第一話 ~表は花、裏はヲタク~(3)
「さて、ほとんど見終えて、三十分ジャスト。この後天ノ河に今回の事情を説明して貰って映画を見たら終わりか」
「あ、」
唐突に展覧会側から、思わず出たかのような間抜けな声が聞こえてきた。人間とは不思議なもので、すぐ後ろで声を出されたら思わず向いてしまう。これは僕だけかな。それが今回災いした。
「たしか、浅森くん?」
後ろに居たのは二年三組の花園 美甘だった。とりあえず面倒くさい。
「やぁやぁ、花園さん。僕の名前がグレードアップしているけど、浅木だからね。そろそろ覚えろロリッ娘が」
花園は小学生と見間違えられるように小柄な体形で、その体格故に女子からは大人気だった。いつもボーっとしていて、何を考えているか分からない。ちなみに天然っ娘だ。男子の方はロリ属性がちらほらと花園にちょっかいを出しては、他の女子から気持ち悪がられるから男子は近づけず、花園は男子とはあまり接点がない。
だが、何故か自分からは男子に話しかけないくせに、何故か僕の方には近寄ってくる。そしてある一冊の本を持ってきた。それは、ヲタクの恋は一度きりの小説だ。
天ノ河同様に可愛いとは思う。だが、こんなロリッ娘がこんな本を持ってきて本当にビビった。勿論嫌悪感も感じてしまった。この娘、花園が可愛いと思えなくなってしまった。あまりのギャップ故の結果だ。さらには、こいつが話しかけてくるせいで、花園守る会の野郎どもが、僕を毎日観察しているんだ。本当に迷惑でストレスが溜まる。
「うん。浅木くん。さっき言ってた天ノ河って、浅木くんと同じクラスの天ノ河さん?」
「え?ん、いやっぁ・・・・・」
僕はここで、言ったらどうなるか、脳内コンピューターで計算したところ―————
(DEATHね)
ここで教えたらいつも変装している意味を無視することになってしまう。天ノ河は、美少女がヲタクだと恥ずかしいとか言っていた。ここで言ったら、その情報が拡散するかもしれない。それはどうやって知ったのか、辿ればいつかは僕のもとに来る。天ノ河から殺される事は目に見えている。
ここはごまかすか。今は天ノ河、来るんじゃないぞ。
「お待たせ。待ったかい?」
はい!フラグしたっ!お疲れ様でぇーすっ!
「あれ、そっちの人は」
「天ノ河さんだよね?」
てか、僕は何故こんなにも脅えているのだ。これは事故だ。僕が意図的にしたわけではない。故に殺される理由はない。
だがここでこいつを見捨てるのも後味が悪い。ここは天ノ河に肩入れしてあげるか。
「違うよぉ?ここにいるのは、えっと、そう!天河さん!天ノ河じゃなくて、あ・ま・か・わ」
「えぇ、私がその天ノ河よ」
「そういう事だから、ん?」
「やっぱり。ここの浅林くんが、天ノ河さんがどうたらこうたらと言ってたから」
「だから僕の名前は―――――」
「そう」
天ノ河は顔こそは笑っているが、何と言うか、見えないはずのオーラが、一瞬見えた気がして、その気がした瞬間が恐かった。
「貴女は、この展覧会を見ていたの?」
「うん。この後映画にも行く」
花園はニヘラァと顔を歪ませる。実に幸せそうな顔だった。可愛らしい笑顔だと思った。だが、どうしてだろう。天ノ河と同様、胸の高鳴りが無い。やっぱり、恋なんてできない。こんな奴らには。
天ノ河も悪戯気味に笑った。嫌な予感がする・・・・・
「そうなの?それなら私達と一緒に行かないかい?私達も行く予定だったの」
「へぇ。それじゃあ、一緒に行く」
「そうと決まれば早く行こうか。立ち話も時間の無駄だね」
そう言うと、天ノ河と花園は、僕を間に入れた。
「やめろ。離れろ。周りからの視線が痛すぎる」
「これは罰よ」
「あ、これ。私と天ノ河さん。二人の美少女に挟まれているから、むしろご褒美じゃないかな」
「そうね。なら、今日浅木くんは、美少女こと私達二人の命令に絶対遵守ね。かわりに今日は両手に花状態よ。これ以上望んだら強欲すぎて、罰が当たるわね」
「そうだよね。これ以上の幸運はもう一生ないかも」
僕の感情何て無視し、罰の上に更に罰が積み上がっていった。これ以上の不幸はあるだろうか。