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Devil's Life  作者: ブリル・バーナード
第1章 二つの瞳編
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第5話 覚悟

お待たせいたしました。

 

 リアが日本の私立白亜高校に留学してから一週間がたった。リアは学校生活にも慣れ、クラスにも馴染んだ。

 リアと神楽が真夜中に話して以降、一回も彼女から話しかけられたことはない。クラスが同じため、チラチラと見られることはあるが、接触してこない。

 彼女は悩み、夜も寝られないのだろう。目の下にクマをつくり、少し頬がこけた。授業に集中もできていない。リアは、少しかわいそうなことをしたな、と反省する。自分が命を狙われる、戦争の引き金になると言われたら誰でもそうなるだろう。


「それにしても、お前って女に手を出すのが相変わらず早いな」


 放課後の家庭科室。教室にあまい香りが漂う中、グラがリアに言った。リアは今、パンケーキを作っている。リアは放課後、毎日家庭科室に来て神楽を待っていた。ただ待つくらいならあたしに何か作れ、とグラに言われて、リアは毎日何か料理を作っている。今日はパンケーキだ。もちろん、材料費はグラ持ちだ。


「なんでそうなるんですか。手を出した覚えはありません」


 リアはグラに反論しながら、パンケーキをひっくり返す。うまくひっくり返すことができた。

 グラは焼かれているパンケーキを凝視しながら、リアに言う。


「だって、学校来た初日に女の家に行ったんだぜ。で、言葉で脅して、覚悟が決まったら俺のところに来い、とか鬼畜だな。悪魔だ悪魔」

「何を今さら。僕は悪魔ですよ。それに真実を告げただけです。貴女も彼女を見つけたからこの学校にいるのでしょう? 彼女のせいで戦争が起きるかもしれない。だから、貴女も監視してる。まぁ、人間の戦争なんて僕たちには関係ありませんけどね」


 焼けたパンケーキをお皿に盛りつける。トッピングはバニラアイスと数種類のベリー。リアはよだれが垂れそうなグラの前にお皿を置く。グラは目を輝かせて、ナイフとフォークを握る。そして行儀よく、いただきまーす、と挨拶して食べ始める。彼女の顔が幸せそうに緩む。ゆっくり一口ずつ味わうように食べている。幸せそうなグラを見て、リアは笑みを浮かべながら、再びパンケーキを作り始める。グラがおかわりをするからだ


「それで? 土御門神楽はどんな様子だ? ここに来ないってことはまだ悩んでいるだろうけど。あっ!」


 パンケーキの皿からブルーベリーが一つ落ち、床に転がる。グラが絶望の表情を浮かべた。しかし、すぐにブルーベリーを拾い上げ、三秒ルールだ!、と声を上げ口に放り込む。ブルーベリーの甘さにグラの顔が幸せそうに緩む。


「酷いものですよ。僕のせいですけど。眠れないし食事もあまりできていない様子です。クマができて、少し痩せましたね。授業中も上の空です。周りの声も全然聞いていません。今日は流石に体が限界だったみたいですね。授業は全部寝ていました。少し笑いましたよ。先生の前で堂々と寝るんですから。先生方も戸惑っていましたよ。僕がクラスを出るときも彼女は寝ていました」


 リアは焼いているパンケーキの具合を見ながら、次のトッピングは何にしようか考える。シンプルにバターとハチミツにしよう、と彼は決めた。

 グラはパンケーキを食べながら、リアは焼きながら、二人は家庭科室に近づいてくる一つの気配を感じ取った。


「おっ。これは・・・」

「予想より早いですね」


 気配が近づいてきて、家庭科室のドアの前で立ち止まる。そして、ひと呼吸してドアが開く。パンケーキのあまい香りがする家庭科室に入ってきたのは土御門神楽だ。


「ようこそ。土御門さん。お好きな席にかけてください」

「おーっす! 適当に座れー」

「大詰先生? ここにいるのはあなただけではないの?」


 神楽は警戒の色を浮かべながらリアに問いかけた。彼女はリアだけでなく、グラも警戒している。神楽はグラも人間じゃないと見抜いているのだ。


「グラ先生も僕の味方ですよ。貴女もパンケーキを食べますか?」

「これはあげないぞ! リアが今焼いているのもだ! あたしのだからな! 絶対取るなよ」


 グラはまだ半分ほど残っているパンケーキの皿を持ち上げ、神楽から隠そうとする。神楽に向かって、ガルルルル・・・、と唸り声をあげている。


「グラ先生・・・もう先生とか要らないですね。グラ、お皿のも今焼いているのも貴女のですから誰も取りませんよ。安心して食べてください。アイスがとけていますよ」

「おっといけない」


 アイスがとけているのを見て、グラが魔法を発動させる。アイスだけ温度が冷え、再び固まる。パンケーキを一口頬張り、美味しすぎて頬が緩む。

 警戒してうなり声をあげていた姿から一転し、幸せそうな表情を浮かべるグラを見て、神楽は目を瞬かせる。


「この人は放っておいていいですから。土御門さん、座ってください。パンケーキは?」

「私は神楽でいいわ。それに食欲がないからいらないわ。お水飲みませんか?」


 神楽はドアに近い席に座る。そして、持ってきた水筒を見せて、グラたちに勧める。


「おっ気が利くな。ちょうど飲みたかったんだよ」

「そうですね。僕ももらいましょうか」


 リアがコップを準備する。それに神楽が水を注いで、三人は一口飲む。


「ほう、澄んだ水だな」

「霊峰富士からとれた霊水、ですか?」

「そうよ。富士山から湧き出る霊水。聖水と同じ効果があるわ。あなたたち悪魔にはよく効くはずよ。・・・・・・あれ? 効いてない?」


 聖水を飲んだはずなのに平然としている二人を見て、神楽が首をかしげる。グラとリアの二人は美味しそうにグイグイ飲んでいる。


「いやー美味しいな。流石富士山の霊水。日本は水が美味しいわー。こんなのが効くのは超弱い悪魔だけだぞ」

「僕たちの正体に気づいたみたいですが、これ効きませんよ。ただ美味しいだけです」

「そんな・・・」


 神楽は絶望の表情を浮かべる。グラとリアの二人は彼女を気にせず、パンケーキを頬張ったり、焼いたりしている。


「で、僕たちをどうしますか?」

「どうもしないわ。日本で一番効く悪魔払いの水よ。これが効かないなんて・・・」

「今日は僕を倒しに来たんですか?」

「半分はね。これで倒せたら悪魔が囁いた誘惑だったってことで今まで通りに過ごす。もし倒せなかったら私は魂を売る、そう決めてきたわ」


 神楽は覚悟を決めた瞳でリアをまっすぐに見つめる。


「私と契約しなさい。私の体も魂も好きにしていいから」


 神楽の言葉にリアは少し申し訳なさそうな顔をする。


「あー。すいません。僕、契約するつもりないんですけど。ただ貴女の持つ力を説明するだけで、契約とかは全然考えていなくて・・・。グラ、貴女はどうしますか?」


 神楽の言葉をリアはやんわりと断り、グラに話を振る。パンケーキの最後の一口をゆっくり味わい、飲み込んでからグラが答えた。


「あたしも魂とかいらんぞ。それよりも今はおかわりが欲しい! リアあとどのくらいだ?」

「もうちょっと待ってください。あと一、二分」

「はーい。大人しく待っとく」


 グラがニコニコ笑顔で行儀よく椅子に座っている。決意をあっさりと断られた神楽は混乱している。


「え? あれ? いらないの? あなたこの間、悪魔に魂を売る覚悟があるか、とか言ってたじゃない!」

「お前そんなこと言ったのか? そこから正体ばれたのか」

「あー言った覚えありますね。言葉通りに受け取りましたか。すみません。誤解させてしまいましたね。悪魔と契約したかったら、後々相談してください」


 リアは神楽に頭を下げて謝った。神楽は混乱して呆然としている。リアはパンケーキに向き直り、様子を見る。そろそろよさそうだ。お皿に盛りつけ、熱々のパンケーキの上にバターを乗せ、ハチミツをたっぷりとかける。グラの顔が輝く。そのグラの前にお皿を置くと、彼女はおいしそうに食べ始めた。

 リアが神楽のほうを見ると、パンケーキに彼女の視線が寄せられていた。リアに見られているのに気づくと、恥ずかしそうに頬を染め、リアに向き直る。そんな彼女にリアは謝る。


「すみません。なんかごたついてて」

「いえ、いいのよ。私も混乱してるから」

「本当にすみません。では、そろそろ真面目な話をしましょうか」


 真面目な表情になったリアを見て、神楽が覚悟を決めた表情になる。リアの顔が少し冷酷な顔つきになり、鋭い雰囲気を醸し出す。


「一週間前にも言いました。貴女には力があります。世界中の国や組織が手に入れたいほどの力が。貴女が邪魔になるなら容赦なく殺しに来るでしょう。力の使い方によっては、国を滅ぼせます。戦争にもなるでしょう。その覚悟はありますか?」

「覚悟を述べたいところだけれど、先に私の力について詳しく教えてくれないかしら?」

「教えません。それに、それは止めておいたほうがいいと思いますよ。決心が鈍ります」

「そう。では大詰先生。先生も私の力は危険だと判断されていらっしゃるのですか?」


 神楽は幸せそうに食べているグラに、意見を求める。グラはお皿から顔を上げる


「んあ? リアの言う通りだぞ。お前には力がある。長いこと生きているが、あたしたちが初めて見たからな。使いこなせるかどうかはお前次第だが」


 グラは言い終わると、再びパンケーキに顔を向ける。そして、頬張る。神楽は一瞬羨ましそうにグラを見ると、リアに視線を戻す。リアの真面目で、冷酷で冷たい目を正面から受け止める。


「私は・・・力を求める。その力でできるだけ多くの人の命を救いたい。私は陰陽師の娘。先祖代々日本を守ってきたわ。でも、誰かのためじゃない。私は自分のために力を使う。私が他の人の命を救いたいと思ったから救うのよ。それに、私を殺したいなら殺しに来ればいい。そう簡単に死んでやらない。私も相手には容赦しないわ」


 神楽は自らの決意を述べた。覚悟を決めた彼女には見惚れるほどの美しさがある。


「貴女は人を救いたい。だけど、それは自分のため。誰かのためじゃない、ですか・・・」

「そう。幻滅したかしら?」

「いえいえ。いいです。実にいいです。僕は貴女のそういうところが好きですよ」


 リアの言葉に神楽が頬を染める。グラは、こいつまたやってる、という呆れた目でリアを見ている。リアは二人の表情に気づかない。


「人間は欲深い。だから僕は人間が大好きなんです。人間は自分のために生きなければ」

「まるで悪魔みたいな考え方ね」

「ええ。僕は悪魔ですから」

「あら、そうだったわね」


 神楽は少し揶揄うように微笑む。


「さて、悪魔さん? 私は覚悟を示したわ。あなたも覚悟を決めてちょうだい」

「ほう? 僕にどんな覚悟を決めろと?」


 リアは神楽の言葉に笑みを浮かべる。面白いものを見つけたように、人の欲望を狙う悪魔のように、そして戦意を漲らせ荒々しく獰猛に笑う。


「あなたは私を引きずり込んだ。だから責任を取ってちょうだい。もし、私が原因で戦争になったり、私が力を間違ったことに使ったら、あなたが私を殺して。できないとは言わせないわ。私は血で汚れる覚悟を決めた。あなたも私の血で汚れる覚悟をしなさい」


 リアの纏う雰囲気が変わる。真面目な雰囲気が変わり、あらゆる生き物を魅了する覇気を纏う。背中から悪魔の翼が生える。そして、瞳の色が変わる。目の白い部分が黒に、虹彩が紫色になる。周囲をリアが放つ膨大な魔力が覆い、あまりの覇気に神楽は思わず跪きたくなる。


「いいでしょう。『色欲(ルクスリア)』の名のもとに誓いましょう。土御門神楽。貴女が戦争の引き金を引いたり、悪の道に堕ちたと僕が判断したら、僕が貴女を殺します。その時は、痛みもなく一瞬で殺すことを保証しますよ」


 リアは悪戯っぽい笑顔を浮かべる。


「まぁ、そうならないことを祈っていますね」


 そう言うと、リアの姿が元に戻り、覇気や魔力を消す。

 神楽は膝から崩れ落ちる。足がガクガク震えて力が入らない。過呼吸のように息を荒げ、言葉を発することができない。


「神楽さん大丈夫ですか? ちょっと本気を出してしまいました。ゆっくり深呼吸をしてください」


 リアの言葉に従い、神楽は深呼吸を始める。三分ほどしてようやく話すことができるようになった。


「あ、あなた、あれが、あなたの、本気、なの?」


 まだ少し息が荒い神楽がリアに問いかける。そこに、パンケーキを食べ終わったグラが口をはさむ。


「全然本気じゃないぞ。リアが本気になったら、殺気だけで半径一キロくらいの生物は即死するんじゃないか? 魔力放出だけでこの熊本県に住むすべての生き物が死滅するな。魔法使えばこの国なんて簡単に消滅するぞ」


 神楽が恐怖の目でリアを見る。


「いやいや、貴女も僕と同じことができるでしょう?」

「まぁな。でも、そんなことはどうでもいい! パンケーキのおかわりを要求する!」


 グラは空っぽのお皿をリアに見せ、アピールする。クルクルと可愛らしいお腹が鳴る音がする。リアが呆れた目でグラを見る。


「え、いや、今のあたしじゃないぞ!」


 グラは慌ててブンブンと首を横に振って否定し、神楽を見る。グラにつられて、リアも神楽を見た。二人の視線の先にいたのは、座り込んだまま恥ずかしそうにおなかを押さえ、顔を真っ赤にしている神楽の姿だった。


「こ、ここ最近全然食べてなかったから・・・」


 またクルクルと可愛い音が聞こえた。神楽はおなかをギュッと押さえ、耳まで真っ赤になる。


「先に神楽さんのぶんを作りましょうか。グラ、少し待っててくださいね」


 はーい、というグラの元気な声を聞きながら、リアはパンケーキを焼く準備を整えた。



お読みいただきありがとうございました。

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