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*39

 フルーエティと部屋で話していると、徐々に事実が明るみに出ていく気がした。

 ただしそれは少しも喜ばしいことではなく、悲惨な結末が待っていることを予感させた。


 フルーエティはどう考えているのだろう。

 これはテレンツィオたちこの大陸に住まう人間の事情であって、フルーエティが心血を注いで解決すべき問題ではないのかもしれないが。


 この時、ベッドに腰かけるテレンツィオと壁際のフルーエティの間に魔法円が浮かび上がった。フルーエティが瞠目していることから、これは彼の仕業ではないらしい。

 何かをする暇もなく、その魔法円から一人のほっそりとした青年が現れた。


「フルーエティ、久方ぶりだが相変わらずのようだな」


 芝居がかった口調で挨拶すると、長い腕を折り曲げて道化じみた仕草をする。

 赤い瞳を持つ顔は中性的で、整いすぎているくらいなのに魅力的だとは思わなかった。一切のあたたかみがない微笑が人形のようだ。

 白にほんのりと赤みを帯びた短髪の、ひと房だけ長い。体に沿った黒い革らしき服は、フルーエティの着ているものに近かった。つまり――。


「タナルサス……」


 フルーエティが心底嫌そうな顔をした。

 いつも嫌そうな顔をしていると思っていたが、それ以上に嫌そうな顔ができたのだと今知った。


 タナルサスといえば、フルーエティと同じ陣営の大悪魔だ。まさか、喚びもしないのにこんなところに現れるなんて。


 テレンツィオが驚愕のあまり口も利けずにいると、タナルサスはテレンツィオに目を向けてうなずいた。それからフルーエティに向き直る。


「怒らないでおくれ。僕としても好きで来たわけではないのだから」


 と、かぶりを振るが、言動がどうにも嘘臭い。


「何をしに来た?」


 フルーエティはタナルサスをまったく信用していないようだった。ピリピリと、痛いほどの緊張が伝わる。

 しかし、それをタナルサスは受け流す。


()()()ちょっかいを出しに来たのではなく、ヴァルビュート様の(めい)で来たのだよ」

「ヴァルビュート様の?」


 その名に、フルーエティは勢いを削がれた。けれど、テレンツィオは少しも気を緩めることができなかった。

 それでもタナルサスは言った。


「そうタストロア様の方で色々動いているだろう? そこに君が巻き込まれている。ルキフォカスだけでなく、サナトアとネビュロスも参戦すると、まあ分が悪い。よって、僕に加勢するようにと命じられた」

「か、加勢?」


 テレンツィオが思わず声に出すと、タナルサスは口元だけで笑った。


「そうだよ。ありがたく思っておくれ、お嬢さん」


 そんな呼び方をするなとは言えなかった。フルーエティとは違い、契約に縛られていない大悪魔なのだ。テレンツィオの首の骨を折るくらいわけがない。


「まさか、プトレマイアもか?」


 フルーエティはこの協力をありがたいと思っていないのかもしれない。渋い顔をしている。

 タナルサスはくつくつと笑った。


「君に協力するのならば嘆きの川(コキュートス)から出てもいいとお声をかけて頂いたようだが、未だに出ようとしない。君に力を貸すくらいなら川で凍てつく責め苦の方がマシだそうだ。プトレマイアらしいと思わないか?」


 それくらい、プトレマイアはフルーエティが嫌いのようだ。

 フルーエティを嫌いな大悪魔には、その主のテレンツィオも会わない方がいいだろうという気がした。


「まあ、君がヴァルビュート様のお気に入りなのは、タストロア様の申し出を蹴ってご自分の陣営へ下ったからだろうな。君を配下にと欲したタストロア様からすると、君が邪魔立てするのは面白くないはずだ。今度のことは僕としてはいい迷惑なのだが、主命とあらば仕方がない」

「…………」


 よく喋るタナルサスに比べ、フルーエティは重々しい。不機嫌に立っている。

 ――タナルサスが協力してくれるのならばありがたいけれど、信じていいものだろうか。

 それに、ルキフォカス以外の大悪魔も出てくるというのなら、それでも厳しいところだ。


「ヴァルビュート様はまずどう動けと?」


 フルーエティはそれだけをボソリと言った。タナルサスは髪を揺らしてうなずく。


「ガルダーラ教団の司祭が持つメダリオンを集めろと仰られていた」

「それをした場合、タストロア様は怒り狂うだろうな」


 ゾッとするようなことをフルーエティは言った。

 もし本当にこれが三百年前から用意してきたことならば、邪魔をすれば怒るだろう。


「ヴァルビュート様は、タストロア様が天界へ挑まれるのに賛同しておられない」

「天界を攻めると全面戦争だからな。ヴァルビュート様も否応なしに巻き込まれてしまわれる。迷惑なだけだろう」

「それでもタストロア様は手を引いてくださらない」


 悪魔たちの事情はテレンツィオにはわからないが、ややこしそうだ。

 ただ、悪魔たちの争いでこの地上はどうなるのだろう。タストロアを退けたら平和になるものだろうか。

 現にダリア王国は滅んだのだ。この国だけ無事でいられるとは思わない。


 ――この件をテレンツィオが相談できる相手は、やはりテスタだけだろうか。


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