第6話 神楽の力
お待たせいたしました。
作者の他の作品に比べて文章量が2倍なので、書くのに時間がかかっています。
ゆっくりとお待ちください。
放課後の家庭科室。教室にはパンケーキのあまい香りが漂っている。教室にいるのは三人。一人目はリア・クルスと名乗っている『色欲』の大悪魔ルクスリア。二人目は大詰グラと名乗り、この学校で家庭科教師をしている『暴食』の大悪魔グラ。そして三人目は陰陽師の娘である土御門神楽。リアの作ったパンケーキにグラと神楽が舌鼓を打っていた。二人が満足した後、リアが話を切り出す。
「さて、二人も満足したみたいですし、そろそろ神楽さんの力について教えましょうか」
神楽は座ったまま姿勢を正す。
「神楽さん。貴女は特異能力者です」
「私が特異能力者? 魔法が使えないのに?」
「はい。貴女は体内に膨大な魔力を持っていますね。普通ではありえないほどの魔力量です。それにまだ増加していますね?」
「ええ。でもそれがどうかしたの?」
「はっきり言って異常です。今の貴女には、そうですね。五百年ほど生きた吸血鬼の魔力量に匹敵します。普通なら体が耐えきれません。体が破裂します。でも、貴女は平然としている。貴女は膨大な魔力と魔法耐性を持つ特異能力者です。デメリットとして、貴女は魔法が使えなくなっています」
基本的に、この世界では長く生きれば生きるほど膨大な魔力を持っている。そして、吸血鬼は種族の中でも一番の魔力と魔法耐性を持っている。再生力にも優れており、血を定期的に摂取すれば、永遠に生きられると言われている。この世界に存在する唯一の吸血鬼の真祖、最強の吸血鬼は世界の始まりから存在していると噂され、現在はヨーロッパ東部を支配している。
リアの言葉に神楽は少し不貞腐れたように言う。
「魔法が使えないなら意味ないじゃない!」
「そうとも限らないぞ」
グラが話に加わる。
「お前が魔法を使えないだけで、他のものを媒介すれば魔法を使えるぞ。例えば魔具とか、魔剣や聖剣、陰陽師なら式神とか。そういったものは魔力で発動するからな」
グラの言葉に神楽はハッとする。そんな彼女を見てグラは呆れた声を出す。
「なんだ? 考えたことなかったのか?」
「はい。魔法を使えるようになって、ちゃんと制御できるようにならないと、式神を使うことは許可されなかったので」
「陰陽師ってバカだな」
「バカですね」
グラとリアの二人が陰陽師を馬鹿にする。神楽は少し複雑そうだ。
「私はそういったことに向いているということですね。でも、それだけでは危険な力だとは思わないんですけど」
「そうとも限りません。魔剣や聖剣、それに準ずる武器を貴女が使いこなしたら、とても厄介ですよ。これらの武器は膨大な魔力を必要とする分、威力は絶大です。適正に関係なく、貴女は魔力のごり押しで何でも使えますよ。それに、貴女は何度も使えます」
「それは・・・厄介ね」
神楽は魔剣や聖剣を手にして振るう自分を想像し、少し言いよどむ。
「でも、魔剣だとデメリットがあるのだけど?」
「使い手の魔力を喰らう魔剣だとデメリットは少ないですよ。魔剣については様々ありますから。でも、犯罪組織はそんなこと気にしないんじゃないですか? 貴女に凶悪な魔剣を持たせて市街地に放り出せば、貴女は倒されるか、魔力が切れるまで暴れ続けますよ。普通の人なら数分しか保たない魔具や魔剣でも、貴女なら何時間でも保ちます。貴女は操られるという可能性も考えなければいけません」
「そうよね・・・。精神支配系の魔法とか魅了とか、ね」
「まぁ、貴女は膨大な魔力を持つぶん、魔法耐性もありますから大抵の魔法は効きません。自己暗示、洗脳、催眠術には気を付けてくださいね。魔法ではないので」
「わかったわ」
「貴女の力はこれだけならよかったんですけどね」
少し現実逃避したように遠い目をしてリアが呟く。そんなリアに神楽が訝しむ。
「まだ何かあるの?」
「貴女も気づいているのでしょう?」
「もしかして・・・眼かしら?」
「そうです。貴女の眼です。僕とグラの正体を一目で見抜きました。普通ではありません」
「悪魔とまではわからなかったみたいだがな」
グラの言葉に神楽は頷く。やっぱり私の目は普通じゃなかったのか、そんな表情をしている。
「他の人には見えないものが見えませんか? 例えば、今窓の外を飛んでいる羽の生えた子犬とか、光り輝く球体とか」
「っ!? あなたにも見えるの!?」
「おー! はっきり見えるぞー」
「はぁ。確定ですね」
リアはため息をついた。正直言うと確定してほしくなかった。
「何? 何なのあれは? 物心ついたときには見えていたわ。家族も誰も信じなかったけど」
「陰陽師はバカだな」
「バカですね」
再びグラとリアの二人は陰陽師を馬鹿にする。神楽は自分の眼のことを知りたくてウズウズしている。
「貴女の眼は魔眼です。特に精霊眼と呼ばれるものです」
「魔眼? あの有名な?」
「ええ。あの有名な魔眼です。貴女も含めて、魔眼保持者は全世界に十人もいないでしょう」
「ちょっと待って。私、特異能力者よね? 特異能力者で魔眼を持っている?」
「そうだぞ。あたしたちも初めて見た。どっちか片方ならよかったんだが。それに、お前の持っている二つの力は相性が良すぎる。最悪な程に」
神楽は自分の力を理解し、混乱している。魔眼を持った特異能力者を初めて見たと言われたのだ。混乱しないほうが可笑しい。神楽が頭の中を整理するまでグラとリアは見守る。
「よし。少し落ち着いたわ。さっき精霊眼と言ったわね。私が見ていたのは精霊でいいのよね?」
「ええ。精霊です。今まで誰にも言われなかったのですか?」
「幻覚とか、気を引きたいだけと言われたわ」
「世界中に精霊が見える者の伝説が残っているでしょうに。それに、日本は精霊信仰をしているということで有名ですよ。付喪神とか八百万の神々とか。なぜ精霊と考えないのでしょうか?」
「魔眼というより霊感が強いと言われているわ」
「それはたぶん魔眼ですね。ほとんどの人が幽霊や生き霊を見ることができますから。でも石化の魔眼とか即死の魔眼ではなくてよかったですね。貴女の魔力量なら、人を大勢殺していたでしょう。たぶん今頃、殺されているか、目を潰されていたはずです。そうならなくてよかったですね」
神楽はぶるっと身を震わせる。
「でも、さっき大詰先生が最悪な程に相性が良いって言っていましたよね」
「言ったぞ。突然だが土御門に質問だ。膨大な魔力を持っている。そして精霊が見える。この二つを組み合わせるとどうなる?」
突然グラから質問を受け、神楽は考えるが、答えはすぐに導き出された。
「精霊を使役できる、ですか?」
「正解だ。正解した土御門にはチョコをやろう。ほれっ」
どこからともなく一口サイズのチョコを取り出すと、神楽に放り投げる。
「えっ! あ、ありがとうございます」
神楽は急なことに混乱しながら、チョコを受け取る。リアは説明を続ける。
「貴女が言った通り、精霊を使役できます。精霊使いと呼ばれていますね。精霊使いは魔法使いと比べて、大規模な被害が出ます。もちろん、しようと思えば普通の初歩魔法くらいの魔法もできますが。なぜかわかりますか?」
「私、そんな話初めて聞いたのだけど。えーっと、精霊が言うこと聞かないから、とか?」
「それもありますね。他にはありませんか?」
「うーん。ダメね。わからないわ」
しばらく考えた神楽は答えが出ず、降参する。リアが正解を述べる。
「精霊は火や水といった自然を司っています。世界からも魔力を受け取れます。というか普段は世界の魔力を受け取って存在しています。精霊使いの魔力を貰って命令を受け、世界の魔力を使って魔法を放つ。人間が持つ魔力と世界に満ちる魔力、どっちが多いかはわかりますね?」
リアの言葉に神楽は頷いた。
「先ほど神楽さんが言った通り、精霊が命令を聞かない場合もあります。それは命令が曖昧なんです。精霊によりますけど、大抵の精霊は精神が幼いです。精霊使いの魔力はおやつとかご褒美みたいなものですから、張り切って行動をするんですよね。小さい子供って言えば想像しやすいですか?」
「なるほどね。精霊は小さな子供ね。覚えておくわ」
「そうですね。覚えておいたほうがいいでしょう。精霊使いは貴重な戦力です。あらゆる国と組織が欲しがりますよ。精霊使いは希少ですからね」
「なぜ少ないのかしら? こんなにも精霊は沢山いるのに」
神楽は窓の外を眺めながら言う。外には色とりどりのたくさんの精霊が飛び回っている。姿かたちも様々だ。今までは奇怪なものだったが、精霊と聞いて怖くなくなったのだろう。
「そりゃ、お前みたいに見えないからな。普通は召喚の儀式とかめんどくさいものをして呼び出すんだが、あれは精霊が気まぐれで近づいてるだけだ」
「大詰先生。もしかして、精霊契約には儀式とか必要ないんですか?」
「そうだぞ。必要ないな。世界中で行われている儀式は精霊を可視化するためのものだ。一度契約すると契約者には契約精霊がわかるからな。ぶっちゃけ、見えていれば儀式はいらん」
神楽は今日一日で何度も自分の常識が壊れていく。頭がパンクしそうだ。
「私は精霊が気に入ってくれれば、いつでも契約することができるんですか?」
「そうだぞ。それも複数同時に契約できるからな。契約し放題だぞ」
頭が痛い。神楽は自分のこめかみを押さえる。
「常識が崩れて頭が痛そうだが、もっと考えたほうがいいぞ」
「・・・何をですか?」
「精霊が見えることの価値を、だ。お前自分だけ契約できるとか思ってないよな。お前が精霊と他人を仲介すればどうなると思う?」
グラの言葉に神楽はハッとする。今日で何度目の驚きだろうか。そろそろ、驚くのも疲れた。
「簡単に精霊と契約できますね」
「そういうことだ。世界中がお前を欲しがるぞ。お前をめぐって戦争や殺し合いになる可能性もある」
「それだけではありません。もし、貴女が複数の精霊を使役し本気を出せば、街の一つや二つ壊滅させることができます。貴女自身の手によって、戦争を起こしたり殺し合いを始めることもできます。僕が貴女に覚悟を決めさせた理由がわかりましたか?」
「ええ。十分に理解したわ」
リアの言葉に神楽は疲れたように言った。
「でも、このまま私の力を知らなかったら、そんな危険はなかったはずじゃない?」
「はぁ。甘いですよ神楽さん。見る者が見れば、貴女の異常な魔力は一目でわかります。いずれ貴女はどこかの国か組織に連れ去られていたでしょう。この日本も例外ではありません」
「そうだったわね。眼だけじゃなかったわね」
もう一つの力を思い出して、神楽はため息をついた。
「私は精霊使いになればいいの?」
「それは貴女の自由です。式神使いでもいいでしょうし、魔具や魔剣、聖剣使いでもいいです。まだ、あと二つほど向いているものがあるのですが、聞きたいですか? あんまりオススメしませんが」
リアの言葉に神楽はため息をつく。そして、一度大きく深呼吸をして、覚悟を決めた。
「ええ。全部教えてちょうだい」
「わかりました。僕たちからはあんまりオススメできないものです。力があまりにも大きすぎるので」
リアはグラと視線を合わた。グラはリアを見て頷いた。
「さて、土御門。精霊眼は人間が言う精霊、それだけを見るものではない」
「他にも見えるということですか?」
「ああ。お前も見たことがあるんじゃないか? 禍々しいもの。形容し難いおぞましいもの。奇怪な生物。どうだ? 覚えがないか?」
「・・・あります」
「これらは何だと思う?」
「荒魂?」
「あー。日本、というか陰陽師たちはそういう風に言ってたな。じゃあ、あたしとリアは人間じゃない。あたしたちは何だった?」
神楽はグラがこれから何を言うのかわからず、少し警戒しながら答えた。
「悪魔でしたよね? あっ! 私の眼は悪魔も見ることができるんですね! だから先生たちが人間じゃないと感覚でわかったのね」
「そうだ。そして、日本で言う荒魂は悪魔だ。超々低級のな。ここからが一番大切なことだが、なぜ精霊眼で悪魔を見ることができる?」
「そういう眼だからでは?」
神楽は首をかしげている。そんな彼女に、リアがグラに代わって別の質問を投げかける。
「別の言い方をしましょう。悪魔とは何者か。何かわかりますか?」
「人の欲望や魂を喰らうものかしら」
「間違ってはいませんが、聞きたいことは違います。悪魔の正体とは?」
「悪魔の正体・・・」
神楽は考えだす。リアとグラは彼女を助けない。彼女が答えを見つけるまで待つつもりだ。しばらくして、何か分かったようだ。ハッとした表情で、まさか、と呟いている。そして、自分でも信じられない、といった表情でリアとグラに自分の考えを告げる。
「まさか・・・悪魔の正体は・・・精霊?」
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