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殺害決定!  作者: 明智 烏兎
最終話 殺害決定!
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ノリと勢いで人生終了

 やぁ諸君、ご無沙汰です。

 長らくシリアスな展開が続いたから僕も実況に徹するしかなくてね、僕の軽妙な語り口を楽しみにしていた人には申し訳ない。

 え、引っ込んでろ? まぁそう邪険にしないで、ほら、真の部屋を覗いてみよう。


「はぁ……」


 リリーが居なくなって早八日、火曜日の昼下がり。家に居る時はベッドに横たわり、真はずっとこんな調子で溜め息ばかりさ。

 何で平日の昼下がりにベッドで寝てるかって? それは彼がニートだから……ではなく。明日に控えた『玉兎夜祭』に向けて町全体が休校、休業となるからさ。

 そのため町は活気付き、病み上がりの水乃も祭りの準備におおわらわだ……というのに、真の奴も困ったものだ。


「リリー……」


 真は起き上がると、机の上に置いてある髑髏の面を手に取る。リリーを倒した時の戦利品、それを被ってポーズを決める。


「オレは死神、《グリムトゥース・インサイザー》だ。覚悟しやがれ、悪霊共!」


 エアコン室外機の唸る音が部屋を埋め尽くし、真は再びベッドに倒れ込む。髑髏の面を上にずらした真の顔は、少し赤い。

 大方、自分の意味不明な行動が恥ずかしかったんだろうね。


「アイツ……顔ちっちぇえんだな」


 ……こら変態。こいつ好きな女子のリコーダーをくわえて喜ぶタイプだろ。


 ──こつん。


 閉め切られた窓の方から、何か音がする。


 ──こつん。


 まただ。何かこう、硬くて軽い物……小石のような物がぶつかる音だ。

 それから二、三度同じ音が続いたが、真は一向に応じる気配を見せない。


 ──がっしゃあぁぁん、ドゴッ!!


 窓ガラスが盛大に砕け、真の腹にバレーボールほどもある石がめり込んだ。


「ぐっほぁぁ!? おい誰だ! ガラス割ったなんて深代さんに知られたら、オレは足で踏まれたり、その、あ、足で色々されんだぞ!」


 何だ色々って!? あの奥さん、足で何するんだよ!? ……っと、失礼。少々取り乱してしまったね。

 さて、真が窓の外に身を乗り出して見つけたのは、幻影馬車『アリアンロッド』。猛スピードで逃げ去った方角にあるのは鈴音中央公園だ。


「シアの野郎か! アイツは何でやる事がイチイチ突飛なんだよッ!」


 冷房を止めると、真は部屋着のまま手ぶらで家を飛び出した。

 見慣れた街は、祭り一色。年に一度の景色の中を、真は全速力で駆け抜ける。

 至る所に吊り下げられた提灯を揺らし、車が来ていないのをいい事に赤信号を横断し、公園入り口へと辿り着いた。


「はぁ、はぁ、あれ……? そういや人と全然すれ違わなかったな。車も走ってなかったし……何かもう、すっかり死神の不思議空間にも慣れちまったぜ」


 真昼だというのに人気の無い、異常な公園の広場に停車する『アンクウ』の馬車。

 真は足音を殺して近付き、馬車の扉に手を掛けると、


「こらフェリシア! 壊した窓、弁償しやが……れ?」


 馬車の中にはキャラクター物のぬいぐるみが多数飾られているだけで、オーナーの姿はどこにも見当たらなかった。


「げ、何だあのキモい物体は……」


 ぐったりと白目を剥いて、口から綿を垂れ流すクジラのぬいぐるみに目が留まり、真は思わず口元を押さえる。


「失礼ね!」


 頭上から掛かる声と共に腕が伸び、真の脳天に引っかかっていた髑髏が引っ張られる。その拍子にバランスを崩し、真は馬車の階段を転げ落ちて仰向けに倒れてしまう。


「“たれながすくじら”を馬鹿にするなんて、許さないんだから」


 真は仰向けに倒れたまま、放心して動けない。

 そうだろうね。正直僕も驚いてる。まさか彼女に、また会えるなんて……。


「……白」

「は? シロナガスクジラじゃなくてタレナガス……って、どこ見てるのよこの変態!」


 スカートの前を押さえて、リリーが真の顔面を踏み付ける。

 そうか! 真は動けなかったんじゃない……動かなかったんだ!


「リリー、お前……死んだんじゃなかったのか……?」

「死んだ? 私が? 馬鹿ね、死神は死なないって言わなかった?」


 立ち上がる真、髑髏の面を身につけるリリー。二人の間には何か大きな食い違いがあるようだ。


「でも、ここから居なくなるって」

「居なくなったでしょ、八日間」


 あっけらかんと言うリリーに、真は俯いて肩を震わせる。


「な、何よ、怒ったの? 先に言っておくけどあなたが勝手に勘違いしたんだか、きゃっ!?」

「ばかやろ……心配させんじゃ、ねぇよ……!」


 リリーを胸に抱き寄せ、真は泣いた。

 困惑した表情で視線を彷徨わせるリリーだったが、すぐに身体から力を抜いて真に身を任せる。

 ひとしきり泣いて身体を離す頃にはお互い顔が真っ赤で、大層バツが悪そうだ。


「あ~みっともない、何泣いてるんだか。今のあなたなら簡単に悩殺できそうね」

「ちょ、調子乗ってんじゃねぇぞマナ板! 抱き締めたら肋骨が当たって、それが痛くて泣いたんだ! お前みたいな壁女に誰が悩殺されるかよ」


 真の無神経な言葉にリリーは俯いて肩を震わせる。


「なっ、なっ、何よそれ……マナ板? 肋骨? 壁女? 悪かったわね! そこまで言うならやってあげようじゃない!」


 リリーは、いつぞやの『殺害契約書』を持ち出す。バン、とサインを記したページを開き、息を肺一杯まで吸い込むと、


「あっはぁ~ん、私のためにぃ……死・ん・で? ……ぅぁあ~もう! 何言わせて」


 ──ボンッ!


 ページは青い炎を上げて灰になった。

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