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誤字脱字などありましたらお知らせしていただけるとありがたいです。
拙い文ですが楽しんでいただけると幸いです。
「ねえ、聞いた?」
「あーあの事件だろ?」
「ここ数日ずっとテレビでやってるよね。」
「俺らも明日生きてるどうか……。」
「えー!心配しすぎでしょ!」
「そのうち捕まるって〜。犯行現場遠いしさあ?」
「そうだといいけどさ、四日間で17人も殺されてるんだぜ……?」
――――7月26日 東京
「リキさん、速えーよ!それもう走ってるじゃん!」
「走ってねーよ、どう見ても歩いてるでしょ。」
リキと呼ばれた少女は長い茶髪をたなびかせながら競歩の勢いで人の隙間をぐんぐん歩いている。スーツを着た男がついてきているがリキは振り返ることなくどんどん距離を離していく。
「ちょお、まじできついって……。」
この炎天下の中、太陽光とアスファルトという強敵によって熱せられたスーツの男は額から玉の汗を流しながら体調悪そうに座り込んでしまった。
「……演技力は認めてやるが私にはバレバレだぞ。さっさと立つんだね、たぬきちゃん。」
「チッ。」
スーツ男―もといたぬきと呼ばれた青年―は先ほどよりもいくぶんいい顔色で気だるそうに立ち上がった。
額に浮いていた汗すらも演技なのか、そこには汗の痕跡すらなかった。むしろ涼しい顔をしている。
「舌打ちする元気があるなら問題ないな。……お前、そんなに仕事が嫌なのか?」
「サラリーマンだけで精一杯だってのに、危険な仕事を強制的にやらされてるんじゃ嫌にもなるでしょ。」
「半強制的に、だ。逆に言うと半分はお前自身が選んだことだぞ。」
リキはそれだけいうと体を回転させ再び歩き出してしまう。
「……わーてるよ。」
たぬきは何を言ってもダメだと悟ったのか、しぶしぶといった様子でリキのあとを追った。
人気のない薄暗い路地裏へと入り、確実な足取りで角を次々と曲がる。初めて来た人ならば地図なしには帰れないほど入り組んだ場所を数分ほど歩くと、古びた建物―コンクリートで出来た物置のような―へ行き着いた。
リキは自身のスクールバックから取り出したカードを、慣れた手つきで壁へとかざした。一見なんの変哲もない壁から緑色の光が浮き上がり、カードを読み込むかのような動きをする。カードが読み込まれると次はパスワードを打ち込めとばかりに表示されたその画面は、ホログラムのようでいて、しかし触感はタッチパネルのようにしっかりとしていた。
「毎回思うけど、無駄なセキュリティーだな。」
「たぬきちゃん馬鹿なの?本部が襲われたら元も子もない。むしろこのくらいのセキュリティは当たり前だろ。」
パスワードを打ち込むと壁が静かに割れて、自動ドアのごとく滑らかに開いた。中は昼間とは思えないほど暗い。
「ふうん。」
二人が中へ入るとドアが自動で閉まり、同時に電気や壁に埋め込まれているモニターが光を放った。奥の壁には見るからに頑丈な作りだとわかる扉―エレベーター―があり、その横には網膜スキャンをするための機械がある。
二人は網膜スキャンをすぐに済ませるとエレベーターへと乗り込んだ。空中にあるタッチパネルで降りる階を設定すると、ありえないほど静かに降下し始める。
「最近話題になってるからなんとなく想像はつくけどさ、今日はどんな仕事なわけ。」
「たぬきちゃんの想像の通りだよ。」
「はあ……、最悪だ。」
「たぬきちゃん、すごく簡単に解決できる相談なんだが、仕事の度にそれいうのやめてくれないか?」
「……それはとても難しい相談だね。」
エレベーターのドアが静かに開く。どうやら設定した階についたようだ。
「あいかわらずここは異世界だな。空中にタッチパネルを出すなんてここ以外じゃやってねーぞ。」
「君が知らないだけで別の機密組織でも採用されていますよ、四月朔日くん。」
「栗花落さん……。」
「たぬきちゃん何見とれてんの。栗花落、状況はどうだ?」
「はい、状況はあまり良くありません。説明しますのでA11ルームへお願いします。」
「分かった。ほら行くよたぬきちゃん。」
「うい。」
エレベーターが開いた先にあったのは、裏世界対策機関(Another world measures agency)―通称AWMA―のメイン基地だ。まるで映画の中に入ってしまったと錯覚しそうなほどのハイテクノロジーな機械で溢れている。
地下なのに天井ははるか高く、エレベーターから見た真正面の壁の上半分―天井にまで届く―は特殊な強化ガラスが一面に張られており、まるでそこだけ高層ビルのようだ。
壁以外、つまり床には見渡す限り規則正しく並べられたPCや、何に使うのかわからない機械。忙しなく作業するスーツを着た隊員や、戦闘服を着た隊員。空中にいくつも表示された画面。そしてエレベーター―左隅にある―が設置されている壁には巨大なモニター。左手側には分厚い壁があるがその奥にはジェット機や武器があるのをたぬき―四月朔日―も知っている。
(そんで右手側には隊員の訓練施設がある。こんなでけえ地下施設は他を探してもなかなかないだろ。はじめて来た時はまじで夢だと思ったな。)
二人は栗花落に連れられながら上半分が高層ビルのようになった壁―Aエリア―の自動ドアから中に入った。オフィスビルのような内装だが会議室、実験室、医務室、隊員寮、一部の人間しか知らないマル秘を扱う特別室など、さまざまな機能を兼ね備えている。
A11ルームは会議室のひとつでAエリア3階にある。エレベーターを使い3階へと上がり、廊下を進んでA-11と書かれたガラスのドアを押した。
「それで、今どういう状況なんだ?」
「すでにご存知だと思いますが、四日で17人を殺害した事件が発生しています。いまだ犯人は特定すらされておりませんが、こちらではハイド(hide)だと判断しています。」
タブレットに表示された資料をタップして空中に向けてスライドさせると、空中でパネルとして展開された。それを指で自在に操りながら栗花落は簡潔的に事件の詳細を伝える。
「死体自体は食い荒らされて見れるような状態ではありません。また金品などは盗まれておりませんし、目撃者もいないので容姿に関しての情報もありません。」
(金はとらず、食い荒らされたような死体……ハイドに襲われた人たちの共通点だ。)
ハイドは人間とは違い、金品などに興味はない。人を襲うのは食事のためでありそれ以上でもそれ以下でもない。
(だがおかしい、そんな死体が発見されたら17人も殺される前にハイドだって分かるはずだろ……なんで今頃俺達に任務がきた?あまりにも遅い。)
「AWMAは何してたんですか?あまりに判断が遅い。」
「たぬきちゃん。」
「もう17人も殺されてるんだぞ?」
その怒気を含んだ言葉に、リキが四月朔日を睨んだ。
「仕事を嫌がってなかなか本部に寄りつかないお前も同じだ。お前が来ないということは、その間に殺される人もいるってことだぞ。」
リキの現実的な意見の前に四月朔日は反論することが出来ない。それはまぎれもない事実だからだ。
「こちらの判断が遅かったのは事実です。申し訳ありません。」
「いや……悪い、栗花落さん。続けて。」
「はい。ハイドは移動しながら"食事"を行っているようで、今は東京都F-67エリアにいると予想できます。」
新たに表示された地図にはエリア名が表示されている。AWMAでは各県ごとに、AからZのローマ字で地区を分けておりそれを目安に任務を行う。
「私がお伝えできる情報はすべてお伝えしました。ご武運を。」
「ありがと。じゃあひと仕事いってくるか。たぬきちゃん無線カモン。」
「そのくらい自分で取ってよ。はいどうぞ。」
文句を言いつつなんだかんだ無線を渡している。すっかりリキの小間使いが染み付いてしまっているようだ。
二人は連れ立ってF-67エリアへ向かった。




