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 しかし、悪魔たちも楽しく会話をしているわけではない。

 軽口を叩きつつも潰し合うことしか頭になかった。


「サナトアを打ちのめして魔界に追い返せばいいのかね?」


 タナルサスが面倒くさそうに言った。


「多分な」


 フルーエティも素っ気なく答える。


「こちらは二柱、向こうはサナトアだけ。そんな上手い話があるだろうか?」


 タナルサスの言い分はフルーエティとしても気になるところだったようだ。


「あればいいが、無理だな」


 ゴウッ、と強い風が吹いた。

 そして、その風が弱まる頃にはサナトアの隣に少年のような悪魔がいた。


「ルキフォカス……」


 テレンツィオがつぶやいた言葉を拾ったらしく、テスタはヒュッと息を呑んだ。

 ただ、ルキフォカスの姿はこの場にいた兵たちにも見えていた。皆、ざわりざわりと騒ぎ始める。


「あ、あれはなんだっ?」


 ルキフォカスの姿は優美で、一見しただけで悪魔だとは思えない。天使が降臨したとでも思ったかもしれない。

 けれど、ルキフォカスがその美しい顔を歪めた瞬間に神聖さは吹き飛んだ。


「タナルサスまで出張ってくるとは、ヴァルビュート様はどうあっても邪魔をなさりたいようだ」


 タナルサスは、サナトアに対する時のような気安さで返しはしなかった。ルキフォカスは六柱の中で最も位が高いのだ。

 フルーエティだけはいつもと変わらず淡々としている。


「無駄口はいい。行くぞ」


 トン、と軽く地面を蹴り、フルーエティは飛んだ。タナルサスもそれに続く。


 ルキフォカスは風で彼らを阻むが、悪魔たちは風をすり抜けた。フルーエティは片手に炎、片手に氷を出し、それを意のままに操りながらルキフォカスを攻め立てる。ルキフォカスの放った水の弾がフルーエティを襲った。しかし、フルーエティは涼しい顔をしてそれらを凍らせてしまうのだ。


 小言が多い、悪魔らしくないとさんざん言ってきたが、こんな姿を見るとやはりフルーエティは大悪魔なのだと実感する。思わず見とれてしまうほど華々しい。


 どす黒い、粘るような闇を纏うサナトアに対し、タナルサスは光を操っていた。光の矢がサナトアに向かって無数に放たれていくが、サナトアはそれを闇で絡めとる。


 ――とても人が手を出せる戦いではなかった。

 テレンツィオも愕然として見守るしかない。フルーエティは悪魔だが、人と同じように怪我をしたりもするのだろうか。

 あの涼しい顔が傷つくところは想像できない。


「ヴィー、一体何が起こっている? あいつらは……」


 背後からテスタに声をかけたのはトレントだった。振り向くと、トレントの隣には騎士団の隊長がいる。

 戦いを繰り広げながら姿を消すのは至難の業なのか、大悪魔たちの姿はすべての人に見えているようだ。

 テスタは悪魔たちの戦いから目を放したくないようで、そちらを気にしながら答える。


「悪魔たちの戦いが繰り広げられています」

「悪魔だとっ?」


 騎士隊長がのけ反った。トレントはそんな騎士の隣にいても見劣りしない体格と堂々とした物腰でうなずいている。


「教団が呼び出した悪魔か。しかし、それなら何故争っている? 仲間割れか?」


 テスタがちらりとテレンツィオを見遣った。テレンツィオは戦うフルーエティを見上げたままつぶやく。


「教団側の悪魔と、()()()()の悪魔がおります」

「ティー坊?」


 何故お前がそれを語るのだとでも言いたげだ。

 けれど、これを語るのにテレンツィオ以上に相応しい人間はいない。


「悪魔には悪魔の思惑があり、我々はそれに翻弄されているに過ぎません」


 トレントがここでとやかく言わなかったのは、さすがの度量だと思う。

 最も的確な言葉を選び取った。


「それで、俺たちは何をするべきなんだ?」


 ただ、それを問われてもテレンツィオが答えられるわけではなかったが。

 フルーエティとタナルサスが負けないように祈るくらいしかできることはないのか。その場合、一体誰に祈るつもりなのだと可笑しくなってしまうけれど。


「ここに留まるべきか、引くか、先を急ぐか――どうすべきだろうな?」


 トレントがさらにつぶやいた。

 すると、騎士隊長も言った。


「ここで我々にできることはない。むしろ、悪魔が人のいる近隣の町へ害を及ぼさぬよう、人々を避難させるべきだ」


 それがいいとは思うけれど、いざ悪魔がその気になれば逃げることはできないだろう。

 テレンツィオが思案していると、トレントは嘆息した。どうしてこんなことになってしまったのかとばかりに。


「あのレベルの悪魔が暴れるんじゃ、俺たちでは防ぎきれねぇな」

「オリアーリ団長でもか?」


 騎士の問いかけに誰も答えなかった。

 いかに最高峰の魔術師団長とはいえ、人間なのだから。

 悪魔たちの戦いに見入っていたテスタがここで薄い唇を開いた。


「悪魔と契約さえできれば……」


 それが簡単でないことは、もちろんテスタもわかっている。

 テレンツィオは自分の右手を握り締めた。この契約だけが唯一の希望と言っていい。


 契約に縛られたフルーエティだけが本当の意味で味方なのだ。けれど、テレンツィオが死んだらフルーエティもこの地を去るだろう。


 悪魔たちの戦いをただ眺めていただけの兵たちは、背後から迫る敵に気づけなかった。

 

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