第10話 陛下たちの漫遊記
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「なんで、そんな姿なんですか?」
「20年ほど前に腐敗が蔓延った時期があってね。でも大臣たちからはなにも情報が上がってこないのよね。仕方なくこの姿で国内を巡ったというわけなの。」
サンジェーク陛下が1オクターブほど上の音域で女言葉で喋ると、よりいっそう気持ち悪い。
「ユーストリングス団長もですか?」
「ああ。訳あって前職の後宮騎士団の団長を辞めた直後に相談を持ちかけられてね。暇だったし、この国の状況が知りたいというマトモな依頼だったから、了承したんだが……初めて見たときは逃げ出そうかと思ったよ。」
「嫌だわ。嘘ばっかり。今日みたいに馬車の傍に立っていたら、ナンパしてきたくせに……。」
「そ、それは、言わない約束でしょう。」
「そうだったかしら、昔のことだから忘れてしまったわ。」
この状況……一体どうすればいいのよ。前の異世界の友達なら……面白がってイロイロ聞き出しそうだけど……。
「でも女装なんかしないで、商人のフリをするとか。大金持ちのボンボンのフリをするとかあるでしょ。実はそういう趣味の人なんですか?」
「それは考えなかったわね。実は『聖女』が男装で諸国を巡って悪人を倒したという伝記があってね。それを真似してみたというわけなのよ。」
それってする事は同じでも意味が全く違うんじゃ……恐らく女ひとりの旅では危険だと判断した『聖女』が襲われないように男装したのよねぇ。
趣味うんぬんはスルーされてしまった。聞いてはいけないことだったらしい。ということは一緒に旅していたという団長も……。と、チラリと横目でみるが……まあ確かに仲が良さそうだった。
「でも、何故私たちだけで出ようとしていることがわかったんですか?」
「大元はね。この金貨が市場で出回っている。と、宰相から聞いてね。一体どこの国の人間が入り込んでいるのよ。と、思って密かに調べさせていたのだけど、それがあなた達に繋がったのよね。もうこれは出て行くつもりだ。と、思って監視させていたら、案の定馬車の手配をしてるから……。」
サンジェーク陛下は、私の前に金貨を出してみせる。多分、私の使った金貨だ。だが、この国の金貨も模様が刻まれているわけでもなし、いったいどう違うというのだろう。
「わからない? こっちがアルフォード国が作っている金貨、比べてみるとわかるでしょう。こっちの金貨の方が金色が薄いでしょ。今は緊急時だから、金の含有量を減らしてあるのよ。」
「と、いうことは価値が違う?」
ポーション作りの対価や『治癒』魔法の対価として頂いていた金貨と混ぜて使っていたのだけれど……。
「ええそうね。これがわかる大商人のところへ持ち込んだら、手数料を差し引いてもこっちの金貨4枚に交換してくれたでしょうね。」
私たちは商店でぼったくられたわけか。随行の騎士たちが入ってこられないように。と、思って入った女性の下着売りの店でイロイロと頼み込んだら、道理でふたつ返事で叶えてくれたわけだ。
上品そうな、おば様の店員さんだったから、信用していたのに……。
「それで私たちをどうなさるおつもりですか? 一生王宮に閉じ込めておける。と、でも思っていらっしゃるのでしょうか?」
いざ、となれば『転移』魔法で数キロ先に飛べるようにセイコさんの手を握りしめる。と、私が不安になっていると思ったのか、セイコさんが手を重ねてくる。
「いやあね。このまま出発するわよ。宰相にも手紙を置いてきたし、国政はなんとかなるでしょ。それに国内が荒れているときこそ、国王が汗をかくべきでしょ。久々の漫遊だもの……どこから巡ってみましょうかしら……楽しみだわ……。」
最後のが本音ね。サンジェーク陛下は息抜きがしたいらしい。まあ、物見遊山になるのは仕方がないのかもしれない。
「陛下。飽くまでお忍びですから、御自重をお願いします。」
ユーストリングス団長は、咳払いをして注意を則す。
「団長こそ、自重しなくてはいけないわよ。この旅のどこかで、例の盗賊団に行き当たるかもしれないから。分かっているとは思うけど、前回みたいに暴れられるとは思わないでね。」
前回はそうとう、ユーストリングス団長が暴れまわったようだ。
「ショウコさま。セイコさま。わたくし王都でアルファ商店を経営する夫を持つサンジェリークと申します。よろしくお願いしますね。こっちが下男のユーストよ。ほら、挨拶しなさい!」
「ああ、ユーストだ。何か分からないことがあれば、聞くといい。答えられる範囲なら答えてやるぞ。」
ユーストリングス団長の口調が突然、ぶっきらぼうに変わる。これが2人で漫遊しているときのスタイルのようだ。
団長と陛下の関係を完全に誤解しているショウコさん(笑)
というわけで単なる変装です。




