第4話 騎士団の負傷者たち
「今日もポーション作りでお願いします。」
迎えに来たサンジェーク陛下にそう答えると不満そうな顔をする。実はこの3日間で、遠征に向かう第6王国騎士団と第3王宮騎士団の分は作り上げてしまった。だけど、私は凝り性だ。折角、薬草園なるものがあるのだから、上級よりも上のランクのHPポーションも作りたかったのだ。
それにセイコさんも中級ポーションの成功確率が上がってきているから、もう少し頑張れば強い効き目の上級ポーションが出来るに違いない。
「わしのことを理解しようとしてくれるのは嬉しいのだが、王宮の中でも綺麗な花とか建物とか見れる場所へお連れしたかった……。」
待って! なんでそんな解釈になるのよ。もしかして、この王様って頭に花が咲いているの?
それとも、将を射んと欲すれば先ず馬を射よ、ってことなのだろうか。こちらのほうがシックリくる。まずは私を落としてから、セイコさんを落とそうというのね。油断しない。油断しないぞ。
「陛下は執務があるのでしょう? 薬草園はふたりだけでも行けますから、どうぞお仕事をなさってください。」
このところ、私たちにつきっきりで執務が滞っているらしく。何処に行っても書類を持った役人たちが行列を作っているのだ。
「仕事なんぞ。何処でもできる。サインするだけだからな。だが其方たちを持て成すのも、国王としての立派な仕事だ。」
随分と男前の発言だが、私たちの前では始終こうなのだ。全く心に響かなくて、言葉に対して申し訳無い気持ちになる。
*
私は思わず心の中でガッツポーズをする。とうとう薬草園で取れる材料で作れる最上位ランクのHPポーションを作ることに成功したのだ。
これは『箱』の中に仕舞っておくことにする。改めて『鑑定』スキルで確認してみると伝説級のランクになるらしい。瀕死の重傷でも腕や足を失っても回復できるレベルのものだ。本来ならば、材料にも伝説級の獣の内臓や採取が非常に困難な薬草が必要となるはずだ。
こんなものを薬草園の材料だけで作ったとなれば欲に駆られた人々が擦り寄ってくるに違いない。面倒を避けるために隠しておくべきだろう。
「大変だ! 今ある回復系のポーションをく、頂けますでしょうか。」
前触れもなく、騎士が駆け込んでくる。駆け込んで来た男が、その場に居たのがサンジェーク陛下と知ると慌てて頭をさげる。
「どうしたのだ! まずは報告しなさい。」
「はっ報告します。王都周辺の哨戒中の第5王国騎士団のチームが数百人を超える山賊に襲われ、撃退かなわず、団員数名が負傷し捕らえられましたが、報告を受けた団長たちにより奪還しました。しかし、この戦いで団長を含む5名が重傷。数十名が軽傷となっております。」
サンジェーク陛下はこちらをチラリとみると、騎士の耳元で何かを囁いている。私たちには聞かせたくないはなしらしく、騎士もサンジェーク陛下の傍でボソボソと説明している。どうも、怪我の状態を確認しているようだ。
「わかった! 救護室だな。至急、ポーションを向かうと伝えてくれ。」
「はっ、わかりました。失礼します。」
男は身を翻すと足早に去っていった。
「そういうわけだ。すまんが、わしは向かわなくてはならなくなった。其方たちは引き続き作業を続けてくれ。」
「こういうときこそ、私たちの出番じゃないんですか!」
セイコさんが毅然と言い放つ。
ああ言っちゃたよ。私は慌ててセイコさんに『鑑定』スキルを使う。やはり、全てのスキルや職業レベルが丸見えだ。基本スキルの使い方のときに教えたはずなのに、隠そうなんて考えもしないのなろう。
聖魔法レベルは……やはり低い。これでは軽い怪我しか治せない。召喚されてから、まだ敵を倒したこともなければ、『治癒』魔法を使ったことは無い。それでは上がるはずもないか。
そもそも、この性格で敵を倒すことなんてできるのか?
なるほど、あの女神考えたな。『聖女』スキルなら、闇の生き物は近寄れもしないか。だが相手が人間だったら……例えば、山賊とかに囲まれたら……説得する、とか言い出すかも……。
「ダメだ。とても其方たちに見せられる状況じゃない。」
何を悠長なことを言ってるんだ。こちとら何千人という人々の生き死を見てきているんだ。なんてことはわからないよな。でも、手を握り締め震えながらも主張するセイコさんを見ていたら、そう言われてしまうか。
「とにかく、参りましょう!」
私はそう言って手近にあったポーションを全て『箱』に入れていく。どうせセイコさんの性格から言ってこのまま見逃すなんてありえないのだ。それならば、私が主導権を握って動かしていくほうが、はるかに楽なのだ。
サンジェーク陛下は諦めたのか、棚にあった上級ポーションを鞄に詰めると先頭に立って歩き出した。
良かった。念のため『探索』魔法を使い、先ほどの騎士は追いかけてはいたが、必ずしも救護室に向かったか、わからなかったのである。