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プロローグ

タイトルの『聖女無双』の無双は表裏同じ布で作る服のことです。


「2度目ですね。ショウコ。この間、帰ってきたばかりだというのにもう召喚ですか?」


「好きで召喚されているわけでは無いです。」


 女神に向かって思わず吐き捨てるように言ってしまう。


 この女神も悪気があって言っているわけではない。どちらかと言えば異世界に召喚されてしまう人間にとっては無くてはならない存在だ。『召喚』魔法をこの世界の人間が受けたときに異世界で生活に困らない能力を授けてくれるのだ。


 もちろん、前回の召喚でも御世話になっている。だが、それとこれとは話が違う。前回、高校受験の日に召喚された私は異世界での役目を終え『送還』魔法で返してもらった。家族に会える歓びに足取り軽く、家に辿りついた私を待っていたのは冷たくなった両親の姿だった。


 お葬式を取り仕切っていた町内会長の林さんの話だと居なくなった私を探すためのビラ配りを行っていた両親に車が突っ込んだそうだ。余りのことで言葉が出なくなった私の代わりに林さんが保険金の請求などの手続きをしてくれたり、気落ちした私を気遣って同級生だった娘さんが訪ねてくれたりといろいろと御世話になった。


 だけど優しく接してくださる人が居る反面、言われ無き中傷も酷いものだった。特に翌年の有名私立高校を受験した際には面接官から失踪中の状況を根掘り葉掘り問い質された上、テストで余裕で合格ラインだったはずなのに落とされてしまった。


 林さん親子が憤り、弁護士の先生に頼んでまで学校側へ問い質し、返ってきた理由は『他の生徒への悪影響』だったのだ。私が何をしたというのだろう。異世界に召喚されてその世界の人間たちを幸せにして帰ってきたはずなのに、この仕打ちはいったい……。


 一時は落ち込み引き篭もり状態に陥ったが、それを救ってくれたのはその際に御世話になった弁護士の先生の『私と一緒に中傷を受ける人々を救わないか』という一言だった。先生は軽い気持ちで弁護士事務所の手伝いをしないかと言ったのかもしれないけれど、私にとっては救いの言葉だったのだ。


 弁護士になれば、この言われ無き中傷からも解放されると思い込んだ私は法律系の専門学校に両親が残してくれた保険金をつぎ込み、聖マリアンナ女学院で行われていた大学入学資格検定を受けにやってきたのだった。テストは『知識』スキルを持つ私にとって楽勝なはずだったのだが……。


「そうだったの。ごめんなさいね。」


 私の話を噛み締めながら、聞いてくれる様子は滅多に会えない親切な親戚のオバちゃんという感じだ。


「いえ、そんな。」


 謝ってもらうほどのことではない。逆に愚痴を聞いてもらえてスッキリできたから礼を言いたいくらいである。今まで言いたくても誰にも言えなかった胸のうちだから……。


「じゃあ、特別に好きなスキルを選ばせてあげるね。今回呼ばれた世界では魔王は出現していないわ……ただ魔獣が集まってきているみたいよ。貴女の現在の職業レベルでも十分に対抗できそうね。」


 前回は魔王が出現しているということで魔王を倒すための『知識』スキルを得たが今回は日本に帰った後に役に立ちそうなスキルを取りたい。特に両親の保険金を使い込んでしまったのだ、最低限度、スキルで食べていけるだけるようになりたいのである。


「『錬金術』スキルをお願いします。」


「『錬金術』ね。言っておくけど無から何かを作り出すことはできないわよ。元素変換ができるだけ。副次的効果は高いんだけどね……。それでもいい?」


 珍しくスキルの注意事項まで説明してくれる。前回とは大違いだ。それだけ、私の境遇に同情してくれたのかもしれない。


「これでお願いします。」


「わかったわ。それと基本スキルもレベルアップしておくわね。それでね。お願いがあるんだけど……君と一緒に召喚されたシスターを気に掛けてくれるとありがたいな。」


「もしかして、私が巻き込んでしまったのですか?」


 それならばフォローするのは当然である。


「違う。違う。ターゲットは君たち2人になっているようよ。詳しいことはわからないけど……」


 それでも初めて異世界に召喚される人間をフォローさせられるのは仕方が無いと思う。この召喚の目的を達成して日本に帰るためにも一緒に召喚された人間のフォローはしてしかるべきだろう。


 この世界の神も万能ではない。召喚に関することは召喚者に辿ればおよそのことはわかるがその詳しい背景まではわからないのだ。自分で調べるかその世界の神にコンタクトを取って教えてもらうしかないのだ。


「私と彼女とのやりとりを聞いていましたよね。」


 なんと彼女、自分は既に神に捧げた身だから、神に会えただけで身に余る光栄なことで何かを頂くような大それた考えはありませんと言ってのけたのだ。さらに人に尽くすことは当然のことで召喚されたことも自分が必要とされるところに行けるなんて幸せである。とまで言っていたのだ。


 女神は私の代行者として異世界の人々を幸せにしてほしい。と言いくるめ、いくつかのスキルから選ばせたようだったのだが……。


「ええ。あんな高潔な人物が今の世の中に居るんですね。」


 清く控えめな人物なんて、自分の欲望に忠実な人間ばかりを見てきた私にとって青天の霹靂以上のショックな出来事だった。


「だけど今回の召喚。彼女の前世の世界なの。彼女に危険が及ぶかもしれないのよ。」


 女神の話では、ああいった性格に偶然なるのは珍しく、前世に酷い行いをした人物が人生を振り返り、次世でつぐなうためになった可能性が高いらしい。つまり彼女の前世に恨みを持つ人物が召喚に関わっている可能性があるということだった。


 前世の責任を押し付けられるなんて溜まったものじゃない。しかも現世でつぐなおうとしている人間が他人のために生きようとしているのに……。


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