の事ですよね??
もしその平民上がりの女性がジョセフ様を選んでいたら、悪役令嬢として断罪されていたのは、この麗しいミネルバお嬢様だったということですの?
信じられません。
では、ミネルバお嬢様は今まさに失恋したばかりのジョセフ様の元へ嫁いでいこうとしているわけで……。そりゃあ憂いもします。
私は怒りがふつふつと湧いてきました。
婚約者がいるにも関わらず、浮気するなんて……許せん!
夕刻、途中の町で宿に入ってすぐ、私はアン姉さまに手紙を書きました。
絶対ミネルバお嬢様を不幸になんてさせないんだから!
お読みくださりありがとうございます。