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ワールドエンド・レメゲトン 3  作者: 五十鈴 りく


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*23

「じゃあ、今日は一体どうするんです?」


 宿から外へ出るなりテレンツィオは言ってやった。潜入はなしだと邪魔をしたのだから、他にどうするのだ。

 しかし、ジルドは当たり前のように言った。


「まだ始めたばかりだから、そう焦ることはない」

「……ノーゼさんは何か見つけたっぽいですけど」


 あの勝ち誇った顔を思い出したら腹が立った。それなのに、ジルドはあっさりと答える。


「ああ、彼らも見つけてくれたのならよかったな」

「よかったって、先を越されて悔しくないんですか?」

「これは競争じゃない。誰が成果を上げようと、事実がわかればいいんだ。君は悔しいのか?」

「当たり前でしょう? 私は誰にも負けたことがないんです」


 ずっと、寝る間も惜しんで勉強してきた。誰にも負けたくないという気持ちがなければ、孤児がここまで成長できたはずもない。

 ジルドは不意に、可哀想な子を見るような目をした。


「そうか。それなら負けてみるといい。これも勉強だ」


 ――こういうヤツは大嫌いだ。

 すべてにおいて自分が正しいと、考えを押しつけてくる。

 本当にイライラする。


「あなたみたいなイイトコのお坊ちゃんは、一度や二度の挫折で失うものはないのかもしれませんが、私は違います。足元をすくってやろうと待っているヤツばっかりでした。私にとって敗北は致命傷です」

「そんなふうに考えるな。だから君は危ういんだ」

「危うい? 私のどこが――」


 往来で大声を出してしまいそうになった。それを自覚して押し黙る。

 ジルドはそんなテレンツィオを促し、歩き始める。


 異変などどこにもないかのようにして、人々は笑い、忙しなく動いている。この町の中に溶け込めていないのは、誰よりも自分のような気がしてきた。

 そんなテレンツィオに目を向け、ジルドは言った。


「話を変えよう。昨日の()だが、いつからいるんだ?」


 フルーエティのことだ。テレンツィオは苦々しく答える。


「私が学院を卒業する少し前です」

「そうか。彼のことも秘密にしておいた方がいいのだろうな」

「そうですね。私を火炙りにしたいと思うのなら話は別ですが」

「では秘密にしておこう。けれど、禍々しさはなかった。とても不思議な存在だ」


 意外なことを言われた。

 ジルドはフルーエティを詳しく知らないから、見たままの印象を言うのだ。


「……あいつは変わっています」

「君だって変わっている」

「あなたも相当でしょう」


 言い返したら、ジルドはクスクスと笑った。この男はいつになったら腹を立てるのだろう。ずっと、テレンツィオだけが一方的に苛立ってばかりだ。

 怒りを見せたらそこを煽り立てるのに、ひらりと躱されてばかりではどうしていいのかわからなくなる。


「君は僕の名前をずっと呼ばないな。呼ばないようにしているのか?」

「そうです。だって、家名で呼べば目立つのでしょう?」

「だったら名を呼べばいい」

「忘れました」

「学院首席卒業なのに記憶力が悪いんだな」

「…………ジルド、さん」


 本当に、この男に遊ばれているような気がしてきた。

 ジルドは満足げにうなずいている。


「二度とあなたと一緒の任務なんて受けません」


 悔し紛れに言ったが、ジルドには通用しなかった。


「僕は今後、なるべくティオを指名する。他の者と組んで秘密を知られるよりは、すでに知っている僕の方がいいだろう」

「恩着せがましいんですよ、あなたは」


 吐き捨てた。ジルドとは本当に何もかもが合わない。

 彼が良かれと思って口にすることのすべてが、テレンツィオの神経を逆撫でするのだ。


 しかし、この押し問答の先が続かなかった。町の中で爆発音がしたのだ。


「っ!」


 驚いて音のした方を見遣ると、古びた礼拝堂の屋根が崩れていた。今時礼拝に訪れる者も多くはないはずだが、ああも派手に崩れると怪我人が出たかもしれない。

 テレンツィオたち魔術師に傷を癒す力はないが、痛みを和らげたり眠らせることはできる。状況を見て力を使うべきだろう。


「急ぎましょう」


 テレンツィオが駆け出しかけると、ジルドがテレンツィオを抜き去って振り返った。


「君は宿に戻れ」

「嫌です」


 さすがにジルドもテレンツィオを宿まで連れて戻る時間は惜しかったらしく、仕方なくついていくのを許した。


 ――正直に言うと、テレンツィオには持久力がない。恐ろしく速いジルドにはついていけなかった。途中で息を切らしていると、隣に人がいた。誰だと思って見上げると、長い黒髪の青年がいた。

 黒いジャケット、黒いパンツ、編み上げブーツ。黒尽くめの中で瞳だけが青い。

 しかし、その顔立ちは――。


「フ、フルーエティ?」

「どうやら始まったようだ」


 淡々と答えられた。声は紛れもなくフルーエティだ。人に化けている。


「始まったって、まさか……」


 カルダーラ教団には悪魔が絡んでいる。

 その悪魔が動き出したとでも言うのか。


「早めにここを離れた方がいいだろう」


 フルーエティはそう言った。

 この事態を収めるのは彼にも無理なことなのだろうか。


「……何が起こっているのか確かめる」


 テレンツィオはジルドが向かった方角へと急いだ。

 見上げると、礼拝堂の鐘が自身の重みに耐えかねて転がり落ちていく。瓦解していく礼拝堂に気を取られていると、また違うところから爆発音がした。


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