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第9話 聖女たちの旅立ち

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ありがとうございます。

「だから危険だ、と言っておる。そんなところへは行かせられない。」


 あれから、1ヶ月が経ち、2ヶ月が経ち、3ヶ月が経った。召喚直後に闇の生き物を王宮の外に排除した『聖女』スキルだったが、このまま王宮内に居たのでは何の解決にもならない。


 そこで王宮の外に出る許可を得るのに1ヶ月かかり、王宮騎士団が日替わりでぞろぞろと警備するなか王都を隅々まで歩き回り、なんとか闇の生き物を王都から排除できたのが丁度2ヶ月経ったころだった。


「そうです。王都の外では何があるかわかりません。ですから、今しばらく、このまま逗留して頂けないか?」


 サンジェーク陛下が否定的な見解を述べると勢いづいたユーストリングス団長が畳み掛ける。いったいこの議論を幾度繰り返しただろう。


 王宮の外を歩くのさえ、許可を得るのに1ヶ月の時間を要したのだ。王都の外へ出る許可を得るために説得を始めて1ヶ月余り、全く譲る気配もみられない。このままでは、一生王宮で飼い殺しにされてしまう。


「貴方がたは何故、私たちを召喚したのです。国を救ってくれと言いながら、王都の外へ出さない。そんなことってありますか。しかも、何の情報も与えてくださらない。地方の村々と行き来している商店の店主の話では、魔獣の群れに襲われて壊滅した村も多いとか……このままでは、王都の食料も儘成らなくなるのでしょう?」


 セイコさんが厳しい顔で言い放つ。


 セイコさんなりの自分の正義感に沿った発言なのは分かっているが……。


 拙い。拙いぞ。目の前に居るのは、この国の施政者と警備を統べる人間なのだ。今、一番現実を知っている人間に対して、事実を突きつけるのは愚の骨頂。怒らせてもなにもならない。


「大丈夫です。王都周辺を巡回する第1と第2王国騎士団の話では、魔獣の群れも少なくなってきているとか……。今は無理をなさらず、黙って従ってもらえないですか?」


 返ってきた回答は思いもよらないくらい優しい言葉だった。


 だけど話の内容は、今まで私たちがしてきたことの成果であって、これ以上良くなるはずも無いのである。


 私の予想では、多くの闇の生き物を退けることを続ければ、いつかは『聖女』スキルのレベルが上がり、より広範囲の闇の生き物を退けることができるはず。しかも、行く先々でセイコさんの無限に使える『治癒』魔法を酷使すれば、聖魔法のレベルもあげることができるのである。


 だが、この予想を口にすることができない。私1人で行って来いと言われても、無意味だろうからだ。もちろん、1人でも闇の生き物を退ける自信はある。だが、その戦いは一介の魔術師としての戦いであり、『聖女』では無いと宣伝しているようなものだ。


「わしからもお願いしよう。今、準備の真っ只中なのである。騎士団のことを思って頂けるのなら、準備万端揃うまで待って頂けないかのう。」


 これで締めとばかりに、サンジェーク陛下が席を立つ。


「お時間を頂きありがとうございました。」


 私はそう礼を言うので精一杯だった。セイコさんなどは忸怩たる思いでいっぱいのはずだ。


 実際には、そんな準備が行われているなんて、何処に聞きにいっても聞こえてこないのである。


     *


「では、参りましょうか。」


 とうとうサンジェーク陛下たちの説得を断念した私たちは、平行して進めていた単独での旅に出かけることにしたのである。


 日本ではどうやって換金すればいいか分からなかった前の異世界の金貨を使い、少しずつ気付かれないように進めてきたのである。基本的には準備したもの全て『箱』の中にあり、あとはこちらの世界の常識に則り、王都の正門の前で待つ馬車と御者の手配が完了した時点で出発する。


 身分証明書も王都内に出歩くために発行されているので、門を潜り抜けるのには問題ないのだが、事前に手配されていると拙いので、セイコさんを連れて正門から少し離れたところに『転移』魔法で転移する。


「あの馬車でしょうか? わりとキレイな馬車ですね。」


 正門前では2頭立ての馬車が佇んでいた。


 オカシイ。手配したときは、2人乗りだったはず……。それが4人乗っても余裕があるスペースがある。


 これは、もしかすると女2人の旅ということで足元を見られたのか?


 想定以上の出費を強いられそうである。いまさら引き返すわけにいかないのだから、どうしようもないのだが……交渉でなんとかするしかあるまい。


「こちらの奥様がご一緒したいと仰るので、このような馬車になってしまいました。」


 御者台の上で帽子を深く被っている男が、馬車から出てきた女性を紹介する……。


 私たちは、その女性を見て口をあんぐりとさせてしまった。薄く化粧が施されていたが、元々の白い肌に浮かび上がった口紅の赤が、女性を……いや、その人間を美熟女に見せていた。


 なんと、そこにはサンジェーク陛下が女装をして立っていたのだ。


「気持ち悪ぅ……。」


 とっさに口を押さえるがもう遅い。


「やめてくださいよ。そう一番思っているのは俺なのですから……。」


 御者台から降りてきた男が帽子を脱ぎながら言う。その男はユーストリングス団長だった。心底、厭そうな表情だ。


「2人ともそんなことを言うもんじゃないわ。気持ち悪いけど……。」


 セイコさんが一番酷い気がする。

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