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第12話 御一行さまの食卓

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 ユーストリングス団長が少し鋭い視線になる。


 多くの団員を殺されたことに憎しみを感じているのだろう。


「それって、本当なの?」


 サンジェーク陛下が心底不思議そうな顔で返す。それはそうだろう。盗賊団という悪い奴らなら、裏社会に生きているのが普通だろう。


「嘘を言ってどうする。味方の騎士を奪還に行ったときに見かけた顔だ。忘れるかよ。」


「よく飛び出して行かなかったわね。珍しい。20年前は良く飛び出していって、これで本当に私の護衛かしら。と、思ったもの。」


 おいおい。女装していたとはいえ、一国の王を放っておいて飛び出していくなんて、なんて危ない奴なんだ。いやいや、女装していたからこそ、女性を1人で放っていくなんてありえないよね。


「俺様も大人になったんだよ。同い年のくせに子ども扱いするなよ。だが、奴らもこの街にとっては十分な戦力になるから、周囲を魔獣が居る今の状況では無碍な扱いは出来ないのだろうよ。」


「それで、この店の名物って何なの? この辺りだと煮物が多いよね。」


「いきなり、食いもんの話かよ。サン…サンジェリークがこれじゃあ、団員の奴らが報われないぜ。」


「仕方が無いでしょ。この場で身分を明かすわけには行かないんだから、まずは魔獣たちが居なくなってからよ。盗賊団は魔獣の盾だと思えばいいじゃない。ね。」


 サンジェーク陛下が可愛いつもりなのか。頭を傾ける仕草をする……やっぱり、キモい。


 そのまま、陛下は立ち上がると食堂に向かうようだ。その後をブツブツ言いながら団長と私たちが付いていく。


     *


「ショウコとセイコは食べられないものはあるか?」


「私はどんな粗食でもかまいません。」


 いやいや、そんなことは聞いていないだろうセイコさん?


 サンジェーク陛下やユーストリングス団長相手に粗食とか言ってどうするのよ。


「違うって! セイコさん。食べられないものを聞いているのよ。私はね。生肉はダメだわ。臓物も形が分からなくなっているものじゃなきゃダメ。」


 前の異世界で獣王国でしつこく生肉を勧められた悪夢が蘇る。獣人たちと私たちとは胃の出来が違うのだから、勘弁してほしいといっても分からなかったのよね。仕方が無いから、獣人たちと同じように手づかみで食べるフリをして『箱』に仕舞っていくしかなかった。


「私もそうです。」


 まあ女の子って、そうよね。どっかのオヤジギャルでもないかぎり、屋台で食べるモツ煮が一番だなんてことは無いよね。


「生肉なんて、俺たちでも食べねえよ。異世界人って、そんなものも食べるんだな。」


 なにか誤解させてしまったかしら。とりあえず、ごめんなさい。次にこの世界に召喚されるであろう『聖女』に謝っておく。とりあえずユッケなんて食べ物が日本にあるんだから、間違ってはいないよね。そうよ大丈夫。


「そうか。わかった。オヤジ! 注文いいか?」


 ユーストリングス団長がメニューを指しつつ、次々と注文していく。ニヤニヤと笑っているところを見ると、中に臓物も入っているのだろう。


 きっと私たちが口にした途端、教えてくれるつもりなのだろう。全く親父って趣味が悪いわね。


「それとお勧めの赤ワインを頂ける?」


 サンジェーク陛下がにっこりと注文を取り終わったオヤジさんに向かい追加で注文する。


「へい。とっておきを出すことにしまっせ。」


 オヤジさんが赤くなって返事をする。


「こちらにも白ワインの甘いやつをください。」


 続けて私が注文するとそのまま、オヤジさんが頷いている。


 えらく、態度が違うじゃない! 趣味が悪いわね。このオヤジさんめ!!


「おいおい。酒が飲める年なんだろうな。」


「もちろんよ。こちらの成人は越えているわよ。もちろん、ユーストはダメよ。護衛なんだからね。」


 日本の成人は越えていないがこちらの成人は15歳だ。全く問題無いだろう。


「殺生な。こんなもの水と変わらないぜ。」


「そんなことを言って! いつもいつも失敗するくせに!! お前が少しだけで止められた試しは無いよね!!!」


 サンジェーク陛下が味方に加わる。


「どんなに呑んだくれようと毎回、ちゃんと戦えてるだろうが……。」


 呑んだくれることは反省していないらしい。


「そんなことを言って……今回は3人なのよ。少しは制限なさい!」


「へーい。」


 余程、呑めないことが堪えたのか。ユーストリングス団長が沈み込んでしまった。


 そこに次々と料理が並べられる。どれも美味しそうだ。しかも、どれもワインに合いそうなものばかり……。この男、初めから呑むつもりで頼んでいたようだ。


「ちぇ。こんなことなら、ご飯ものを頼めばよかった。」

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