第11話 聖女の宿
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「ユースト! ユースト!」
うわー。気味が悪い。サンジェーク陛下が更に高い声を出してユーストリングス団長に話しかけている。馬車で走り出して3時間ほど経過しただろうか。まず、最初の目的地であるワンリーグ・シティに到着したようだ。
「なんでございますか奥様。」
この中で一番顔が売れているユーストリングス団長は帽子を目深にかぶり、左目に眼帯を付けている。
「まずは宿の確保ね。料理が美味しいところがいいわ。……カルゴス亭はどうかしら?」
私たちでは、何処が良いのか皆目検討が付かないので案内してもらうことにした。あまりに分相応な宿だったらダメ出しをすればいい。
「カルゴス亭は潰れました。」
「あらっ。あそこの赤ワイン煮は絶品だったのに残念ね。じゃあ、ジャコパン亭はどうかしら?」
「ジャコパン亭も潰れました。」
「そうなの? あそこのうさぎの煮込みが食べられないなんて。死ぬまでにもう一度食べたかったのに……。じゃあ、ユーストのお奨めでいいわ。でも、食事が美味しいとこじゃなきゃダメよ。」
サンジェーク陛下のおめがねに適った赤ワイン煮とうさぎの煮込みが食べられないのは非常に残念だけど、巡礼の旅というよりは食べある記の様相に変わってきている気がする。
まあ、どちらにせよセイコさんがこの国をグルグルと周回することには変わりなく。その結果がもたらすものも同じなのだから、これはこれでいいかもしれない。ただ食べ過ぎには注意しなきゃね。それでなくても、この数ヶ月に5キロほどは太っているもの。
*
わりとこじんまりとした建物の前に到着する。店先に掛かった看板にはナイフとフォークのマークが掲げてあるから、レストラン兼ホテルといった感じかな。
「到着したぞ。荷物は各自……ああ無いんだったな。不審に思われてもなんだから、手提げ鞄のひとつくらい出しておけ。」
『箱』から手提げ鞄をひとつずつ取り出して店に入っていく。私たちは、奥様付きの侍女のフリをすることになっている。
「いらっしゃい。4人さんかね?」
少々頭の髪の毛が少なくなっている亭主が出迎えてくれる。
「3部屋だ。この娘2人の部屋は1つにしてくれるか。」
ユーストリングス団長が部屋割りについて交渉をしている隣でサンジェーク陛下はにっこりと亭主に笑いかけている。
「いやぁ。王都の女は違うね。少々熟れているが凄い美人だ。侍女付きの不倫旅行かい? 部屋はひとつにしても大丈夫だよ。こう見えて口は堅いからね。」
店の亭主は目が腐っているのか。サンジェーク陛下の女装姿が美人に見えるらしい。しかも不倫旅行に見えるということは、陛下と団長の関係もそう見えるということなのだろう。
私たちは中身がタオルだけの鞄を自分たちの部屋に置いてくるとサンジェーク陛下とユーストリングス団長の部屋に向かう。
「もう。いつもコレなんだ。いったい、どこをどう見誤ればサンジェークが美人で俺と不倫しているように見えているというんだ。」
いやいや、サンジェーク陛下を呼び捨てにできる時点で十分に気安い関係に見えますけど……。
「ユースト! 落ち着きなさいな。」
「サンジェーク。これが落ち着いていられるかよ。20年前にこびりついた噂が再燃するかもしれないんだぞ。10年かけて噂を払拭して、やっと嫁さんを貰えたってのに離婚される……。」
この男。ふたまたなのか? 男も女もOKだなんて……異世界の親友が聞いたら、小躍りするに違いない。
「サンジェリークと呼びなさい。どこで誰が聞いているわからないんだからね。まあ田舎の人間にしてみれば、王都からきた化粧をしている女性はすべて美人にみえるのよ。」
まあ、元の陛下を知っているから男に見えるけど、これだけ色白で腕なんて筋肉も付いてないし、どこで調達してきたのか胸の膨らみまで再現してある。全く普通の熟女さんだ。
「しかし、道中。魔獣の影すらも居なかったな。こんなにも視界がキレイだったのは何年ぶりだ。この間、通った時は魔獣と戦いながらの道中だった……。」
ユーストリングス団長がうなっている。まあセイコさんが居るからね。5キロ以上先を見通せる目を持っていない限り、見つけられるわけが無い。
「そうね。この辺りでの報告の魔獣の出現数よりは少ないみたいよね。やはり、『聖女』が居ると違うのかしら……。」
もうセイコさんと引き離せないだろうし、そろそろ本当のことを言っておくべきかな。
いやいやダメだ。それならば分散したほうが早いと言い出しかねない。
「しかし、盗賊団の連中が堂々と街中を闊歩しているのには参った。」




