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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

あなたと永遠の舞台を

作者: ネクタイ

お題小説勝負

お題『ピコピコハンマー+演劇』

ピコンッ!



「先輩!何するんですか!」

「はっはっは!丁度、小道具であってな~つい。」

「ついじゃないですよ。もう。」

右手に赤いピコピコハンマーを持った先輩が部室で楽しそうに笑う。叩かれた頭を擦りながらつられて私も笑った。周りの部員たちも楽しそうに笑っている。

✕✕大学、演劇サークル。

私はそこに所属し、先輩やみんなと演技力を磨き合う日々を過ごしていた。それはそれは楽しい日々だった。


「今度の舞台はお前が主役だからな、期待しているぞ!」

「先輩・・・。」



この人に恋をするまでは。



「期待に応えられるように頑張ります。」

「おう!じゃあ、今日も読み合わせから行くか!」

眩しいほどの笑顔。照れくさくなって、やってやらんこともないみたいな態度をつい取ってしまう。先輩や部員のみんなはそれを演技の一種だと思っているらしくて声を上げて笑った。

好きだと言ってしまったら先輩はなんて言うんだろうか。

今回は私は王子役。先輩がライバルの王子役だ。

そして、4年生である先輩と一緒に舞台に立てる・・・最後の機会だった。

この機会を逃せば、もう先輩と演劇をやる機会はなくなるだろう。

『無様な姿だな、王子。いい気味だ。』

『何故だ!何故、私を、我が祖国を騙した!!』

『許さぬと吠えるか?泣き喚き傘下に入るとひれ伏すか?』

『貴様あああ!!』

「カット!もう少しここは、こんな感じで・・・。」

台詞一つ一つを丁寧に確認をしながら埋め合わせていく。パズルのピースがはめ込まれていく様な感じはとても気分が良かった。

「よし、今日の部活はここまで!」

「「ありがとうございましたー!」」

部員が片付けをし、ばらばらと帰っていく。部室には、私と先輩だけが残っていた。

鞄といくつかの小道具を持った先輩が私のほうに振り向きながら言った。

「なあ、このあと時間あるか?」




先輩の車に乗り込み、少し山奥にある広場のようなところに連れていかれた。

青空劇場。

ここは今やってる演目の公開会場だった。自然の中で、夜空の下で、当日は演目を披露する予定だ。数か月後に控えた舞台。先輩も私も仲間もここで披露することを心から楽しみにしている。

「やっぱいいな。こんな広いところでできたら楽しいよな。」

「はい、とっても楽しみです。」

「そうだ、試しに動き合わせてみるか?」

「いいですね。王子と対立するシーンどうですか?」

「いいな。やってみよう。」

舞台の上で距離を取り。深呼吸を一つする。

先輩が右腕を上げて、下した。

シーン開始の合図だ。

『無様な姿だな、王子。いい気味だ。』

『何故だ!何故、私を、我が祖国を騙した!!』

『好きだったからだよ。』

『きさ、は・・・?」

舞台に座り込んだ私に、先輩が近寄ってくる。

突然のアドリブに動揺していると視線が下がった。

先輩は右手に何か持っている。

「・・・ピコピコハンマー?」

「好きだったんだ。お前が俺を好きになる前からずっと、ずっと。」

「せ、先輩何を言って・・・。」

「でもなあ、俺、ダメなんだよ。」

「先輩?」

「舞台の上で輝くお前しか愛せない。」


ガンッ!


右目に生温かい、ぬるりとしたものが流れてくる。

何かで殴られたのかと時間差で分かった。

先輩の右手のピコピコハンマーが変色しているのに気づく。

「ああ、これは中をコンクリで固めてあるのさ。気づかなかっただろう?」

「なんでこんな事・・・。」

「好きだからだよ、お前のことが。だから、だから。」

何度も何度もピコピコハンマーを振りかざす。凶器と化したそれを避ける手段がない。

されるがまま、殴られるがまま。

恍惚の表情を浮かべたまま先輩が笑う。

「その王子の姿のまま、その何にも染まらない演者のまま!俺の!俺の書いた台本の上で踊ってくれ!」


劇場の光に包まれて、先輩が天使に見えた。


「それがあなたの望みとならば。」

ふらふらする頭で私はきっと笑った。

それを見た先輩が驚いたようにした後、この上なく幸せそうな顔で言った。



「ずっと、ずっと大事にするからね。俺の王子様♡」



先輩が右腕を、高く、高く上げた。

「先輩。」

「ん?」

「どうかあなたの台本シナリオでも幸せにしてね。」

「もちろん。」

そして、ゆっくりと、ゆっくりと振り下ろした。

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