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ヲタク高校生は恋できない  作者: 悪ッ鬼ー
第二話 ~秘密~
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第二話 ~秘密~(1)


 時が刻むスピードはいつもより早く、残りの約二週間も一瞬で終了を迎えた。長くて短く、孤独で詰まらない。更に課題が多いこの期間は、あまり好きとは思えなかった。

 だが、今回の夏休みは楽しかった方なのかもな。

 僕は澄ました顔で、八月二十日に作った思い出を、脳内で思い返していた。


「何すました顔してんだ。集中しろぉ。俺もボランティアで見てやってんだからさ」


 今僕は、放課後の時間を使用し、眼鏡を掛け、髪の毛がもじゃもじゃな事が特徴的な、担任のたちばな 広希こうき先生の前方に座り課題を頑張っている。ただし、今日の課題ではなく、過去の課題。つまり、夏休みの課題だ。

 最初は計画的に課題をやれていた。だが、いつからだっただろうか。段々とやらなくなっていき、結局課題を終わらせる事は出来なかった。それ故に、今こうやって苦労を強いられているわけだ。


「ほらぁ。今日はあと十ページ終わらせないと帰さないから」


「えぇ!もう二十ページはやっているのに」


「言っておくが、そうしないと一週間で終わるかどうか分かないからな?」


 橘先生はあきれた顔で首を振って見せた。

 今日だけで三十ページとなると、残りはだいたい百二十ページ。

 僕は一瞬だけ頭の中が真っ白になった。だってそうだろう?十ページするのにも長時間かかるのに、それをあと何回も繰り返してって。きついや怠いなどの比じゃないぞ。


「ほら、そんなに呆けている暇はないぞ!俺も今日は合コンで頑張るから、お前も課題を討伐しろ」


 そう言って、合コンの為に備えてなのかどうかは分からないが、教卓に体を預けてそのまま寝てしまった。

 この時、僕の脳裏に『逃走』と言う二文字がよぎった。早速荷物をまとめて、逃げようと席を立った瞬間―――――


「浅木、何逃げてんだ。逃げたら家までついて行ってやるからな」


 冷や汗を掻いた。先生は起きていない。だが、先生は夢の中の僕に言っている。

 夢は自分が思った事などを整理するために、それが夢になって見えていると聞いたことがある。つまり、さぼったら明日、本当に僕の家まで来る可能性は否定できない。


「よし、あと十ページだったよな」


 僕はそれがとても恐ろしく、巻き戻しをするかの如く、筆箱や課題を再び出して課題をやり始めた。

 一瞬、橘先生の目が光った気がした。

 答えは自分で持っている。そして先生は眠っている。これは、イカサマチャーンス到来。答えを見て一瞬で―――――

 ここで、僕はふと思い出した。今は数学のページ。これは計算式も書かねばアウト。故に、頭脳が冴えない僕にとって計算式を全部完璧に書いてたら違和感ありあり。故に自力で解くしか方法は無い!

 僕は数学との死闘を長い時間繰り広げ、やっと終戦を迎えた。


「手強いモンスターだったぜ。また明日も同じ戦いをすると思うと、ゾクゾクする。【訳】難しすぎだろこの問題はよぉ!また明日も同様にやると思うと、恐怖で身震いしてしまう」


 居残りをやり始めたのは四時三十分くらいからだったが、今帰る時にはもう六時三十分と、三十ページするだけで二時間もかかってしまった。

 疲労で眠いと感じるこの体を、家まで運ぶのが今からの任務。途中でダウンしたら任務失敗。

 これから電車で帰ることになるが、その電車に乗っている時間は静寂に包まれていて、強力な睡魔が潜んでいる。その睡魔に抵抗せずに身を任せてしまうと乗り過ごし、無駄な時間をかけてしまう。寝ては駄目だ。寝ては駄目だ!

 改札口を出て、電車に乗り込む。空いている椅子に腰を掛けると、睡魔が一気に僕を襲ってくる。更に、その静寂なる空間に、電車のガタンゴトンッなんて音は、まるで子守唄の様だ。

 だんだん、瞼が重くなり始める。自分ではとても開けられない程に。

 やばい、ダウンする。


「私が居て良かったね」


 その声は、僕を取り込もうとする睡魔を払い、正気にへと戻す力を有していた。その声の主は―――――


「花園か。お前も居残りか?」


 花園は僕とは別のクラス。恐らく、花園も課題をやっていなかったのだろう。


「お前もって事は、浅木くんは居残りだったんだ。私は違う。女子の友達が帰ったら、男子がいっぱい来て」


「話に付き合わされて帰れなかった、と」


 花園はコクリと頷く。否、寝ようとしていたのだ。


「おいおい、僕を起こしたのに、お前は寝るのか」


「うん。おやすみ。駅は浅森くんと、一緒」


 その言葉を言い終えると、背もたれに身を預け寝てしまった。


「え、そうなのか?そんな偶然もあるんだな」


 完全に目が冴えた。別に良いのだが、花園が寝ていると思うと不思議と敗北感がある。

 僕達は電車に揺られながら、次の駅、次の駅と進んでいく。それにつれて眠気も襲ってくるが、僕はそれにはもう屈しない。

 家近くの駅に着いた時には、もう七時を過ぎた時間帯だった。


「おい。着いたぞ。て」


 鞄を持ち、立ち上がり、花園も同じ駅らしいから起こそうとした。花園が座る左側を向いた時には、花園も鞄を持ち、立ち上がろうとしていたところだった。


「あの時電車で言ってた事本当だったんだな」


「あの時・・・・・まだ覚えてたんだ」


「まぁな」


 あの時、二十日に映画を見に行った時、言っていた事だ。

 この時正直羨ましいと思った。この能力が。


「じゃあ、私帰るね。また明日」


「お、おう」


 これでやっと任務は達成、か。

 と思っていたのに。


「電車が発車します」


 僕が電車を降りる前に扉が閉まってしまった。


「おいおい。まじかよ・・・・・」


 僕はこの後、重い足を引きずりながら歩いて帰ったとさ。チャンチャン!

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