第8話 少女の誓い
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「もう一度、指を突っ込んで……あと19回唱えて!」
セイコさんは、おっかなびっくり指を入れて呪文を唱えだした。
『鑑定』スキルで傷口とセイコさんを観察する。セイコさんが呪文を唱えるたび、数字がカウントアップしていき最後には『内部出血あり』の文字が消えた。
しかも、セイコさんの魔力は殆ど減っていない。最低レベルの『治癒』魔法では魔力の自然回復のほうが勝っているようである。つまり『聖女』スキルによって聖魔法を行使する際には通常の100分の1程度に魔力の消費が抑えられているということだろう……全く、なんてチートなのよ。
「あっ。レベルアップしました……スキルポイントって、どうしたらいいのですか?」
バカ聖女め。自分のスキルポイントだろ。聞くなよ。
この場面で使うとしたら、一つしかない。魔術師のレベルを上げることだけ。魔術師のレベルが上がれば最大魔力も格段に増え、使える魔法も増えるはずだけど……。
待てよ。
「セイコさん? 女神さまは何て言っていたの?」
「ええと、たしか……スキルポイントは聖魔法を上げるために使ったほうがいい……とか……。」
やはり……というか、最善手を教えて貰っているじゃない。ならばさっさとスキルポイントを投入しろよ。
「じゃあ、聖魔法にスキルポイントを投入してくれるかな。」
「……わっ。聖魔法がレベル5まで上がりました。」
中級の『治癒』魔法が使えるようになったらしい。全くチートすぎるだろう……。普通はスキルポイント1ポイントにつき1レベルしか上がらない。ユウヤのように成長チートがついても経験値が割り増しになるだけ……。
「……じゃあ残りの人たちの治療はお願いするわ。」
少々無責任だが、この場から離れさせてもらおう。私は頭に浮かんだある考えに捕らえられてしまったのだ。
*
「大丈夫か?」
後ろを振り向くとサンジェーク陛下とユーストリングス団長の心配そうな顔がすぐ後ろにあった。
「ごめんなさい。少し疲れました。部屋に下がらさせていただきます。……でももし誰かの容態が悪化したら起こしにきてください。すぐに対処させていただきますので……。」
そのまま逃げるように部屋にたどり着く。
貼りつくある考えとは、団長だけでなくもう一人の男も救えたのではないかということだった。
私はセイコさんを見くびり過ぎたのではないか……私は2度目の異世界召喚で調子に乗ってしまったのではないだろうか……もし真剣に彼女のスキルを伸ばしていれば……あの男もきっと……。
私は部屋のベッドの中に潜り込むと枕に顔を押し付ける。
う…う…う……う…うっ……。
取り返し……が……つ…か…な…い。
ううっ……私……は、なんてことを……。
*
冷たくて……気持ちいい……。
どうも、あのまま寝てしまったらしい。顔に冷たいタオルが置かれており、それがヒンヤリして気持ちいいのである。
「ごめんなさい。起こしてしまったかしら。」
身を起こすと傍にセイコさんがいた。周囲を見渡すと既に夜になっており、燭台の僅かな
が灯っているだけだった。
「あのぅ……。」
「ありがとうね。貴女が教えてくれなければ何も出来なかったのに、今日は沢山、感謝されちゃったわ。今まで生きてきて一番……いや二番目にいい日だわ。」
彼女のことだから、きっと女神に会えたあの日が一番なのに違いない。
「でも気付いてあげられなくてごめんなさい。とってもツラかったのね。私なんて貴女に甘えてばかりで、でも大丈夫。ツラいことは私にも分けてちょうだい。一緒に泣いてもいいじゃない。」
思わず、彼女に抱きつく。こんなにも、欲しい言葉を言ってくれる人はいなかった。涙が溢れて止まらない……。
「そう、ごめんなさいね。目の前で人が死んだんだもの。ツラくないわけないじゃない。いくら泣いても構わないわ。一緒に泣きましょう……。」
私の頭を撫でる手が優しい。優しいその手でますます涙が止まらなくなってしまう。
*
どんなにショックなことがあろうともお腹は減るものらしい。それとも散々泣いたから、お腹が減ったのか……。
私は彼女の胸に抱きつくようにしてベッドに寝ていた。彼女をおこさないように、そっと抜け出すと傍らの机に昨夜の夕食らしきものが並んでいた。急にお腹が鳴る。現金なものね。あれだけ自己嫌悪に陥っていたのにお腹が鳴るなんて……。
私は心の中でセイコさんにお礼を言う。そして、何があっても貴女だけは守りきると自分の心に誓う。
「あら、目を覚ましたのね。お腹がすいたでしょ。今、温め直すわね。」
私が自分の心に誓いを立て、閉じた目を開くとセイコさんが起き上がっていた。
目の前でセイコさんが『日常』魔法を使って、温めてくれる。『日常』魔法とは魔術師では無い一般人がお湯を沸かしたり洗濯をしたりできる魔法のことで、素養の無い人でもよっぽどのことが無ければ使えるものである。
でも、これが結構覚えるのが大変なのである。例えば、この食べ物を温める魔法は火魔法と風魔法の混合で一般人でも使えるように消費魔力を抑えているせいか、呪文の大部分が省略されており、いまいち意味が通じなないところがあったりするのだ。
「この魔法って、便利ねぇ。」
私もよく失敗して料理を黒こげにしてしまったものだが、セイコさんは一発で成功する。これも『聖女』スキルなのか?
いや違うな。私に温かい料理を出すためだけに一生懸命、練習してくれたんだろう。このひとはそういうひとだ。
これで第1章が終わりです。
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