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ショートショート7月~

雷さまとへそ

作者: たかさば

ド―――――――――――!!!


…目の前に広がるのは、視界を遮るほどの豪雨。

私は、キッチン横の窓から豪雨の様子を窺う。


庭に置きっぱなしになっているバケツに、見る見るうちに雨がたまって溢れかえって…はは、ひっくり返った。なるほど、バケツをひっくり返したような豪雨が、バケツをひっくり返したと。


うーん、出かけようかなと思ってたんだけど。

これでは車まで行くこともままならないな。

うちはカーポートがないので、雨の日に車に乗ろうと思うと傘を差していかなければいけなくてですね。


雨が止むまで小説でも書きますか。

トントントンと、湿気の多い階段を上って二階の自分の部屋へと足を運ぶ。

こんなじめじめとした日は…書いてくれと願う物語たちがね、やけに私に絡んできてね?

文字を打ち込む、私の手が、やたらと勢いを増したりするんだよねえ…。


調子よく物語を書いていると…。


ごろ・・・ごろ・・・ごろ・・・。


むむ。この音は、雷だな。

比較的高さのない家とはいえ、落ちる可能性は無きにしも非ず。

きりのいいところで物語を終わらせて、パソコンを切る。


ガラーン!!ドカーン!ピシャーッ!!

ゴロンゴロンゴゴゴ…!!!


「これはすごい、雷様の無双キター!」


二階の窓から空を見ると、相当な稲光がピッシャンピッシャンと!!!

いやあ、いつ見てもこの豪快さはしびれますなあ。

…電気だけにね!!!


しばし芸術的な空を眺める。

ちょうど真正面に稲光を捉えることができるとなんか得した気分になるんだよねえ。


ああ、ずいぶん落ち着いてきた、この隙に晩御飯用のスペアリブ煮込んどくか…。

雷鳴轟く中、キッチンに向かう。ふふん、じっくり煮込んで夜は肉祭りじゃ!!



「ねえねえ、すごい虹が出てるよ!!」


元気のいい声でふと我にかえる。部屋の中がずいぶん明るい。

さっきまでの豪雨が、嘘のように晴れ渡っている。


キッチン横のバケツのひっくり返っている庭に面している窓から、大きな虹がかかっているのが見えた。

これはすごい、虹の色合いがまるで違う。うっすらかかる虹ではなく、くっきり!!


「おお!めっちゃ綺麗!!写真写真!!」


大喜びで家の中から写真を取る私の足元には。

…虎のパンツに、二本の角、はは、この子雷さんじゃん!!!


「ちょ!!あんたこんなとこにいていいの!!!」

「うーん、雲に乗りそびれた…。」


うう!!大人の雷さんなら怒る事もできるけど、ちびっ子じゃああんまりきついこともいえないな。


「どうする、だれか呼ぶ?」

「ううん、もうじいちゃん呼んである。来るまでここに居てもいい?」


「いいよ!!」


無下に断るわけにも行くまい。…ちょうどスペアリブも煮えてきた、味見ついでにご馳走して差し上げますかね。


「良かったらこれどうぞ。」

「いいの?!ありがとう!いただきます!!」


雷さんは大喜びでスペアリブに噛り付いている。

まだお子様だな、口のまわりが大変なことになってるよ!!!


「どお?まだちょっとかたいかも?」

「ううん!!めっちゃおいしい!!」


尖った八重歯でうまいこと肉を剥ぎ取って食べている。

いいなあ、八重歯。育ったらきっとかっこよくなるに違いない。


「やあやあ、坊が邪魔しとるようですまんすまん。」


庭のほうから・・・あれ、竜神のじいちゃんだ。


「おとっつぁんはどうしたの。」

「まんだ太鼓鳴らしとるで、わしが来たのじゃい。」


ああ、よく見ると虹が出てるけど、遠くのほうは黒い雲があるな。

筋雲に紛れて竜がいっぱい飛んでる、今が帰り時か。


雷さんの口を蒸しタオルでくるりと拭いてあげてと。


「これ、お土産。父ちゃんにも食わせてあげな?」

「ありがとう!じゃあ、僕も…これ!お礼!!」


ずさ――――――――――――――!!!!


ん?!

何じゃこれは。

雷さんが虎のパンツのポッケから出したのは…げえ!!!!!


「これ!!へそじゃん!!ええとね!!うん、君大切に持っておきなさいね?!気持ちだけもらっとくから!」

「そお?おいしいのに!!」


「坊…人はへそを食わんのじゃ、ふぉふぉふぉ!!!」


じいちゃんはひげをふさふささせながらニコニコしている。


「じいちゃんはどうするの、お肉持ってく?」

「わしは歯が無いでな。気持ちだけもらっとくよ。」


何だ気持ちのやり取り多いな。

まあいいや。


「じゃ、気をつけてお帰り。」

「うん、またね。」


急なお客様は、あわただしく帰っていった。

じゃあ後は、ご飯を炊いて、サラダ作って、スープ作って、かに玉でも作っておくかね。

見送った庭の窓を閉めてキッチンに向かうと、足元に…へそが一個落ちとる!!


「わあ!!どうすんだ!!これ!!!」


まさか食うわけにも行くまい。

かといって自分の腹にはもうへそはあるわけでっ!!!


まずい、まずいぞ…!!


早くしないと子供たちが帰ってくる!!!


けろ、けろ、けろ・・・。


!!!雨が止んだからか、かえるの鳴き声が聞こえてきた!!

よし、こうなったら…。


バケツの転がる庭を見ると、おお!!バケツの上にかえるがいる!!三匹もいる!

よし、あいつに押し付けよう。


私はかえるたちに気付かれないよう、そっと庭に続く掃きだし窓を開け、へそを投げた。

へそが三匹のかえるの一番右の奴にくっついた!!


…かえるは自分にへそができたことなど微塵も気が付かないでケロケロとないている。


来年へそのあるかえるがわんさか生まれたらどうしよう。

…まあ、大丈夫か、こんな片田舎の庭で繁殖するかえるなんてたかが知れてるし、うん。


いざとなったら白蛇の人に頼んでもいいか。


けろ、けろ、けろ・・・。

けろ、けろ、けろ・・・。

けろ、けろ、けろ・・・。


私はへそのあるかえるとへその無いかえるたちの合唱を聞きつつ、夕食作りに精を出したのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 雨ばかりで鬱陶しい日々ですが、たかさばさんの小説を読んで気持ちがほっこりしました。 へそのある蛙! もし本当にいたら、蛙学会(あるのかそんな団体?)が上を下への大騒ぎですね(;^ω^)
[良い点] 素敵なお話です。癒されました。 [気になる点] ヘソガエル、大繁殖間違いなしですねw
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