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第1話 聖女召喚

「陛下、おめでとうございます。『聖女召喚』に成功しました。」


 私たちが四角い空間に降り立つと目の前の魔術師の格好をした男が傍らの男性に報告している。どうやら、この世界では異世界転移の『召喚』魔法のことを『聖女召喚』と呼ぶようである。


 『知識』スキルによると代償に王族の命が必要なこの国特有の魔法で、過去に召喚された女性は例外なく闇の生き物を退けたという。


 私は巻き込まれた一般人のフリをしようか悩んだが、バージョンアップされた『状態』スキルで聖魔法以外のステータスを全て隠すように設定した。万が一、目の前の魔術師に『鑑定』魔法を使われても、見かけは傍らのシスターとなんら変わらないはずである。


「うむ。だが2人も居るようだぞ。」


 陛下と呼ばれた男性が頷くと同時に疑問を呈する。過去の『聖女召喚』は常に1人しか召喚されていないらしい。


「報告します。王宮周辺に居た魔獣たちが消えていっています。」


 金属製の甲冑を着た人物がこの部屋に入ってくるなり、男性の前に跪き声をあげる。


 女神の話では彼女が選択した『聖女』スキルはレベルにより半径5キロメートル以上の範囲の闇の生き物たちが半強制的に転移させられるスキルらしい。


「うむ。彼女たちのどちらかが『聖女』で間違いは無いらしいな。」


 傍らのシスターが高潔な人物といえど人間で現在の状況についていけず、パニックになっているらしい。ここは少しリードする必要があるだろう。


「ここは何処ですか? 貴方たちは何者ですか?」


 私は傍らのシスターの前に出て行きその姿を隠すようにして問いかける。万が一、この場所に彼女の前世に恨みを持つ人物が居たら危険だからである。


 陛下と呼ばれた男性の視線がこちらを向く。


「シェル……シェルなのか?」


 男性が目を細めると何かを呟いた。


「申し遅れました。私、渚佑子ショウコと申します。こちらが聖子セイコさんです。誰かとお間違えでは……。」


 今、セイコさんの方を向いて言ったのか?


 この人がセイコさんの前世に恨みを持つ人物だとしたら最悪だ。こんな権力者相手にどうしたら勝てるというのだろうか。


 ……待て待て諦めるのはまだ早い。『知識』スキルによると聖女は、身分の上では国王と同等もしくはさらに上位に位置する、とある。


 セイコさんの性格では拒否なんかまずできないだろう。ましてや国王に命令するなんて絶対に無理。私なら前の召喚先でも各国の国王と友好を深めていたから、空気を読みながら命令するのは容易いはずだ。ここは、どうしても最後まで聖女を演じきる必要がありそうである。


「すまぬ。紹介が遅れた。お主たちを召喚したアルフォード国王サンジェーク・アルフォードだ。アルフォード王国、そしてこの世界を救ってくれぬだろうか……。今、この世界は危機に瀕しているのだ。」


 セイコさんは私の背中にしがみ付いたままガタガタと震えている。やはり、この人がセイコさんの前世に恨みを持つ人物なのだろう。


「この世界を救うことが出来れば、元の世界に返して頂けるのでしょうか?」


 この辺りが肝心だ。なにせ『送還』魔法に必要な犠牲は王族だ。『召喚』魔法が成功しているということは、既に犠牲者が出ているはずだ。ということは、送り返すのに必要な王族の用意は無いと見たほうがよいのかもしれない……。


「ああ、約束する。この身に変えても必ず送り返す……。」


 意外にも元々考えていたのかサンジェーク陛下が即答してくれる。これは文字通り、自分を犠牲にしてでも送り返してくれるつもりらしい。だがそのときには、本当の目的であるセイコさんに恨みを晴らしているつもりなのだろう。


 だから、自分ひとりの犠牲で送り返せると踏んでいるみたいだ。


 かなり難しいがこの世界を救いながら、セイコさんを守りつつ、この人ともう1人の生贄で元の世界に戻るしかないらしい。


「陛下!」


 サンジェーク陛下がしっかりとした口調で約束した途端、隣にいた男性が口を挟む。


「仕方が無いだろうジーニアス。お前も王国一の魔術師である筆頭魔術師として誓うんだ。分かっているだろう。」


「これ以上の犠牲は……。」


「大丈夫だ。わしがいなくなっても、人々さえ生きていればなんとかなるもんだよ。心配するな。」


「その方が魔術師なのですか? そうすると実際に私たちを召喚したのは、その人なんですね。」


 とりあえず王族の犠牲が必要なことは知らないフリをする。セイコさんに知られたら、元の世界に帰らないと言い出すだろうから……。


「そうだ。筆頭魔術師のジーニアスだ。位は伯爵……だったな。」


「……ジーニアス・テンダーです……私からもお願いします。この世界を救ってください。」


 一瞬、その鋭い眼光で凝視された気がしたが、そのまま目を伏せて頭を下げてくる。


「ここで長話もなんだ。別室に案内しよう。」


 サンジェーク陛下がそう言うと後ろを振り向いて歩きだした。


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