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Devil's Life  作者: ブリル・バーナード
第1章 二つの瞳編
14/15

第14話 再会

お待たせしました。

なかなか思うように話が進んでいきません。

この章の結末は考えているんですけどね。

頑張って書きます。

 

 無機質な空間。茶色い地面と灰色の壁に囲まれた広大な空間。その中央に神楽が一人倒れ込んでいた。息を荒げ、目を開く元気もないようだ。ただ呼吸で胸が上下するだけ。汗と土にまみれ、着ている服は所々破け、血の跡のような赤黒い染みもある。

 神楽の隣にリアが出現した。


「魔力の澱みをなくしますね」


 動けない神楽の手を掴むと、彼女の膨大な魔力の流れを正常にする。神楽が嬌声を上げた。体が痙攣している。体が弓なりになり、ぐったりと脱力した。小刻みに痙攣している。

 神楽の凝り固まった魔力はリアによってすべて解れた状態だ。魔力制御を受けると彼女は快感を感じてしまう体質だったので、少しでも魔力をリアに動かされると嬌声が抑えられない。疲れ果てて自分の体を動かすことができず、声も出せないため、止めて、ということができない。

 リアは容赦なく続け、魔力の澱みの最後の一つを勢いよく消した。

 抑えられない盛大な嬌声と大きな痙攣を繰り返し、神楽は沈黙した。小刻みに痙攣を続け、必死に空気を求め喘いでいる。


「今日の訓練はここまでです。おつかれさまでした」


 リアの言葉は神楽に届いていない。彼は倒れ込んでいる神楽を放置し、目の前に扉を出現させる。ドアノブを捻り、扉を開くとそこは家のリビングのようだった。リビングのソファでグラがだらけている。


「おーっす! 終わったか?」

「ええ。今日の分は終わりましたよ」

「んじゃ、ご飯よろしく!」

「わかりました」


 リアはキッチンに向かって食材を確認し何やら料理を始める。てきぱきと手際に迷いがない。気が遠くなるほど長い年月料理をしているので、彼の料理の腕は世界でも超一流の腕前だ。

 しばらくして肉の焼けるいい匂いがしてくる。今日はハンバーグのようだ。おかわりように大量に用意してある。グラがキッチンのテーブルにしがみつき、ハンバーグが焼けるのを涎を垂らしながら見つめている。

 その時、リビングに出現していた扉が勢いよく開いて、神楽が疾風のごとく飛び込んでくる。


「このハレンチあくまぁぁぁあああああああ!」


 叫びをあげながら、料理をしているリアの顔めがけて風よりも早い拳を繰り出す。リアの顔面を殴りつける前に、グラが周囲に張り巡らせた鎖によって雁字搦めにされる。鎖に絡め捕られて身動きができない。


「神楽…そのドロドロの姿でキッチンに入ろうとするとは良い度胸だな。死ぬか?」

「神楽さん。何度同じことをすれば気が済むんですか? 料理に関してグラはうるさいですよ。殺されないうちにさっさと謝って、ご飯の前にお風呂に入ってきてください」

「グラさんごめんなさい。リア・クルス! あなたは後でぶん殴るから!」


 謝ったことで鎖から解放された神楽は、目に怒りを浮かべて捨て台詞を残すと、キッチンを出てシャワーを浴びに行った。


「リア…今度は何をしたんだ?」

「疲れ果てて動けない神楽さんの魔力の澱みを消しただけです」

「面倒くさくて結界を張らなかったんだな。今頃あいつは風呂の中で盛ってるかもな。覗きに行くか?」

「行きませんよ」


 リアは興味なさげに答え、ハンバーグをひっくり返す。グラは彼の素っ気ない態度が気に喰わないのか、面白くなさそうな表情をしている。しかし、目はハンバーグにくぎ付けだ。


「グラ、涎を垂らしていないで少し手伝ってください。三人分のお皿の準備を…」

「したぞ」


 リアの言葉が終わる前にグラの姿が一瞬消え、再び現れた。テーブルには綺麗にお皿が準備されている。高速で動き、一瞬でお皿を準備したのだ。


「次はサラダを作ってください」

「あたし、料理できないぞ。爆発するがいいのか?」

「大丈夫ですよ。このレタスを千切るだけです」

「それならあたしにもできるな」


 氷水につけてあったレタスを食べやすい大きさに千切っていく。料理ができない自分も手伝えることがあってグラは嬉しそうだ。鼻歌を歌いながらレタスを千切っていく。

 リアはハンバーグの中まで火が通ったことを確認する。ハンバーグをお皿に盛りつける。


「できました」

「こっちもできたぞ」


 千切ったレタスの上にプチトマトをのせたサラダをグラが食卓に運ぶ。

 全ての食事の用意が整ったところに、シャワーを浴びてさっぱりとした神楽がリビングに入ってきた。まだ髪は濡れて、肌は火照っている。シャワーを浴びたことで怒りも落ち着いたようだ。


「丁度食事の用意ができましたよ」

「そう。いつも通り完璧なタイミングね」

「さあ食べようぜ!」


 グラはいつの間にか席についている。二人も苦笑して自分の席に着いた。


「「「いただきます」」」


 グラと神楽が勢いよく料理に貪りついた。グラはいつものことだが、神楽はおなかが減りすぎてリアの視線を気にする余裕はない。もうすでに諦めた。二人は幸せそうに頬を緩める。


「「あぁ…美味しい…」」

「それは良かったです。よく噛んで食べてくださいね」


 二人は黙々と食べ続ける。よく噛んでゆっくりと味わいながら飲み込んでいく。ハンバーグから肉汁が溢れ出す。しかし油っぽくない。いくらでも食べられそうだ。


「あなたのも貰うわね」


 神楽がリアの食べかけのハンバーグをお皿ごと奪いとる。そして、瞬く間に彼女の小さな胃袋に消えていく。


「ちょっと! おかわりはありますから僕のを食べないでください! あぁ…もうなくなっちゃった」

「ああ…美味しかった。これくらいいいでしょ! 私にあんなことしたんだからハンバーグくらい安いものでしょ」

「そうだぞ。乙女の嬌声なんて本当はもっと高いんだからな!」

「ちょっとグラさん!」


 神楽がグラのハンバーグまで奪い取ろうとするがグラはお皿を庇って死守する。二人の間で火花が散る。二人の間で攻防が続くが、グラがハンバーグを全て食べ終わったことで勝負が終了した。

 仲良さげな二人を見ながらリアが優しく問いかける。


「おかわりを食べますか?」

「「食べる!」」


 仲良く同時に答えお皿を突き出した二人に、リアは立ち上がっておかわりのハンバーグを取りに行った。



 ▼▼▼



「「「ごちそうさまでした」」」


 三人は手を合わせて挨拶をした。食後にお茶を飲みながら三人で語り合う。


「いやーリアの料理は本っ当に美味しいな」

「ですよね」

「ありがとうございます」


 二人の賛辞にリアが照れたように頭を掻く。


「神楽さん。ここで修業を始めてから一カ月経ちました。最低限の力をつけることは出来たと思いますよ」

「もうそんなに経ったのね。最初はどんなところかと思ったけれど、案外普通のところだったわね」


 ここは現実の世界ではない。リアが作り出した異空間だ。

 ここの空間の一カ月前、力を願った神楽の前にリアが地獄への入り口のようなゲートを作り出した。そのゲートの先がこの空間だ。家のようなキッチンやリビング、寝室もある。そして、先ほどいた訓練場のような広大な空間。

 現実世界との時間を切り離し、この閉ざされた空間でリアとグラに稽古をつけてもらった。神楽は毎日毎日死ぬような経験をした。


「ここは普通の家だけれど、特訓内容は地獄だったわ」

「これでもまだまだ基礎の基礎の基礎くらいですよ。これからがもっと地獄です」

「まだやるわ」

「良い覚悟ですね。ですが、神楽さんは一度現実世界に戻ったほうがいいでしょう。この空間にこれ以上いるのは危険です。僕が創りだした世界に侵食される可能性があります」

「侵食ってどういうことかしら?」

「簡単です。飲み込まれて消滅します。簡単に言えば神楽さんはこの世界では異物です。異物は消去される。これがあらゆる世界のルールです。ここは僕が創った完全な独立世界。おとぎ話や伝説に残っている異世界とは違います。これらは元の世界の空間を広げただけです。独立した世界ではありません」

「わかったわ。あとでもっと詳しく聞きたいのだけれど、これだけは言わせて頂戴。あなた世界創造を行ったの?」

「ぶっちゃけるとそういうことです」


 世界創造。それは神が行ったと言われる御業。リアの言うことが正しいのなら、この世界の創造神はリアだ。


「というわけで、神楽さんが消されないうちに元の世界に戻りますか」


 リアが手を振ると周囲の景色が切り替わる。気づいたら見慣れた高校の家庭科室。三人は椅子に座っていた。


「あ、あれ? 私行くとき地獄の入り口をくぐったのだけど?」

「あれか。リアがお前を怖がらせるための演出だぞ」

「はぁ!?」


 リアは視線を逸らしている。いつも通りの真面目な顔だが、唇がわずかに緩んでいる。


「リア・クルス。あなた私に三発くらい顔面を殴らせなさい」

「神楽さん。最近言動が暴力的ですよ。もっと女性らしくお淑やかにしましょうよ。ほらほら、振り上げた拳を下ろしてください」


 神楽はリアに飛び掛かり、顔面を殴りつけるが彼は最小限の動きで避ける。避けられた神楽は、続けてありとあらゆる方向からフェイントを交えながら拳を繰り出すが彼には当たらない。お茶の入った湯飲みを持ちながら余裕綽々で避ける。一滴もお茶をこぼすことなく躱しながらお茶を飲む余裕もある。


「ふむ。少しはいい動きをするようになりましたね」

「当たりなさいよ! この変態! 女誑し! 色欲悪魔!」


 魔力を限界まで循環させ、本気でリアに殴りかかるが一切当たることはない。

 数分後、体力がなくなった神楽が床に倒れ伏した。息を荒げている。


「ふむ。もっと体力をつけないといけませんね」

「魔力循環でどうにかならないか? 神楽は心肺機能まで強化できてないぞ」

「そういえば教えていませんでしたね。明日からは少し座学を入れますか」


 グラとリアがこれからの訓練メニューを話し合っていると、神楽がようやく復帰した。目に怒りを浮かべているが、リアに殴りかかることはない。もっと強くなって生きている間にリアを殴り飛ばすと決意している。


「神楽さん、今からどうしますか?」

「どうするって言われても。というか、今はいつなのかしら? あの世界では一カ月たったのだけれど」

「時間は経っていませんよ。神楽さんがこの世界から僕の世界に行ってから時間は経っていません。一秒たりとも」


 ということは、この日の前日の夜に神楽の家が女の吸血鬼に襲撃され、この世界の数分前にリアを教室から連れ出したということだ。リアの世界で一カ月経ったので、もう遠い昔のようだ。


「頭が混乱してるわ」

「だろうな。慣れるまで大変だぞ。リアの世界では肉体の時間は変化していないから安心しろ。浦島太郎にはならないぞ」


 肉体が急に老化しないことには安心したけれど、タイムスリップのような経験をしている神楽は混乱が収まらない。


「よし! 考えるのを止めるわ!」

「それがいいかと思います。神楽さん的には一カ月経った状態なので記憶が少し曖昧かもしれません。今日は一度帰ったほうがいいかと思います」

「それもそうね」


 神楽は帰ることに決めた。そういえば、この世界での今日、神楽は病院を抜け出し授業中のリアに突撃したのだった。怪我もリアによって治されているので、入院する必要はない。とりあえず、半壊した自宅へと帰ってみようと決めた。


「んじゃ、気をつけて帰れよ」


 グラが手を振って神楽とリアを見送る。グラはまだ仕事がある。リアはこのまま神楽を家まで見送るそうだ。

 リアと神楽は学校を出て駅に向かって歩く。神楽が少し歩きたいということで、転移はしないことになった。

 二人でしばらく無言で歩きながら、ふと神楽がリアに問いかけた。


「ねぇ、精霊を使役するためにはどうしたらいいの?」

「突然ですね」

「別にいいじゃない。もっと強くなってあなたをぶん殴るって決めてるんだから」


 拳を握り、目に怒りの炎を宿している神楽を見てリアが苦笑する。世界を滅ぼすことができる大悪魔を殴ると言っているのだ。目標は遥かに高い。


「頑張ってくださいね。僕は遥か高みにいますよ」

「そんなの知ってるわ。だから早く私を強くさせなさい」

「ふふふ。いいでしょう。それはそれで面白そうです。精霊契約でしたね。ただ話しかけて魔力を与えるだけですね。精霊が魔力を気に入ったら呼びやすいように名付けをします。それで契約終了です」

「簡単なのね」

「ええ。神楽さんには精霊が見えているので簡単ですね。契約していない精霊でも、魔力を与えてお願いしたら、気まぐれで魔法を使ってくれる精霊もいますね」

「へぇ。試してみてもいいかしら?」


 興味津々で神楽が聞いてきた。顔が輝いている。しかし、リアの表情は険しい。


「今は止めておきましょう。今度、格の高い精霊が多い場所へ連れていきますので」

「わかったわ」


 神楽は少し残念そうだ。精霊眼という魔眼を持っている神楽は精霊の姿を視認することができる。彼女の眼にはあちこちを飛び回る精霊の姿がたくさん見えている。


「さて神楽さん。僕の世界で一カ月間特訓しましたが、魔力循環の練習と基本的な体術しか行っていません。あの女性の吸血鬼にどれくらいまで対応できるか、僕も正直わかりません」

「あぁ…そういえばあの吸血鬼がいたわね。でも、あなたたちよりは弱いでしょう?」

「ええ。僕とグラよりは圧倒的に弱いですが、神楽さんが倒すと宣言していましたよね。彼女は神楽さんの屋敷を襲撃したとき本気を出していません。あれからまた何人か喰らっていたらもっと力をつけているでしょう。神楽さんを狙っている様子でしたので警戒していてください」

「わかったわ。そういえばこの護符(タリズマン)を使ってしまったわ」


 神楽が胸もとにあるヤドリギでできた十字架のペンダントを握りしめる。吸血鬼に襲われたとき、十字架が光り輝き、神楽を守ったのだ。


聖光の誓い(ミストルティン)護符(タリズマン)ではありませんよ。それに使い捨てではありません。そのまま肌身離さず着けていてください」


 意味ありげに微笑むリア。このペンダント”聖光の誓い(ミストルティン)”は一体何なのだろうか、と神楽は思うが彼は教えようとしない。微笑んでいるだけだ。


「今度あの女性の吸血鬼に出会ったらどうしますか?」

「戦うに決まってるでしょ!」

「そうですか。では覚悟を決めてください」


 どういうこと、という神楽の声を無視して、リアは足を止め後ろを振り向いた。少し後ろを歩いていたのは帽子で顔を隠した女性。長い黒髪が見える。ラフな格好をしている女性だ。リアは彼女に話しかける。


「ごきげんよう。吸血鬼のお嬢さん」

「あら? バレていたの?」


 帽子を取り、顔を上げた女性は神楽の家を襲った、左目に眼帯をつけた美女だった。魔法で髪の色を変えていたのだろう。パッと見た感じはわからない。綺麗な黒髪が鮮やかな金髪に変わる。そして、隻眼の右の紅の瞳が輝いている。


「アナタは初めまして。そして、素敵なお嬢さん、昨日ぶり。お家は大丈夫?」


 血に飢えた美女は真っ赤な唇を吊り上げ、嗜虐的な笑みを浮かべた。


お読みいただきありがとうございました。


次の話が出来上がるまでしばらくお待ちください。

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