第3話 聖女たちのトーク
「ダメねえ私って。もしかしなくても足を引っ張っているよね。ごめんなさい。」
出来上がったポーションをサンジェーク陛下が大事そうに運んでいく姿を見送った。ようやく、つかの間かもしれないが解放されるらしい。
そんなこと無いです。十分に凄いですって……。
流石に見本のポーションの効果が上がってしまったことは説明できなかったが、ゴミと思われた中級ポーションのことをサンジェーク陛下に説明しても、褒められたのは私だけなのでセイコさんが落ち込んでしまったのだ。
しまった。こういう手段も取れるのか……他人と比較されてイジメ抜かれる……王族を犠牲にしてまで召喚してやることか?
だけど、私が聖女じゃないと疑われて彼女と引き離されても問題だし、しばらくはスキルを駆使して立派な聖女を装うしかない。
「大丈夫ですよ。初めは誰でもこんなものですから、私も初めて召喚されたときは酷いものだったんですから……」
向こうの世界で異世界転生していた彼女には、めちゃくちゃ迷惑をかけ通しだった。あのときはユウヤのことしか頭になかったから、彼女がうまくフォローしてくれなかったらチームが空中分解するところだった。
「そうだったの。えっ中学生で、魔王相手に戦ったの? 凄いじゃない。」
別に『知識』スキルが凄いのであって、私が凄いわけじゃない。あの世界の幾つかの知識を組み合わせると永久ループ的にレベルアップできる手段を見つけただけなのだ。魔術師だけが使える手段でユウヤに文句を言われたのなんのって……。
「私なんて、何をやってもダメよ。クッキーを焼いても真っ黒に焦がしちゃうし、ビン詰めしている最中にうっかり大量に生徒が作ったワインをダメにしてしまったこともあったのよ。」
天然のドジっ子属性のようだ。
聖マリアンナ女学院の数量限定のクッキーと生徒が作るワインは有名だ。ワインはもちろん飲んだことは無いがお父さんが行列に並んでも買えなかった、と悔しがっていたことが思い出される。
こちらもお土産として有名なクッキーは各地の物産展で必ず目玉商品として出されてあっという間に売り切れてしまうもので、むちゃくちゃ美味しいものだった。
そういえば、向こうの世界の彼女もよくお茶請けにクッキーを出してくれたな。なんでも貴族の令嬢の嗜みとしては普通なのだとか、まあ最後に彼女が開発した炭酸泉で作ったホットケーキもどきやベビーカステラもどきに比べれば普通なんだけど……。
私が見てもセイコさんは、可愛いと思うのになんでサンジェーク陛下には受けないのだろう。やはり、セイコさんの前世に恨みを持つ人物なのだろうか。
それともユウヤほどではないけど、ロリコン?
20歳以上は生理的に受け付けないとか。そんなことは無いか。正妻も側室もいらっしゃってそれぞれに子供がいるという話だったのだ。それは有り得ないだろう。
私はさかんに基本スキルの使い方を説明する。基本的に女神がくれるスキルは習うより慣れろ方式なので碌々教えてくれない。でも流石に基本スキルというだけあって、いろいろと応用が利くので使い方となると多岐にわたる。
ぞぞっ。
私が右ななめ前を見るとそこには……。
「いつのまにソコに……居られたのですか。」
いつのまにか部屋の入り口付近にサンジェーク陛下がいらっしゃったのだ。そして、何が楽しいのか私たちの様子を見ていた。それはそれは楽しそうに……。
「いや。邪魔したら悪いかなと思ったのだが……何を話していたんだい?」
「いえ。あの……私たちの基本的な能力についてちょっと……。」
詳しい内容は説明しないほうがいいだろう。
「スキルってやつだよね。『箱』と『状態』と『鑑定』と『翻訳』だったかな?」
スラスラと出てくるなんてどういうことなんだろう……。聖女として召喚したあとに攻略するためにそんなにも勉強されているのか。これはますます油断できない。
「よくご存知で……。」
「もちろんだとも。過去に召喚された聖女たちが教えてくれたことが国庫にある書棚の本に記録として残っているのだよ。」
頭の中で『知識』スキルで読み解くと沢山の記録が残っていた。だが基本スキルのことばかりで、『聖女』スキルのことは何も残っていない。
もしかして、セイコさんが初めての『聖女』スキルの持ち主なのかも。過去の聖女たちも聖魔法レベルが高いだけで他のスキルの持ち主ばかりで、自分固有のスキルはひたかくしにしていたのだろう。
そう思うと少し気が楽になる。もともと召喚相手が聖女だと決め付けているだけ。こちらが騙ったわけじゃないのだ。