第一話 ~表は花、裏はヲタク~(2)
僕と天ノ河とで約束した日は、とても早く、時に遅く感じたことはあったが、時が刻むスピードは一定で、日に日に約束の日は近づき、とうとう八月二十日の映画もとい展覧会のある日になった。昨日と言うと楽しみで『ヲタクの恋は一度きり』の映画の入場者特典を調べたり、とりあえず一通り二十日にあるイベントを見ていた。おかげで日をまたいだ時に寝ようと思ていたのだが、二時になってから寝てしまった。
「気分が悪い、うぅトイレトイレ」
僕は六時半に待ち合わせの駅前に来ていたのだが、急ぎすぎてトイレはせずに来てしまった。故に、僕の体内には茶色の物体があり、そのせいで腹痛が僕を襲っていた。ちなみに気分が悪いのは夜更かしをしていたからだ。
十五分程度に及ぶ茶色の物体との戦いはやっと終え、トイレの外に出た。僕はトイレに行っている間に、七時を過ぎていたらどうしようと、内心焦っていた。ふと鞄に詰めていたスマホを取り時間を確認すると六時五十分。少し余裕があれど、ゆっくりもしてられない時間帯だ。
駅前、駅から出てくる人を迎える並木の、その中の一つの木に見覚えのある女性が寄りかかっていた。
その女性は僕に気付き手を振ってきた。勿論その女性と言うのは天ノ河だ。服装は普通にセンスは良いが、変装はやってきているようで、眼鏡にカツラを三つ編みにしたものを被っていた。いつもと同じ。そう思っていたが、近くによると眼鏡のフレームの色が違った。
「おなかの調子は大丈夫かい?」
「あぁ、まぁ。てか待ったか?」
「いや。私はさっき来たところだ。少し寝過ごしちゃって遅くなったよ。日をまたいだと同時に寝ようと思ったが、楽しみで二時に寝てしまったよ」
お前もかっ!
「おわっ、もう五分前だ、急ぐぞ」
僕達は小走りで駅の方へと向かった。
「はぁ、はぁ、少し走るだけで何故こうも息が上がるんだ。これは呪いか?」
「呪いじゃなくて鈍いのよ君も少しは運動しなよ。コミケで死ぬわよ」
「運動始めます」
「あ、あの電車ね」
「おうよ、いざ憩いの場へ」
電車の中は外の気温とは違って、天国のように涼しかった。人は多くて大変だが。
僕達は、次の駅で出て行った人が座っていた椅子に腰を掛け、目的の場所までただボーっとしていた。それを電車の乗り換えで何度か行ったら―――――
「秋葉原に到着だー!」
「そうね。さぁ、展覧会の場所はこっちよ」
「マップ無しで分かるのかよ」
「深夜で展覧会までの道のりを記憶済みよ」
「おぉ(流石だぜ。マップ代わりとして使える)」
僕は天ノ河の後ろに付き、展覧会がある場所までずっと天ノ河の後姿を見ていた。
「ここね」
「ここか」
僕は天ノ河の見飽きた後ろ姿から目を逸らし、展覧会会場を見た。外見は背の低く長く太い建物。
その建物の前に立っているだけで、早く中を見たいと言う気持ちを催促させる。正直胸が張り裂けそうな程に、心臓の脈打つ速度が分かるほどに、気分が高ぶっていた。
「よし、早く行くぞ!」
「勿論さ。私のスピードに付いてこれるかな?」
天ノ河は僕を置いてさっさと行ってしまう。僕も走り、ヲタクの恋は一度きりの展覧会を見に行った。
会場内では撮影は禁止、飲食も禁止。撮影をした場合は追い出しプラスの撮影した写真や動画を削除。一万の罰金が科せられ、飲食した場合も追い出し罰金一万が科せられる。こっそりしようとしても、数多くの監視カメラが目を光らせているので直ぐに分かる。
それらを入場料金を払う際に注意された事だ。勿論僕がするはずもない。この神聖なる場所を汚すわけにもならないからな。
注意と同時に、銀の袋に入れられたキーホルダーを渡された。
はっ、そう言えばカップルで来たらキーホルダーが貰えるって天ノ河が言っていたが・・・・・となると、あれは嘘だったのか!ただあれは、一緒に行きたいがための嘘の口実。うん、ここを出たら事情を説明して貰おう。
入場したら、視野いっぱいに『ヲタクの恋は一度きり』の色々な展示物が広がった。
「天ノ河は先に行ったか」
僕はスマホで天ノ河にメールで、別行動で行くが八時には外にいろと送った。すると、直ぐにメールが帰ってきた。「おk」だそうだ。
この残りの三十分をどう有意義なものにするかが問題だ。とりあえず最初は適当に見ていくことにした。それだけでも展開されている物、全ての良さを感じられた。
出入口は同じだ。奥に行くまでで大体十分かかった。そして、出入り口に今から戻らなくてはならないが、ここから残り二十分は戻るようで使う。戻る時にはじっくりと見て回る。これが出入口が同じところで効率よく見ることが出来る、僕のオススメ見学方法だ。
「ウッヒョォオ!こっちにはあの時の限定フィギュア!欲しかったけど小遣いが足りなくて親に来月の小遣いの前借しようとしたが拒否されて続け買えなかったフィギュア欲しい。責めて写真だけでも、はっ!いかんいかん。こんな所で写真を撮ったりしたら画像消去に、じっくり見ることも出来なくなるし、映画見に行く小遣いも無くなる。僕は何て事を思っているんだ!あ!こっちには未公開イラストすっげぇ!」
なんて叫んだらつまみ出されるかもしれないよな。よし、静かに見よう。しかも僕にこんな大勢の中ではしゃげるほど主人公はしてないからな。ハハッ・・・・・
そんな妄想をしながら観賞するのもまた一興なのかもな。