第三話 ~筋肉は恐ろしい~(3)
僕は、どうしてこんなことを...
青春を犠牲にし、僕が帰宅部になったのも早く家に帰りたいからであって、他人の恋のキューピット役、もといその立会人的な存在になりたいからではない。
なのに、どうして僕は帰ろうとしてないんだ。いや、帰ろうとしてないんじゃない。帰れないんだった。
花園をあの五里斗に会わせなければボコられる。そう思った故の行動だ。半強制的なのだ。
だからこそ僕は帰りたいという衝動を押さえ、仕方なくこの花園と体育館裏で待つ五里斗のもとへ行くのであって、本当に僕が望むものとは別物だ。
はぁ、キューピット役になって欲しいのは僕のほうだよ・・・・・
そんなどうしようもない事をずっと思いながら歩いていた僕と花園は体育館裏に付いた。
そこには、どうどうと待っている五里斗の姿が。
よくあんなどうどうとしてられるな。と思った。
好きな女子が自分と会おうとしてるんだ。少しはソワソワしてもいいのではないか。
「じゃあ、行こ」
「え?あ、おう」
やっぱり、いつもと違うなぁ。男子に近付くことが滅多にないのに、今日は自分から行こうとしている。
お?これはもしかするぞ。脈ありかな?
五里斗に近付く僕達に、気付いた五里斗は―――――
「お、おう来た、か」
笑顔だった顔がみるみるうちに驚きの表情になっていく。
あれ?僕、おかしな事したか?
そのゴツい真顔は、一気に赤面し、鍛えられた体はガタガタと震えだした。
正直恐かった。その光景はもうホラーでしかなかった。
だって、目の前で一瞬にして赤くなってガタガタと震えているんだぜ?恐がらない人なんているはず、いたわ。
僕の目の前、五里斗に少しずつ近付いて行く女子、花園だ。
あのごつい顔が更に硬くなって、狂気じみた顔になっている。そんなのに近付くのはもう、『バカ』しかいねぇ・・・・・
少し離れた場所から見ても、体格の違いは一目瞭然。ごつい体系と愛くるしいロリッ娘体系。傍から見たら幼女を誘拐しようとする場面にしか見えない。
「ねぇ」
「は、はひ!」
ごつい体系とは裏腹に、裏返った声で返事をする五里斗。正直言って気持ち悪い。
「呼び出した理由は何?」
通常運転の花園はいきなり本題に入りやがった。これでは、五里斗は更に緊張するに違いない。そう思っていたが―――――
「い、いや、呼び出したのは浅木だけで、理由は花園さんともっと仲良くなりたいからそれを手伝えって・・・・・あ、あっ!」
ん?最後のドジで言っちゃったのはん?どうでも良い。でも、何だと、花園は呼んでいなくて、僕だけを呼んだ。何をふざけたことを。
と、僕は過去の記憶を探った。昨日の事だ直ぐに思い出せる。はずだ。
「あ」
あ、言ってない。花園を連れて来いなんて、一言も。
『良い報告待ってるぜ―――――』
これは、花園は来たら報告ではなくなる。つまり、花園に五里斗の事を紹介するだけで、連れてこなくても良かったんだ。
失敗したぁああ!この僕が失敗だと・・・・・。
いや、ふざけている場合ではない。これは五里斗から簡略化したと思われてしまうのでは・・・・・。あ、オワタ。もうどうでも良いや。死んだ
こうやって僕の人生は終了を迎えたのでした・・・・・
「あさっ、浅木ぃ!」
「浅木くん」
二人の視線が僕の体に突き刺さる。これは、どんな刃物より鋭いと僕は思ってしまった。
その視線からは羞恥や呆れ、それらをひっくるめた怒りが感じられた。これらに対する配慮は、無し!逃げる!
僕は疾風が如くその一本道を駆け抜ける。
僕はいきなり逃げた。だからか、二人は驚き、慌てて僕を追いかけた。だが僕は逃げる。ひたすらに。てか今更それしかできない。
逃げて逃げて、そして逃げた先には―――――
「橘先生ぃぃい!」
目の前に唐突に表れた橘先生に、勢いよく激突。それで、僕と橘先生は盛大に転げ、花園と五里斗は僕に追い付いてしまった。
「お前は、一体何しているんだ!」
「い、いやぁ。ハハハ」
橘先生は尻から、僕は橘先生をクッションに。それで、怪我は何とか免れた。が、説教は免れなかった。
追い付いてきた二人は、当たり前でお咎めは無し。僕は、夕方まで説教をくらってしまった。




