第5話 聖女の聖魔法
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「ねえねえセイコさん。セイコさんって大怪我をしている人をみたことがあるの?」
サンジェーク陛下の後ろを2人で歩きながら、隣のセイコさんに尋ねる。
聖マリアンナ教会は聖マリアンナ女学院に併設されて……いや反対か。とにかく教会のシスターでもあるのだ。海外で戦争をしている所で慰問とか行っていると良いのだけど……。
「はい。被災地でのボランティアの経験はあります。」
あっちゃー。どうも大怪我をした直後の人を見た事がないらしい。ボランティアでは凄惨な現場の状況は見られるだろうが、生死に関わるような大怪我をしている人は余程、運が悪い人でないと見れないだろう。
大丈夫なんだろうか……。現場で卒倒なんかされると連れてきたサンジェーク陛下の立場は……どうでもいいけど……私の立ち位置が難しい。一緒になって卒倒したフリなんかできるはずも無いし、淡々と『治癒』魔法を使うのも場慣れしているようで、聖女じゃない、と疑われかねない。
「何を見ても吐いてはダメよ。どれだけ込み上げてきても、それだけはダメ。貴女が行くと言い出したのだからね……。」
「……わかりました。」
隣の彼女をそっと見ると、唇は白くなり顔面は蒼白になっており、両手は握り締められている。これは、初めから軽傷者のところへ連れて行ったほうがいいかもしれない。
*
到着した救護室は小学校の教室ほどの広さがあったが、扉の外に数名の負傷者が溢れていた。
「これは、これは、聖女の方々お待ちしておりました。」
筆頭魔術師のジーニアス・テンダー伯爵が迎えてくれる。
「いえ。分かってらっしゃると思いますが、聖女といっても万能ではありません。死者を生き返らせるようなことはできません。しかも私たちは、成り立てなのでそのう……。」
ここは正直にできないことはできないと言っておく必要があるだろう。いくらチートな『聖女』スキルを持つセイコさんでも居るだけで、怪我が治ったりはしない。ましてや、聖魔法レベルの低い私たちでは、出来ないことのほうが多いと言っても過言じゃない。
前の召喚先の世界では、大量な魔力を消費するが聖魔法レベルが低い魔術師でも使える『再生』魔法があったのだが『知識』スキルで探してみても、この世界には存在しないのだ。
「分かっていますよ。残念ながら私もこの辺りに居る軽傷者を治すのが精一杯なのです。あなた方に作って頂いた上級ポーションでどれだけの命が救われるか……。それだけで、もう……。」
テンダー伯爵は悔しそうに下唇を噛み締めながらも、手を休めることなく負傷者に『治癒』魔法を使っているようだった。
「では、これをお使いください。」
私とセイコさんは『箱』から取り出した上級ポーションと効果が上級レベルの中級ポーションを手渡した。
「ほら、私たちも頑張って治療しなきゃね。」
「…………」
セイコさんは既に泣きそうになっている。きっと多くの負傷者を見て心を痛めているのだろう。
1人の負傷者の前にくる。ごめんなさい。貴方を『治癒』魔法の教材に使わせてもらいます。心の中で謝っておく。
「すみません。傷の様子を見せて頂けませんか?」
「聖女さまですか。できれば、団長のほうを診て頂けませんでしょうか?」
先ほどまで痛みを堪えた表情をしていたのに気丈にも騎士団の団長に譲る気らしい。自分は生死に関わらない怪我と分かっているのだろうし、それほど団長の怪我が酷いということなのだろう。
今度は私が下唇を噛む番だ。渡した上級ポーションでなんとかなってくれるといいのだけれど……。
「そうですか……では、よろしくお願いします。」
私が首を振ると察してくれたのか、文句も言わず腕に巻かれている包帯を取り去る。
「ダメよ。目を背けちゃダメ。」
傷口は深く、肉が抉れて酷いものだった。うまく骨で剣が止まったのだろう。出血はそれほどではなかったのが幸いである。
私はセイコさんが頷いたのを確認して、説明を開始する。
「ここに大きなキズテープがあります。これを貼って1日経つとどうなりますか?」
手のひらをキズテープのガーゼに見立てて、架空の傷口に蓋をするような仕草をする。
「傷口が塞がり、出血が止まります。」
「そうです。それをイメージして、私の言う通り唱えて……。」
私は『知識』スキルを使い、この世界の『治癒』魔法を呪文を唱えてみせる。
「やったー。傷口が塞がりました。」
あっさりと成功してみせてくれる。やはり『聖女』スキルは聖魔法チートのようだ。私なんて10回使い続けても殆ど効果がなく。あっさりと魔力が枯渇してしまい、泣く泣く自分でつけた手の指の傷を我慢して寝たものだったが……。
「貴女は、この周辺の負傷者を治して……。私は、中に居る軽傷者たちの手当てをするからね……。」