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 もう一人のデュリオという騎士は、図体の割に声が小さかった。ボソボソ喋るので聞き取りにくいが、特に敵意は感じない。


 用意された馬車は騎士団のものではなく、辻馬車だ。四人も乗って、乗り心地は最悪だった。

 ガラガラとうるさい中でジルドが任務の説明をし始める。


「ガルダーラ教団の司祭たちが近年、入団者を得るためにサメレの町まで出向くようになったという。ガルダーラ教はそもそも、唯一神を崇めるのではなく、大司教ソリナスを現人神を祀っている。我が国にその布教を咎める法はないが、時折ふと住人がいなくなり、そうした時には決まってガルダーラ教徒が来ているという訴えが起こった。教団の布教と町人の失踪に関連性があるのかを調査する。これまでは自らやってきた入団者を受け入れるばかりだった教団が、このところ自発的に動き出しているのも気になるところだ」


 それはきな臭い。わくわくする。

 テレンツィオはうなずきながら聞いていた。


 ノーゼの反応は少し違った。わくわくしているのではなく、うっとりとした目をして語るジルドを眺めていた。


「それにしても、あなたがこのような任務に駆り出されるとは意外でしたよ、ヴィヴァリーニ様」


 様とかつけられるような身分なのか。顔がよくて身分まで高いなんて最悪だ。

 ジルドは苦笑した。


「そうだろうか?」

「ジルドは目立つからね」


 デュリオにボソボソと言われ、ジルドは頭を掻いた。


「この格好でも目立つか?」

「うん。なるべく猫背で歩きなよ」

「猫背……」


 そんなやり取りもうっとり聞いていたノーゼは、嬉しそうに続けて言った。


「いえ、そういうわけでは。騎士団きっての強さをお持ちで、その上ヴィヴァリーニ侯爵家の血を引き、極めつけは去年の生誕祭の折に陛下を害さんとした暴徒を蹴散らされたあの機知――」


 騎士団の中でも有名人らしい。興味のないテレンツィオは知らなかったが。

 確かに、そんな有名人を隠密に使うとは愚かな。


「でも、この少人数だから個々の能力が重要だ。その点でジルドの右に出る者はいないから」


 騎士と魔術師は仲が悪いのではないのか。なんだこの和気藹々(あいあい)なムードは。

 テレンツィオはなんとなく白けて窓の外を見た。フルーエティを呼びたいが、今は無理だろう。どうしているのかな、と思った。


「町に辿り着けるのは日没の頃になるから、今日はそのまま宿に泊まる。町に着いたら二人一組に分かれて、それぞれがなるべく接触しないように探ろう。一日一回、情報交換は行なう。緊急時の連絡をどうするか考えておいた方がいいな」


 ジルドが言うと、ノーゼが得意げに答える。


「魔術師同士なら連絡を取り合うのは容易いことです」


 ノーゼは自らの細い腕に嵌められていたブレスレットをひとつテレンツィオに寄越した。


「ああ、なるほど」


 金のブレスレットには透明な丸い石が象嵌されていた。テレンツィオはノーゼの意図を読み、その石に人差し指を当てた。

 小さくつぶやき、術を込める。そして、それをノーゼに返した。


「緊急時にはこの石にかけた術を発動させ、石を割ります。それでよろしいですか?」

「フン。ほら、お前はこっちを持て。石が割れたら、即刻町の門前に駆けつけることにする」


 と、ノーゼがもうひとつのブレスレットをテレンツィオに渡した。これにはノーゼの魔力の跡がある。

 嵌めてみたらブカブカだった。テレンツィオの手首はノーゼよりもさらに細い。落とさないようにしなくては。


 ジルドの屈託のない、紅玉髄(カーネリアン)のような輝きを持つ目がテレンツィオに向いた。


「僕はテレンツィオと組もう。デュリオはリオネロと組んでくれ」


 これに不服を申し立てたのはノーゼだ。――少しだけ嬉しそうなのは、ジルドに名前を呼ばれたからだろうか。


「えぇっ! そいつは入団したばかりで不慣れですから、ヴィヴァリーニ様の足を引っ張りますよ!」

「それなら余計に、僕がフォローするように気をつけよう。君は経験豊富なようだから、安心して任せられるよ」


 にこり、と穏やかに笑っている。それを言われるとリオネロも納得はしていないが、まんざらでもないらしい。

 騎士みたいな、力瘤を作って喜んでいる単細胞におだてられるとか、魔術師として恥ずかしい。テレンツィオは口を開くとそう言ってしまいそうなので無言で笑っておいた。


 ――しかし。

 この男と二人で行動するのか。

 嫌だな、とテレンツィオは思った。デュリオの方がよかった。あっちの方が楽そうだ。


 ジルドは、テレンツィオの嫌いなタイプである。ほとんどの人間が嫌いなタイプであるのは認めるが、その中でも上位で。

 呼べばフルーエティが来てくれると思いたい。



 ベルテ王国最北の町、サメレ。

 地図上では小さな町だ。海岸に近い。

 それでも、サメレに港はない。海流は渦を巻き、とても船着き場にはできなかったという。それでも昔は栄えていたのだが、現在の利便性から見て人口も徐々に減ってきている。とはいえ、未だ町と呼べる規模は保てていた。


 テレンツィオは初めて赴く。

 せっかく来たのだから、何もなかったという報告だけはしたくないものだ。

 のん気そうな二人の騎士がどう思っているのかは知らないけれど。


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