九月のトマト
うらなくてをりしゑ
めぐしうつくしいくらもはなといまだふふめる
そのまますつもいとほしとて
みずになげし
さみだれをみやりつつ
気づけば細き白き根を伸ばす
そのさまがいじらしと
土に植えたは
あれは文月か葉月
喉焼けるほどの暑さ
青い空から注ぐ光
赤に白に白金に
いずれにせよ眩しく
たち昇る陽炎の帷ものともせず
朱雀降り立つ
朱夏の名に相応しく
土に植えたならば
さてこそ
水やらざるや
青雲の白き粉ふく荒金の土
久方の雨に濡れてぬばたまの黒に
などとひとりごつも
様体なり
いまだ夏の名残は色濃く
世は暑く蒸す
ただ空は高くなる
日の光は趣を変える
光の色は淡くなり
白きものちらほら
髪に混じるがごとく
さやかにはみえねども
ただのおとなひにはあらぬ
かぜのおと
そよとこたゆるあきのこえ
かすかに
白に緑に赤に黄に
季節の色が混じる
ふと見れば
いつの間にか
細き枝は太い幹となる
根を張り枝をのばし
緑の葉に
白い光を絡ませて
揺れるはトマト
トマトよ
トマト
九月のトマト
兄弟姉妹が聞いたは蝉時雨
嫋嫋とは心得ず
たとひ久しからずとも
おごれる心もたけきことも
皆とりどりに
風を紅に染めぬばかりに
木が根からゆれぬばかりに
その響きに耐えかねて落ちかねぬほどのたわわな花
むすびしよりあふれてこぼる
それ思いおこせば頼りなげな
さりとてそれは図太くしたたかに
長くなる影を擦り抜け
或いは絡みつき
日毎短くなる日の光
掠め取るように
夜毎増す
月の光
その身に浴びる
トマトよ
トマト
九月のトマト
ふと見れば
緑の葉の影
ここにふたつ
かしこにみっつ
大粒の緑のまろい
紛れもなくトマト
土の近くに見える赤く光る
紛れもなくトマト
昨夜の野分にも怯むこともなく
白い日を浴びて
おもはゆげに
されど伸びやかに
産毛をそよがせる
トマトよ
トマト
ゆっくりゆっくりと
まろい実は膨らみ
ゆっくりゆっくりと
染まっていく
トマトよ
トマト
九月のトマト
高くなる空の青
黄金と白とを交えながら
降り注ぐ日の光
赤を添えるは
何もうつろう紅葉ばかりでもなし
そう言わんばかりに
艶やかに
誇らかに
トマトよ
トマト
九月のトマト
今が
今こそが我の盛りの時と