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転生騎士物語  作者: aogami
第一章 〜神の恵み〜
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ドレルクでの滞在


西暦1798年年度

第三回 聖なるライツ連合帝国臣民への加入審査会の調査報告書


第13号 臣民加入希望者情報 


名前:レーヌ・ダンケル


生年月日:1781年12月4日


出身地:ヴェーデル王国スー・ホルム郊外


学歴:国立スー・ホルム神学校

   エテン・ドルク大学


魔力値:7/10(帝国基準)



以下審査官の備考


審査室へ入ってきた時の印象および外見特徴としては腰ほどまである長い金色の髪、青い目、白い肌とヴェーデル人の特徴を捉えていたので虚偽はないと思われる。

体型は小柄で痩せ型、貧乳。

また、服装も白いブラウスと黒いワンピースを着ており、質素な印象を受ける。

服装と容姿、体型から実年齢より幼く見える、また、神学校に行っていた事や外見からして純粋そうでスパイなどを行うようには見えない。

また、祖国について質問した際は父母への感謝などを述べ、祖国の王家への熱烈な忠誠などが見受けられなかった為、やはり、スパイの可能性は低いと思われる。

魔力適正の申告も虚偽はなかった。

よって、臣民加入許可は出しても問題はないと判断した。

全てを加味した上で最終判定を皇帝と、その眷属に委ねることをここに誓う。 


         帝国臣民加入審査会第3審査員

            アルフレッド・レーゲル




西暦1798年5月2日


「やっと着いたぁ〜!」


9時間の長旅を乗り越えて、とうとうドレルクに着いた私は馬車から降りて、背伸びした。

途中、盗賊の出ると言われている山を越えなければならなかったので、夜は危険と判断され山の麓の村で一泊した。

なので、今は馬車に乗った次の日の朝である。

一泊すると聞いた時は少し焦ったが早朝には着けたから計画の反省点はなしにしとこう。


まだ、早朝にもかかわらず、ドレルクの馬車乗り場は人でごった返していた。

あちこちから馬と馬車の車輪の音、人々の話し声が聞こえてきて少しやかましい。


「おやおや、元気だね〜」


背後から話しかけてきたのはヤーバンさんだった。

彼女は一緒の馬車に乗っていたライツ人のおばさんだ。

息子の結婚式の為、帝国とイレドニアの国境付近の村まで向かうらしく、一旦ドレルクまで来たらしい。

ヴェーデル人の私を差別せず気軽に話しかけてくれた上、とても優しい人だった。

だが悲しい事に、彼女とはここでお別れになる。

9時間以上も共に過ごした人との別れはとても辛い。

だが、まぁこれも旅の醍醐味なんだろう。


「ええ、まぁやっと着いたことにホッとしちゃいまして…」


私は少し照れて返事を返した。


「そうね。それは何よりだわ。じゃあ、おばちゃんはここまでだから、あなたとのお話はとても面白かったわ!またどこかでね!」


「ええ、ありがとうございました!旅の成功を祈っております!」


私はそう言って彼女と別れた。


去っていく彼女の背は、懐かしい前の世界の母を思い出した。

女手1つで俺を育てた母…

結局、あの母には後悔だけが残る。

恥さらしの俺なんかほって楽しく元気に生きてて欲しいとだけ願う。


おばちゃん!バイバイ!


しばらく、おばちゃんに手を振っていたが、彼女も見えなくなったので、そろそろ移動しようと思う。

だが、一旦ドレルクの街を改めて眺めた。

ここはレギオンより背の高い建物が多い。

赤い屋根が密集して並んでおり、6階建の建物なんかはザラにある。

また、街の中央辺りには大聖堂がそびえ立っている。

綺麗な街だ。


私はしばらく眺めていたが、またボーッとしてたら嫌な虫がつきそうなので宿屋を探すことにした。

もちろん自力で。


馬車乗り場のすぐ近くに『龍のケツに刺さった剣の洗い場』という宿屋を見つけ、そこに泊まることに決定した。

うん、ネーミングセンスよな。

ここの宿屋の名付け親の脳内を眺めてみたいわ。

でも、なんか逆に泊まっちゃったわ。

なんか、逆にこの名前で続くから良いんじゃね?って思っちゃったわ。


中は綺麗で1階には食堂が併設されており、部屋の価格もレギオンに比べて少し高い。

だが、まぁ5階の眺めのいい部屋を使わせてくれたので、よしとしよう。


ゆっくりベッドで休みたいところだが、審査会は正午の鐘の後、3回目の鐘が鳴った時に開始されるみたいなので、ちょっと無理そうだ。

だがまぁ、正午の鐘はあと2回くらい後に鳴るので、しばらくは自由にできそうだ。

なので、街の観光ついでに審査会の行われる『ドレルク中央劇場』の下見に行くことにした。


街を歩いていると、その賑やかさに驚かされる。

まだ、朝早くだというのに街の所々にある広場では朝市が行われており、活気に満ちている。

帝都のベルクールは逆にお上品な感じがして、ドレルクとは少し違う。

市内巡回乗り合い馬車もあるので移動には困らなそうだ。


しばらく歩いて行くと街の中央広場に着いた。

とても広い広場で他の広場とは違い、少し静かな場所だ。

また、大聖堂が広場の北側にあり、人々の憩いの地といった雰囲気を醸し出している。


そして、中央広場の東側から伸びる道を少し行った所に『ドレルク中央劇場』はあった。

中央広場がすぐ近くにあるのに、この劇場前も広場になっており、大きな噴水がある。

劇場は3、4階建くらいだと思う。

豪華な石造りで正面玄関上には誰かの馬に乗った大きな銅像があった。


それを見ていると、他の時に鳴る鐘の音とは違う別の鐘の音が鳴り響いた。

どうやら、これが正午の鐘の音らしい。

あと、もう少しっぽいので近くのカフェでも探してそこで待っておくことにした。




ドレルクの名物スイーツ『ドレチ・ドルク』

卵や牛乳、蜂蜜をたっぷり使った甘いパン(元の世界で言うところのホットケーキの甘い感じ)に山のような量のクリームと独特な甘さのシロップがたっぷりかかっている。

味はとにかく甘い。

なんだか、この世界の食べ物は極端だ。


それとコーヒーを飲みながらカフェのテラス席に座っていると、


「あんた…ヴェーデル人か?」


道を歩いてきたボロボロの服装の男が話しかけてきた。

どうせまた差別的なことを言われるんだろう。

だが、無視するのも気が引ける。


「ええ、そうです」


そう答えると男はやっぱりなっと言ったような顔で続けて言った。


「少しでいい…金を貸してくれないか?」


おそらくライツ人だろうが、馬鹿にしたような顔をしていたかと思えば今度は金を貸して欲しいと懇願してくる、正直驚きだ。

こんなことでお金を渡してもらえるとでも思っているのだろうか。


「すいません…私もあまりお金を持っている訳ではないので…」


どうせ、ヴェーデル人はお人好しだからとか、そんなことを考えたんだろう。


「いや待ってくれ、必ず金は君を探し出して返す…少しでいいんだ…せめて100ゲルだけ…もう今日の晩飯すらもないんだ…借金でな…」


はっきり言って面倒臭い。

これ以上絡まれて何か面倒なことをされたら余計、面倒臭さは増すだろう。


私は大きなため息をつくと、


「私は当分はここに滞在します。なので、宿屋まで必ず返しに来てくださいね。それと、もうこれ以上は絶対に渡さないから、それは理解して欲しいです」


正直、100ゲルなんて私からすれば安い。

ここは助け合いの精神を発動する事にした。

どうせ返してくれないと思うけど、面倒臭いのは嫌だし渡しておこう。

審査会前のリラックスタイムをこれ以上、邪魔されたくないし。


私は100ゲル金貨を男に手渡した。


「ありがとうございます、ありがとうございます。この恩は決して忘れません」


「返してくれることを信じてます」


まぁ信じてなんかいないけど、一応言っておいた。


「あ、あのそれでどこの宿屋に泊まっているのですか?返そうにも場所がわかなくちゃ…」


あ、やらかしたわ。


「り、龍のケツに刺さった剣の洗い場ってところ…です」


もうね、それはそれは恥ずかしいよね。

さっきまで凄いこの人優しいー!って感じで見てた人が今は必死で笑い堪えてるわ。

過去の自分をぶん殴りてぇ。


「あ…ありがとう…ござい…ます!い…一応名前を言っておきますね…ダル・ロットです…お…お名前お聞きしても?」


もういいよ?笑って。

わかってるから。

めっちゃ堪えてるじゃん。


「レ、レーヌ・ダンケルです…」


「あ、ありがとうございますー!」


そう言い残して男は去って行った。

清楚そうな女の子の泊まってる宿屋があれとは…って感じだろうね。

仕方なく泊まってるんだろうなって感じといて欲しい。


はい、リラックスタイムはブチ壊れました。




しばらくすると、審査会場への入場が開始されたようで衛兵と役人が集合を呼びかけていた。

私もそれに応えて集合場所へ行った。


集合場所は劇場の前で、まだあまり人は集まっていない。

役人は私に近づいてきて話しかけてきた。


「君は審査会に来たんだよね?」


「はい、レーヌ・ダンケルです」


名前を言うと役人はペラペラと持っていた書類を見ていき、


「レーヌ・ダンケル、ヴェーデル人の17歳だね?」


と、尋ねてきた。


「はい、そうです」


「必要書類を準備して中へ、君の番号は13番ね」


そう言うと役人は他の人の所へ向かって行った。


今になって少し緊張してきた。

面接での失言や書類不備なんかがあれば大変だ。

背後から聞こえる役人や衛兵の呼びかけの声が緊張を増幅させる。


「よし、やるぞ!」


そう言って、私は自分を励まし、劇場内へと入って行った。






「はぁ〜終わった〜」


審査会が終わって外へ出る頃、もう日が傾き始めていた。

中では1対5の面接と質問書類の不備がないかの質問を受けた。

実際に審査を受けた時間より待ち時間の方が長くて非常に疲れた。

もう相当長い間、何も食べていないのと緊張からの解放で一気に腹が減ってきたし。

もうクタクタだ。

だが、まぁ出来は良かったと思う。

別に変なことをしたわけじゃないし、審査員の人からの反応も良かったように見えた。


審査の結果は一週間後に宿屋に手紙で送られるらしい。

宿屋の名前を聞かれた時は本当に恥ずかしかった。

しかも、審査員全員笑い堪えてたし。


「よし、腹ごしらえしに行くか!」


私は気分転換がてら、劇場近くの食堂探しに出た。




劇場近くの食堂『ドマゴの食堂』の奥の席に私はポツンと座っていた。

食堂とは言うが、実際は酒場に近い感じで仕事終わりの男達が酒を飲んでおり、実に賑やかな雰囲気である。

私は頑張った自分へのご褒美に今日は少し高いステーキを味付け超濃いめで頼んだ。


料理を待っていると、


「よう、嬢ちゃん。あんた、ヴェーデル人かい?」


と、背後から話しかけられた。

振り向いて見てみると、そこには筋骨隆々の大男が立っていた。

ライツ人と思われるその男は見下げるようにこちらを見ている。

多分、ヴェーデル人の私がいるせいで飯が不味いから出て行けとでも言われるんだろう。

はぁ、最悪だ。

料理の代金返してくれるといいけど。

まぁ帝都にいた頃に、こんなことは山ほどされたのでちょっと慣れているが、やはりこういうことをされると本当に辛い。


「ええ、そうですが、何か?」


私がそう答えると男はニヤニヤと笑いながら、言った。


「いや〜ごめんね!嬢ちゃんすごいべっぴんさんだからつい声をかけちまったよ!1人?一緒にご飯食べない?奢るよ!」


私はポカンとなった。

そして、そんな私を他所に。


「おいおいフランク!なに美女と2人で飯食おうとしてんだよ!俺たちも入れろよ!」


なんて事を言いながら沢山の似たような筋骨隆々の大男達が私の席に集まった。


「何才?」


「学生?」


「お酒は飲む?」


なんて感じの質問があちこちから飛んできた。


みんなガヤガヤと楽しそうな雰囲気で接してきた事にとても驚いていると、


「なにポカンとしてんのよ?どうかした?あ、嫌だったかな?」


なんて事をフランクと呼ばれた男性が私に聞いてきた。


「あの…私はヴェーデル人って言ったんですよ…」


私は弱々しい声で彼らに言った。

すると、彼らは


「ああ、ちゃんと聞いてたよ?だからどうしたんだい?」


って感じで返してきた。


「その…嫌じゃないんですか?てっきり私は出て行けだとか飯を寄越せだとかセクハラじみた事を受けるのかと思ってたんですが…」


「うん?セクハラってなんだ?いやまぁいいか。そんな事言わねぇよ。俺たちは差別は嫌いだ。おんなじ人間なんだし仲良くしようぜ。なぁみんな!?」


フランクさんのその言葉に周りも、


「そうだ!そうだ!」


「美人さんを差別なんてしねぇよ!」


「安心してよ〜嬢ちゃん!」


みたいな感じの事を沢山言ってきた。


私もその言葉に心を許して、みなさんと食べる事にした。

その後は、もうみんなでご飯と酒をたらふく食べて、たらふく飲んだ!

もうそれはそれは楽しんだ。

なにせ帝都にいた頃はこんなに楽しく接してくれる人がいなくていつも1人でご飯を食べてたからそれはそれは楽しかった。

てか、家族以外の人とこんなに楽しく食事をすること自体が、この世界で初めてだった。


どうやら、帝都の人達はすごく排他的で外国人を嫌うらしい。

だから平気で差別をするそうだ。

だけど、帝都以外の都市、少なくともドレルクでは外国人への差別をする人は全然いないそうだ。 

むしろ、差別なんかする奴は嫌われているそうだ。


いや〜それにしても楽しかった!

途中からほぼ記憶がないが、みんないい人だからそんなセクハラじみた事なんかはされなかったし、安心して楽しめた!




気がつくと、私は酒場のテーブルに手で枕を作って寝ていた。

どうやら今は深夜のようだ。

夕方から飲んでいたんで相当長い時間ここにいた事になる。

あーやっちゃった。

周りを見渡してみると、フランクや他の大男達(多分名前聞いたけど忘れた)が床に寝ている。


しばらく頭痛えとか思いながらぼーっと席で水を飲んでいると、店主の男性がやってきた。


「お嬢ちゃんすごいね…記憶ある?お嬢ちゃん酒の飲む量もすごいけど、周りの男を軽々と投げた時はほんと驚いたよ…」


なんて事を半笑いで言ってきた。

あーあーやべぇ。

この世界のお父さんから剣術や体術を習ってたおかげで実は私はかなり強い。

大男とは言え武人でない彼らであれば、私は軽々投げれてしまうのだ。


「す、すいませんって言っといてください…」


私も半笑いで申し訳なさそうに店主さんに言った。


「あ、ああ…あはは…お、お会計はフランクさんが出しといてくれるらしいから帰ってもいいよ…早くしないと朝になっちゃうしね…」


「あ…はい。ほんとすいません!」


もう恥ずかしすぎて頭を高速で下げて足早にその場から去って宿屋へ向かった。


はい、私やらかしすぎました。


禁酒します。


明日くらいにみんなに謝りに行きます。


もうほんと、ごめんなさい。


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