第二話 ~秘密~(3)
朝になり、僕は学校に行く準備を整えた。
「んじゃ行ってくる」
そう言って、行ってらっしゃいの言葉も聞かずに家を飛び出した。
ふふっ、学校に急いでいる理由なんて、一つしかない。楽しみだから。なんて、良い子ちゃんや勉強好きではないと誰もが知っている事だろう。僕が急いでいる理由は、寝坊だ!
僕の学校は遅刻には厳しい。そんな言葉なんてぬるすぎるよ。
まずは三十分は説教、そして、それが終わったら反省文を原稿三枚の八割埋めるまで書かされ、月をまたぐと学校の掲示板に誰が遅刻したのか顔写真入りで載せられ、作文まで晒される。反省文を書かなければ、停学をくらった奴もいると聞いた。
「タイムリミットまで三十分!間に合えぇぇええ!」
駅では丁度学校までの電車が着いていた。周りには同じ学校の生徒はいない。
電車に乗った時には、タイムリミットはもう十五分まで来ている。このまま悠々と歩いてきていたらとっくに過ぎていただろうな。
電車が学校近くの駅に着くのは、大体五分だ。となるとダッシュして、ギリギリ着くか・・・・・
そして、電車は学校側の駅に走り出した。
車内は僕の心とは違い、とても涼しかった。冷房の入った電車は相変わらず天国と思える。だが僕にはそんな事を思う暇なんて無かった。
そして、電車は着き、扉が開くと同時に、僕はスタートダッシュを決め、改札口を風の如く抜けていき、学校までの坂を死に物狂いで登る。
「はぁ、はぁ」
登り切った時には、もう頭がクラックラだ。
タイムリミットはもう二分を切っている。校門はもう目の前だ。日焼けをした先生が仁王立ちで待っている。
だが、僕にはもう、そこまで行く体力も気力も残っていなかった。僕は、校門から十数メートル先で倒れた。
僕は暗黒の世界へ誘われてしまったのだ。
「はい。私が見てます」
「おう。頼んだ。あと、そいつには反省文とかは勘弁してやると言っといてくれ。熱中症になってまで走って来たんだ、その頑張りには答えんとな」
「フフッ、先生は優しいですね」
「まぁ、ワシは必死にやっている奴には甘いんでな。じゃ、頼んだぞ」
足音が段々と遠ざかり、少しの時間でその音は消滅した。
「あいつ厳しいだけじゃないのか」
「あら、起きてたの?」
「まぁ、少し前からな」
「良かったね。君は頑張りそれに見合った事を北上先生はやったんだね」
北上先生は、あの保健の先生だ。厳しくてこの校内では有名だが、逆にちゃんとした先生と好評もある先生だ。
「あの先生のイメージが変わったかもな」
「そう。あとで先生にお礼言わなきゃね・・・・・BL展開?」
「ちっげぇーよ!」
結局、僕は帰ることになった。今日は保健室の先生が休みで、とりあえず帰るようにと言われた。
「んだよ。折角ダッシュで来たのによ。まぁ、休めるから良いけど」
僕はそこらに落ちている小さい石を蹴りながら坂を下り、電車に乗り込んだ。
「ふぅ」
僕は学校から帰れる解放感を感じながら椅子に座る。いつもの朝は出勤する人が多くて、椅子に座れず立つことが多い。今日は遅刻したから少なかったけど・・・・・
「ん?」
ふと気づく。前方に小さな影。
どうして、いるんだよ。
僕の視界の右上には、同じ高校の制服、だが、高校生とは思えないほどの背丈の低さ。よくよく見ると花園さんではありゃせんか・・・・・
え、何で?
僕と同じく早退と言う線は、可能性的に皆無と言える。花園だし。となれば―――――
(SA・BO・RI!)
どうしてサボっているのか。まず花園がそんなことをするなんて思ってもいなかった。
「あ、浅木くん」
「は、ハハハ」
僕の視線に気づいたのか、花園がこちらを向いた。
僕は愛想笑いしながら花園に手を振って見せた。
それから、花園は僕の方にトテトテと、歩み寄ってきた。
「サボり?」
「違うよ、早退だ」
「そうなんだ。じゃあ、これ見て」
そう言われて、差し出された花園のスマホに目をやると―――――
「っ!」
それは天ノ河が現在連載している小説だった。
天ノ河も僕と同じで、僕が使用している所と同じ場所で書いているのだ。実を言うと、このサイトを勧めてきたのは天ノ河で、それプラスのヲタクの恋は一度きりに背を押され書き始めたのだ。
「これね。天ノ河さんが書いている小説」
「へ?」
僕がこんな情けない変な声を出した理由。それは、天ノ河は僕にしかこの小説を書いている事を打ち明かしていない。となればこいつ、花園はどうやってこの情報を・・・・・
「実は、天ノ河さんをたまたまストーキングしてたら、たまたま知っちゃったんだ」
ストーカーカミングアウト!いきなりの事で驚いてしまった。だって、こんなに小さいのにストーカーだなんて。な?
「天ノ河さんには興味があったし、小説も読んでみたら面白かった」
僕には花園が何言っているのか、全く意味が解らなかった。いや、解りたくなかったんだ。じゃないと、花園を今から追放しなければいけなくなるから・・・・・
「それでね―――――」
「はいストップぅ!この話は天ノ河にしてやれ!丁度着いたし、じゃ!これで!」
僕は明日の天ノ河に丸投げして、ストーカーこと、花園 美甘から逃げ帰った。




