3話「優等生の真実」
描写があまり進まない時は無理矢理進めるに限る。
今回も道草目線です。
「情報不足だってことがよく分かったし、とりあえず周辺を散歩してみないか?日代」
夕飯のこともあるので取り敢えず辺りを探索することにした。
「そうだね、寝すぎたせいかは分からないけど、なんか体鈍っちゃったしね、歩こう歩こう!」
ただ散歩するだけで随分と上機嫌になった日代を尻目にそこら辺の小石を拾いあげる。
「ねえ道草くん、どっちに行く?」
その問いの正答があるのかどうか、それすら分からない為、正直どっちでも良い。
「あー、どの方向でもいいぞ?」
「じゃあ日が沈み始めてるから夕陽に向かって歩こう!」
その異様な溌剌さが気になり、つい訊いてしまう。
「お前なんでそんなに元気なんだ……?」
「んー探検って楽しいでしょ?」
小学生と同じテンションに若干引いたが、陰気臭いよりかはマシであることは明白なのでソッとしておこう。
そう思いながら足で地面を軽く掘り、手に持っていた小石をその中へ入れ、足回りにあった石を爪先で動かし小さな穴へ入れた。
「道草くん?なにやってるの?」
「あぁ、まぁ目印みたいなもんだ。
役に立つかは知らんけど。
あ、ちょっと待ってくれ、一応、拳ぐらいの大きさの石を持っておこうか。
襲われたら投げて抵抗できるからな。」
「道草くん、いくらなんでも警戒し過ぎじゃない?」
「すまんな、性分なんだ。あといい加減名字は長いから楓でいいぞ?」
「同級生の男の子を呼び捨てにするには流石に躊躇われるんだけど……
まぁいっか!その石、私持たなくて良い?手に持って歩くのも嫌だしポケットに入れたくもないよ……」
まぁ、土の付いた石を持ち歩く女子高生はいないだろうしな。
「あぁ、一応日代にも勧めただけだ。
俺は念のため持っておくとする。」
「じゃあ行こ?お散歩しよう!冒険だ!」
キャラが変わったように楽しそうで何よりだ。
歩いている間、目的も特にないため、なんとなくで話を振る
「なぁ、日代、なんかこう能力的な実感とかあるか?」
「え、そんなのなくない……?」
「それなんだよなぁ……」
「どうせなら瞬間移動とか透明化とか夢のあるやつがいいのにね?」
「結局使えないなら意味なくないかそれ?」
「そうなんだけどねぇー……
実は紙を発光させる能力だったりして……?」
「万が一にでもそんな能力は欲しくないな。
仮にこの紙がゲームのアイテムのようなモノだとしたらだが、あの発光は条件を満たすと起こる現象なのかもしれないな。」
「なにやら頭が良さそうだね、鯔のつまりその条件とは?」
「この紙切れを持ち主がそれぞれ読むこと、かな?」
俺はそう言って紙切れをヒラヒラさせる。
その言葉に日代は芳しくない表情を浮かべる。
「んー、でもそれだと地味に条件が達成しづらいと思うんだけど?」
「あー、まぁポケットの中を確認しなければまぁ、そうなるよな。
でも、ところがどっこいなんだなこれが」
勿体振る俺に対し小首を傾げる。
「実は人間がポケットに手を入れる仕草なんて心理状態次第で簡単に達成されるんだよ。
人間というのは身の危険を本能的に感じとると自然と身体を丸めて的を小さくして警戒するんだが、その時にポケットに手を入れるんだよ。
この異様な状況下でポケットに手を入れるというのは、案外自然な行為なんだよ。」
「なるほどね~、でも私はポケットに手なんて入れなかったよ?」
「そりゃあ、スカートのポケットに手を突っ込んで歩く女子高生なんざいないだろ?
単にポケットに手を入れて歩く行為に慣れてないだけだよ
とりあえず、どこまで把握しての仕込みなのかは分からないけど、
ただの悪戯の度はもう既に越してるということは認識して大丈夫だよな?」
「うーん、もう明らかにね……って感じ……
えーと、話は変わるけど自重をやめた楓くん楽しそうだよ?」
「そういう日代も冒険とかゲームとか意外と、なんていうか、アグレッシブなんだな?」
「うーん、まぁね……
私ね、というよりも私の親なんだけど、子供に期待しすぎちゃう性格でね……
成績とかそういう理由で頑張らなくちゃいけないだけで、得意でもなんでもないんだよね……
どちらかというと物覚えが悪い方だから……
でも、頑張って良い成績をとるとご褒美がもらえてね?
その時に周りの子たちがしていたゲームが欲しくて、その時からゲームとかするようになったんだよね」
「へぇ、優等生の真実はゲームの為か」
「やっぱ変だよね」
そう言って苦笑いを浮かべた日代に言葉を誤ったことに気付いた。
「いや、俗物的だとかは思ってなくて、純粋に、そういう理由で頑張ってるやつもいるんだな、って思ったんだ。」
俺のフォローとも言えないフォローに日代が笑い掛け、
その後もゲームの話で盛り上がり小一時間ほど話し込んだところであることに気付く。
「日代、もう歩かなくていいぞ、意味がなくなった」
急な静止の呼び掛けに日代が困惑しながら足を止める。
「また何か分かったんだね?」
「あぁ、多分あれを見れば日代でも異変に気付くぞ」
そう言って俺は、小石が無造作に入れられた地面の小さい穴に指をさす。
「えっ……?」
疑問が浮かぶのも当たり前である。
俺と日代はただひたすらに夕陽に向かって歩いていた。
一度たりとも後ろに歩いてなどしていない。
「真っ直ぐ歩いていると思ったらいつの間にか曲がってたとかかな?
目を瞑っていると真っ直ぐ歩けないみたいな感じで、ここ森のなかだし」
確かに日代の言う可能性は充分にありえることだろう。
指標のない森の中をさまよっていたら方向感覚を失い兼ねないだろう。
ただ、今回は違う。
「俺たちは『夕陽』という指標に向かってひたすら歩いてただけだ。
それに……」
俺はある木の場所へ向かう。
「この木のキズが見えるか?」
「……うん、見えるよ?それがどうしたの?」
「このキズ、明らかに自然に付いたキズではないんだ。
それはキズの深さと断面の木の色からそれは分かる。」
自然な森で付く木のキズは、小石が当たったり動物が食事の為に乱雑に抉ったり鳥がつつくことによってキズ付くことが多々で、
深く一文字にガタガタの石か何かで抉られるような痕は出来ない。
「じゃあ、楓くんは誰かが人為的にこれを付けたって言いたいの……?」
不安そうな表情を浮かべる日代に俺はただ真実を述べる。
「誰かも何も、歩き始めてからずっと俺が木にキズつけて目印にして歩いてたんだけど……」
「え……?」
「んー……日代……慧眼なんじゃないのか……?」
日代が顔に紅葉を散らしたように色を変え、何か言いたそうにこちらを凝視しているためお手をあげることにした。
「うん、ごめん、からかっただけだ。」
日代は俺の顔から背けた。
「ちゃんと理由があるんだ。
試してみたいことがあってだな……」
言い訳染みた前置きに聞く耳を持っているかどうかは顔が見えないため判別出来ないが、俺が弁明を述べようとしたところで、
俺たちは新たな異質に阻まれた。
「こんなところに人がいるなんて、森羅の変遷かな?」
聞き慣れぬ声に振り返ると
そこには浮遊する羽のある幼子、いわゆる妖精と謳われる異質がそこにあった。
「日代、お前ゲーム好きだろ?振り返ろよ。からかわないから、頼むからこの現状を俺一人に押し付けないでくれ」
本当に聞く耳がないのか、日代は未だ振り返らなかった。
この現状をどうしろと言うんだよ。
次回は日代目線からやってきます。
女の子目線は今まで書いたことないので頑張りまっす。
TKG美味しい。