人類全てがハッピーであることを義務付けられた世界
処女作ですので、ホットな目で見てください。
誰しもが幸せに暮らしたいとそう願ったことがあるだろう。これはとてもとても幸せなお話。
多幸感を長期的に得られる薬物が開発された。政府は死刑囚で臨床試験を始めた。投与する。投与する。投与するーーーーー。効果はおおよそ1ヵ月で切れる為、定期的に投与する必要があった。
すると被験体に異変が現れ始めた。死刑囚が他の人間に優しく接するようになったのだ。この囚人は決して模範囚と言うわけではなく、どちらかと言えば問題児であった。
さらに観察を進めていくと死刑囚はどんどん衰弱していった。不思議に思った研究者がその囚人に話を聞くと何日も物を口にしていないと言うことが判明した。
これは囚人自らが他の人間に自分の食べ物を分け与えてしまったからである。誰も強要などしていないのに、むしろ周りの人間は、衰弱していく囚人を見て食べるよう勧めていたようだった。
それでも囚人は食事をしようとはしなかった。
囚人は投与をはじめてから僅か半年で命を落とした。囚人は最後まで他を気遣い幸せそうに死んでいった。
実験の結果から判明したことは、この薬によって得られた多幸感は決して薄れないと言うことだ。普通の人間は同じ感情が長期間続くことはない。感情に慣れてしまうからだ。しかしこの薬で得た多幸感は慣れない、慣れさせてくれない。そのためずっと幸せでいることができる。
この結果を受け、政府は改良を加えたこの薬を大量に生産し、裏市場に流した。通常の薬物とは得られる快楽が桁違いであり、一度の投与で長く味わえたため、薬物の中毒者たちは皆こぞってこの薬を買った。
しばらくして、多幸感で満たされた中毒者は社会奉仕活動をし始めた。初め周囲の人間は警戒し、彼らを粗雑に扱っていたが、彼らの真摯な態度を見て次第に軟化していった。
半年後
世界の犯罪率は半分ほどに低下していた。このデータを持って、政府は薬物の存在を公式に発表した。
最初は批判が多かった。しかし、犯罪が減り治安がよくなっているのは紛れもない事実。そのことは民間人も身をもって感じていた。やがて批判の声が減り、今では特段声の大きな人間が騒ぎ立てているだけであった。そういった人間は周囲からは白い目で見られていた。
周囲への認知度が十分に高まったことを確認した政府は、一般にも販売することを公表した。
始めは資格を持った医師のみが精神障害の処方箋として販売をした。効果はすぐに現れ、重度の患者でさえたちまち社会復帰し、幸せそうに働き始めた。やがて民間人にも直接の販売が許可され、各家庭に置かれるほど普及した。
さらに半年後
政府は薬物の無償投与を始めた。もはや常識となった薬物の投与は、私たちでいうところの予防接種のようなものだった。ストレスで精神を犯されないように予め投与しておく、そんな用途で用いられていた。
ついに政府は薬物投与の義務付けを行った。民間人は薬物を投与してもらう為に定期的に施設へと足を運んだ。そこに政府を疑う者はいなかった。
幸せとは不思議なもので、満たされていると人に分け与えたくなる。また、人にあげても決して減らず、むしろ増えてしまう。幸せな世界で育った子どもは幸せであり、またその子どもも幸せである。
三年後
人類はほとんど絶滅した。彼らは皆幸せであった。幸せとは不思議なもので、満たされていると何も欲しなくなる。幸せで満たされているから何も入らないのだ。そうして彼らは何も欲しなくなった。自身の命でさえも。彼らは死ぬ間際も幸せであった。
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この世界では生まれた瞬間から幸せな人生、幸せな死が保証されている。しかし私たちの世界では、誰も保証などしてくれない。自分で幸せになるしかないのだ。
この作品を読んでいる皆は今幸せだろうか、不幸せなら良いことだ。それは今を生きる動機になるからだ。不幸せだから頑張れる。不幸せだから変えたいと願う。
しかし、中には残念な者もいる。不幸せな事を理由にしてしまっている者だ。不幸せだからできない。不幸せだからなれない。
そんな者達が幸せになることはできない。
皆が幸せになれることを願う。
読んで頂きありがとうございます。
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