第七話『エピローグ』
「――――というくだらない話だ。
‥‥あれ?おい、寝てんのか?―――起きろ!」
少年はいつの間にか男の腕に持たれて眠っていた。泣き疲れていたのだろうか。男が少年の肩を優しく揺さぶると、少年は目を擦って、大きく伸びをしながら目覚めた。
「いつから寝てたんだ?」
「うーん。‥‥『次の日、再び友人の家を訪れると―――』の所までは覚えている」
「最初のほうじゃねえか。‥‥まあ、良い。吐き出したかっただけで、聞いて欲しかった訳じゃない。本来は聞かれても困るような話だ。
おい、坊主。もうすっかり暗くなっちまってる。早く帰って、ちゃんと謝れよ」
「うん!ありがとう、おっさん」
「あほか。おれはまだ五十五。まだまだ若いわ」
少年は笑いながら、手を振ると公園を去っていった。
* * *
少年が去ると、男は手元の手紙を見つめる。
それは男の友人の手紙であり、今となっては男がかつて殺人の片棒を担いだというの証拠に成り得るかもしれない唯一のものだ。
男は事件の全てを友人と青年と少女が交わったこの公園で清算するつもりだった。
男はライターを取り出すと、視界の端でベンチの隅に少し浮かんで座っている友人に話しかける。
「なあ、後悔はないのか?」
「ない。俺は一瞬だけでも全てを忘れて、人間として生き返ることが出来た。
罪人としてこうなったのは当然の帰結だ」
実に友人らしい淡泊な答えだった。しかし―――
「お前は満足しているのかもしれない。
だが、おれはどうしたらいい!
お前の口車に乗せられて、殺人の片棒を担いで、抱え込んでしまい年々膨れ上がるこの罪の意識はどうすればいいんだ!!」
その問いに視界の端で浮かぶ友人は答えない。罪を告白しろとも、忘れろとも、懺悔し続けろとも友人は何も語らない。
黙ったまま、おれを見つめ続けている。
男はしばらくベンチに座って、ライターの火を見ていたが、手紙に火をつけた。
火のついた手紙は端から黒く変色し、丸く縮こまると、燃えカスになって地面に落ちた。
最後の燃えカスが落ちた後も男は僅かに赤色のくすぶる燃えカスの山をしばらくの間見ていたが、花束を持って立ち上がると、今では生活が成り立つだけの稼ぎを得ることが出来るようになった探偵事務所での普段の日常へと戻っていった。
他にも短編を書いているので、読んでいただけると嬉しく思います。




