第一話 ~表は花、裏はヲタク~(1)
『恋愛』それは高校生活に欠かせない、言わばビッグイベント。その恋愛を出来ていない、かわいそぉぉぉおうな高校生は世の中に満ち溢れている。
恋愛が出来ない理由。大体は『顔面崩壊』『恥ずかしい』『恐い』それらがほとんどであろう。フハハッ、だが、僕にはその様な低次元な不安など一つも無い。何故ならば僕こと浅木 通は恋愛シュミレーターを極めし、(自称)恋愛マスターと(自分から)謳われた人間なのだから。何事も相手の事を考え、且つ優しさを持ち合わせている完璧な人間なのだ。
この僕には、世の中の女性にフラれることなんて、万が一の可能性としてない。そう思っていた―――――。うん。思っていたんだ。
「ごめんなさい」
「え、」
―————どうしてだ。ありえない。僕はこの娘の為にこの三年間の、たった一度の中学校生活を捧げてきたのに。まして恋愛マスターの僕が、フラれた。この、僕が!?
「・・・くん」
誰かの声が僕の頭の中を駆け回る。いったい誰なんだよ。うるさい。フラれている最中なのに。
「と・るくん・・きて」
うるさい。
「通くん起きて!」
「うるさぁーいっ!気持ちよく寝てるのによ?・・・・・てっ、あ」
勢いよく飛び跳ねた僕を見る目線が痛い。そうだ、今は授業中、だった。しかも、ほ、けんの。
この時僕は自分の血の気が引くのを感じた。
「うぉいゴラ浅木ぃ。分かってるな?」
「ハハハ、ご冗談を」
「廊下に立てこのだらけ野郎が!」
僕は皆の、僕に対しての嘲笑と痛い視線に見送られてトボトボと廊下に出た。
「はぁ」
授業が終わるまで少し僕の紹介をしよう。僕は浅木 通。どこにでもいる平凡な高校生さ。ちなみにクラスは二年一組。
と、恥ずかしさを紛らわすため、こんな恥ずかしい事をしている自分がいたとさ。
チャイムが鳴り、四限目の授業が終わると廊下に立つことから解放される。が、中に戻ると僕の事を笑う人間がまだまだいる。
そう、廊下に立たされることで、最も懸念すべきはずっと立っておくことによる足のへの苦痛ではない。この笑われる恥ずかしさだ!
その恥ずかしさを堪え、廊下に出た時とは逆に、足早で一番左の一番後ろの席。主人公席と呼ばれている自分の席へ向かった。勿論飯は・・・・・無い。そんな金あると思うか?そんなのに使うのはボンボンくらいだと認識している。ご飯代は全てゲーム代行きだ。
僕はそこまでご飯を必要としない超省エネ人間なのだ。この体質にはいつもお世話になっています。
「ここ、良い?」
この僕に話しかけてくれる女子は限定されている。その女子とは、成績優秀、スポーツ万能の完璧人間。更に、自分はもう死んだので天使でも見ているのではないか、と錯覚してしまう程の美貌を持つ。今年同じクラスになった天ノ河 鶴音—————が、変装している姿があった。
「浅木くん。四限目怒られちゃったねぇ。って、今日も昼ご飯無しかい?私のご飯を少し分けてあげよう。数少ない趣味の合う人間且つ、私がこうでも何とも思わないのは君だけだからね」
いつもこうして四限目が終わると、いつの間にか変装して僕の席の前へと来ては共に食事をとっているのだ。否、貰っているのだ。
カツラに眼鏡だけでこうも別人に見えるとは、現代は凄いものだ。
僕とこいつが出会ったのは、三か月前の一年生のための入学式が終わって最初の学校の日だ。あの日はとても雨が降る日だった事はよく覚えている。
図書室に行って僕がラノベを呼んでいると、眼鏡をかけた女子、そうだ。天ノ河が近寄ってきたのだ。そのラノベ、『ヲタクの恋は一度きり』がきっかけで仲良くなりその一か月後、天ノ河だとカミングアウトしてきやがったんだ。その日も雨の日だったことを鮮明に覚えている。僕の心の中の様にな。
僕の赤く美しい高嶺の花(天ノ河)が、ヲタクと言うどす黒い色に変色していったのだ。その日はショックだった・・・・・と思う暇もなくただ怒りだけが湧いていたのだよ。
「フフフ、少し変装するだけでもこんなにもばれないとはね。おかげで君と満足するまで趣味の話が出来るよ」
「そうか。それじゃあ、飯」
僕は天ノ河には恋が出来なくなってしまったんだ。可愛いとは思うのだが、やはり内面的に考えてしまうと恋愛対象からは外れてしまう。
「周りから見ると私と君は恋人同士に見えるのだろうか」
「やめてくれ。僕が死ぬ」
「そうだね、私と君とでは釣り合わないからね。はい。今日の分だよ」
そう言って天ノ河は、もう一つの弁当箱を僕に渡した。
てか、自分の事を棚に上げすぎだろおい。
開けると今日もクオリティーの高いキャラ弁だ。
「なぁ、キャラ弁以外に、普通の弁当は作れないのか」
「いらないのなら、もう作らないけど?」
「んぐっ、いや、大丈夫です。」
「じゃあ、引き続きキャラ弁で」
「ほいほい」
こいつがこんなじゃなかったら、今頃「ヒャッホ」してたのにな。はぁ、もったいない。
「ハァ、」
「何ため息ついているんだい。こんな美少女と共にお昼を過ごしているんだ喜びたまえ」
やめろやめろ声が大きい。周りがドン引きしてるぞおいおい。
「さ、頂きましょう」
僕達は手を合わせ目を瞑る。
「「お命頂きます」」
これを始めたのは勿論天ノ河だ。最初こそは恥ずかしかったが、これをやっていくうちに習慣化されていった。まったく恐ろしい。周りからは『怪しい宗教』だの『闇の儀式』などと、中二病の儀式的に言われている。
弁当を食べる時は喋らない。何故だか僕には分からない。一度喋ろうとしたが「食事中は黙って」と怒られた。意外と真面目な声でな。理由は食事中に喋るのがただ嫌なだけらしい。
「「ごちそうさまでした」」
そして食事の時間を終えるのは、どちらも食べ終わってから。それまで黙っておく。食べている所をジロジロと見られたくない僕は天ノ河より先に食べ終わるようにしている。
「さて、では昨日の報告を」
「えぇ、私から報告するわ」
「ヲタクの恋は一度きり、過去の自分編が八月二十日に公開と昨日発表されたわ」
「お!まじかよ!とうとう決まったか。その映画は期待できるところだ!」
ラノベでその場面は神回とも言われていた。僕もそこは実に感動出来て映画になると見ていたが、本当になると嬉しくて涙が出てしまう。
「私もそう思うわ!そうと決まれば二人で行きましょう!」
「おうよ!・・・・・って、え?」
「分かり合える仲の人と行った方が良いでしょ?」
「嫌だけど」
「え?」
「映画は一人で見る派なんだよ。僕は」
「良いじゃない。あ、そうそう、カップルで行くと特典でキーホルダーも付いてくるのよ。しかも君が推している木葉 秋ちゃんが彫ってある」
「オケ!じゃあ、その日は学校近くの駅前集合な。七時に行くぞ」
「上映時間は九時だけど」
「このくらいが丁度良いんだよ。秋葉行ってから映画館行く予定だし」
「分かったわ。ま、また夏休みに入って計画を立てましょう。で、君からの報告は」
「僕からはこれだ」
「これは―――――」
僕は机に隠していたスマホを取り出し天ノ河に見せた。
僕は正直この情報を見て飛び跳ねた。そうこのイベントがあるからな。
「ヲタクの恋は一度きりの展覧会だ」
「秋葉で八月二十日七時半に開く。しかも一日限り。そういう事ね」
「おう」
見事コンボが決まった。流石運営だ。俺たちをこの一日暇にさせたくないようだ。何故って、その日は秋ちゃんの誕生日祭だからな。
ちなみに名前は秋風なのに誕生日は夏。これはただ作者が名前を適当に考えたかららしい―――――