春乃、由紀視点
お待たせしました、お待たせしすぎたかもしれません
【藍坂春乃視点】
いつから一緒にいたなんて覚えてないし、いつから彼を好きになったのかも覚えていない、それくらい私と彼は長い間同じ時間を過ごしている
だけど、今でも鮮明に覚えていることがある
あれはまだ、私達が中学生に上がったばかりのことだった
♢♦♢♦♢♦♢♦
「あぁ、ああ、ああああああ」
「落ち着け明人!大丈夫私達がついてる!」
「そうです明人!だからそんな顔は…、そんな顔はしないでください!」
遊びから帰り明人の家に帰ると、私達を待っていたのは温かい家族の言葉ではなく、明人の家族と家を焦がす灼熱の炎だった
「お母さん、お父さん、海斗」
そこにないものを掴もうと、必死に手を伸ばす明人、目の焦点が合わず、口はだらしなく半開きになり、顔中の穴から水滴が垂れている、とても直視できぬほどの惨状だった
「なんで、なんでなんで、なんでぇ」
私はここで明人を離してしまうと、明人ももう手の届かぬ所に行ってしまうのではないかと、さらに明人の腕をつかむ力を強めた
「どうしてなんだよぉおおおおおお」
明人に聞こえるように、必死に呼びかける
「大丈夫、大丈夫だ!明人!お前には私達がいる!絶対にお前から離れない!私達がお前を守ってやる!大丈夫だ明人!」
「うあ、ううう、うああああああ」
その時の明人の顔は、私は一生忘れることはないだろう
それから私は明人を守れるように必死に努力した、苦手だった運動もし、もとから得意だった勉強もさらに努力した、そして気づけば学校のアイドルと呼ばれるようになった
だけど、本当は気づいていた、私がどれだけ努力しようと、明人の心は満たされないと
最初から大切な人達の代わりになんてなれないと、わかっていた
♢♦♢♦♢♦♢♦
その背中に、必死に手を伸ばす、しかしその手はもう、届かない
「明人、あきとぉ、お願いだから待ってよぉ」
この姿を見たら、私を知る人なら驚くだろう
軽蔑するだろうか?がっかりするだろうか?だけど、私はただ泣くことしかできなかった
【穂希由紀視点】
私は小さい頃、とても弱かった
地元の名家に生まれ、外国人の母から受け継いだ金色の髪を持った私は、色々な意味で集団からあぶれていた
幼少期特有の無邪気な悪意にとって、私は格好の獲物だったのだろう。物を隠されるのは当たり前、酷いときには石を投げられたこともあった
親に相談しようと思った時もあったけど、「誰かにばらしたら殺すからな」と言われ、結局相談できず、学校に行くのが億劫になっていき、仮病を使って学校を休むことが多くなった
生きることが辛くなった、自殺しようと思ったことなんて何度もある、だけど最後には怖くてすることができなかった
だけど転機はちょうど三年生に上がった時に訪れた
私が教室入ると
「うわ、最悪。またうんこ髪と一緒かよ」
「あれ、そういえばなんか臭くね」
「多分うんこがいるからじゃねぇのw」
「おーいうんこ野郎ww」
子供の言葉だと思って必死に聞き流す
「え、あいつ俺がせっかく呼んでやったのに無視しやがったぞ」
「こいつ調子乗ってやがるな、みんなシめようぜ!」
連中がニヤニヤしながら近づいてきた、私は全力で腹に力をこめる、痕がつくため流石に連中も顔は殴らない、でも外から見られない所は普通に殴られるからだ
「うーん、でもそれだけじゃつまんないな、そうだ、こいつの髪きってやろうぜ!」
「お、それ名案ー!」
「ハハハ、感謝しろよ、今日からお前はうんこ髪からハゲだ!もうこれでうんこって呼ばれねぇなぁww」
涙で視界が霞む、私の髪はお母さんがくれた大事なものだ、私はどうなってもいいけどこの髪だけは守りたかった
「ちょっと待て、こいつ泣いてやがるぞw」
「プークスクス、マジ笑えるw」
死にたい、自分がとてもみじめだ、こんなことになるなら本当に死んでいればよかった
その時だった 、彼に出会ったのは
「はい、じゃあばさ...ッー!」
「おいてめえら!さっきから黙って見てりゃ好き勝手しやがって!女子一人を大人数でいじめるとか恥ずかしくねぇのか!」
まるで物語のようだった、姫のピンチに駆けつける勇者、彼はソックリだった
「な、なんだよてめえ」
「何でうんこ髪を庇うんだよ、コイツにキでもあんのかよ」
「好きとか嫌いとか関係なく!女の子一人に酷いことすんのは間違ってんだよ!」
心が急に暖かくなった、心の中が初めて知る感情でうめつくされた
「やべえコイツ葉山明人だ!同級生が六年にいじめられたからって、喧嘩吹っ掛けてぼこぼこにしたやつだぞ!」
葉山明人、それが私が初めて恋した人の名前だった
「六年やっつけた所でなんだ!所詮俺達と同じ三年生だぞ!全員でかかれば倒せる!」
「よっしゃあやっちまえ!」
それからは乱闘騒ぎだった、幸い直ぐ担任が来たため、喧嘩は一瞬で終わった。学校側も本来なら保護者同士の話し合いを促すだけだが、いじめられた側が私だったこともあり、強硬的な対応を取らざるを得ず、相手側の転校ということで話しは終わった
いじめは終わったが、私が負った精神的な傷は取れず、度々発作が起きた、その度に彼は「大丈夫か?」「辛くないか?」と、きにかけてくれた
一度「何でこんなに私に優しくしてくれるんですか?」と聞いたことがある、彼は「俺はヒーローだから」と答えた、その言葉を聞いて私は大笑いした、その時のふてくされた顔は今でも覚えてる
私は努力した、ただひたすらに努力した、明人にとってのヒーローになれるように努力した、私が彼にとっての一番になれるように
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「ごめんなさい、ごめんなさい明人...」
私は後悔する、ずっと後後悔し続ける
失ったものは、もう戻ってこないと知りながら
まずは本作の掲載が遅くなってしまったこと、大変申し訳ありません
少々リアルの方で問題が起きてしまい、1ヶ月ほどもお待たせさせてしまいました
そして本作ですが、短編にすると文字数がえげつないことになってしまうため、二部構成といたしました
舞花視点もできるだけ早く更新できればと思っております