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第14話 陛下の隠密

ブクマと評価ありがとうございます。

「それじゃあ、頑張ってね。」


 まあ、ユーストリングス団長が居ても居なくても変わりないしね。


「おいおい、手伝わないつもりかよ。」


 おいおいって、こちらが言いたいわよ。最優先課題は国内の『聖女巡礼』を早く完了して国民の憂い祓うことなのに……。立場上どうしてもやらなければならないのじゃなきゃ、神殿で祈りを捧げるという儀式さえもすっとばして、次の街に行きたいっていうのに……。


「あのねえ。私たちは『聖女巡礼』でやってきているのよ。世直し旅じゃ無いの。」


「だーってよ。俺の顔はこの辺では売れ過ぎているからよ。手足となって、働いてくれる奴がいるんだよ。」


「だからって、『聖女』を隠密のように使わないでよ。いくら『聖女』でも出来ることと出来ないことがあるのよ。」


 サンジェーク陛下は酔っ払っているのか視線を上げてニヤニヤしている。なるほど、そういうことか……。


「えっそうなのか?4代前の『聖女』は音もさせずに魔王の後ろに忍び寄り、首を掻ききって殺したそうだぜ。」


 『暗殺者』スキル持ちなのか。面倒な話を残してくれること。『暗殺者』なら、それらしくしてよね。


「そんなの誰でもできるでしょう。ほら……勝手に寝酒のワインを隠すんじゃないわよ。」


 私は『転移』魔法で移動して団長が後ろ手に隠し持ったワインを取り上げる。


「おわっ。お前、いったい……どこから……。」


 私は団長が腰に挿していた短剣を抜き取り、天井に投げつける。と、ドサッと何かが落ちてくる音がする。


「ほら、本物の隠密もいるんだから、使えばいいじゃない。ねえ。サンジェリーク様。…………女性の隠密を使ってくれるのは、嬉しいですけど……風呂場と寝室は遠慮してくださいね。」


 王宮に居る間もずっと、天井に貼りついていたのよね。『鑑定』スキルで丸見えだったんだけど、誰が放った隠密か分からなかったから、放っておいたんだけど……うっとうしいたらなかったわ。


 彼女は、痛がりもせず血を流している腕で覆面を取り去る。と、そこには女装したサンジェーク陛下と同じ顔があった。なるほど、いざというときは影武者も演じられるのね。


「ショウコさん。ダメでしょ。怪我なんさせちゃあ。」


 そう言ってセイコさんが飛び出していく。すぐさま『治癒』魔法で治してしまう。ダメだって! まだ陛下から紹介を受けて無いっていうのに、万が一、敵の間者だったらどうするのよ。もう……。


「ありがとうございます。セイコ様。」


 中身が女性だとわかっていても陛下と同じ顔で笑うと不気味……。


「いつから気づいていたのよ? 気づかれているかもなんて報告あがってきてないよ。リーナ。」


 陛下の隠密というのはさっきだけどね……。


「申し訳ありません。まさか、気づかれているとは思いませんでした。」


「セイコさん、私たちはお風呂を頂いて寝よ。リーナさん。絶対に覗かないでよ。覗いたら殺すからね。」


 いくら女性でも陛下と同じ顔の人間が覗きに来るなんて許せない。


「ダメよ。悪いことをしている人が野放しなんでしょ。みんなで手分けして情報収集すべきよ。」


 ああ。また言っちゃったよ。セイコさん。もうこの人は……ひとがせっかく……段取りを決めて一番早く進める方法を取ったのに……。


「ダメよ。ダメダメ! セイコさんをひとりするなんてありえない。どうしても、参加したいというのなら……常に私と一緒ね。トイレもだよ。」


「ちょっと待って! まさかあなた達……2人で行動する気じゃないでしょうね。」


 陛下が心配そうに言う。


「大丈夫よ。神殿で聞き込みをするくらいよ。私たちが神殿に居る間に、それぞれ行動して頂戴ね。」


「待てよ。だから、言ってるだろ。ココでは俺は顔が売れているから、ひとりで行動出来ないんだって!」


「もう役立たずね。それなら、サンジェリークと行動すれば……。そうね、役立たずの罰として、寡黙な夫とお喋りな奥さんって役柄でどう? その間にリーナさんは、単独で領主の屋敷を調べる。そんなところかな……。」


 役立たずと言われて心底、不本意そうな団長は陛下のほうを見て嫌そうな顔をする。やっぱり、別れた相方と夫婦の役をするのは嫌らしい。


 私が仕切って方針を決めると、ふむふむと陛下が頷く。これでいいみたい。


「じゃあ、リーナ。私たちも、お風呂に入ってこようか。久しぶりに背中を流してくれるかな。」


 この宿には、定員2名くらいの貸切風呂がふたつあるようだ。


「おいおい。酒も無く風呂も入れないなんて、どうすればいいんだ。」


 まだ、酒にこだわっているよ。いい加減にしてくれないかな……。


「もう……子供じゃ無いんだから、装備品の点検でもしていればいいでしょ。じゃあ、お先に……さあ……こんどこそ行くわよ。セイコさん。」


 不思議なことに隣の風呂から、キャッキャと女性ふたりの話し声がいつまでも続いていた。サンジェーク陛下は風呂に入っていても、サンジェリークになりきっているらしい。


 どこをどう想像しても陛下と隠密が同じお風呂に入っているところなんて気持ち悪いシーンでしかない……。

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