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殺害決定!  作者: 明智 烏兎
最終話 殺害決定!
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タマちんここでリタイア

「ふわぁ~~……ん~? そろそろ帰りか~」


 いきなりの大あくびで登場したのはご存知我らが霧崎真。保健室のベッドで寝惚け面を晒すのは、これで一体何度目だろうね。


「ヌシさん! もう放課になりんす、起きなんし!」

「はいはい起きてるよ~タマちん」


 カーテン越しに真の様子を窺うシルエットは、養護教諭の稲荷ふぐりだ。


「だらしがありんせんなぁ。日がな一日保健室で不貞寝じゃあ、脳みそにカビが生えてしまいんすよ?」


 呆れ顔でベッドの隣に立ったふぐりは、ベッドの上で胡坐をかく真の頭を小突く。


「だって教室に居らんねぇんだもん。みんなオレの事ホモだって言うんだもん」


 だいたい合ってるだろ? 実際あんな事があったんだし。まぁ、昨日の今日でここまで噂が広まるとは思ってなかったけどね。


「わはは! あちきは男色も嫌いではありんせん」

「サンキュ。そう言ってくれるのはタマちんだけだよ」


 そこは感謝すべきなのか甚だ疑問ですよヌシさん。


「ところでヌシさん」


 ふと切り出したふぐりの声には、なぜか緊張の色が滲んでいた。いつもの恵比須顔も、少しだけ険しいものに見える。


「ここのとこ不吉な気配がしておざんす。ヌシさんの周辺で何か気付いた事はありんせんか?」

「不吉な気配かぁ……タマちんって霊感強いね」

「と、おっしゃるからには……」

「今さぁ、死神に命狙われてんだよ」

「まっ……まことでありんすか!?」


 目を見開いて掴み掛かってくるふぐり。

 このリアクション、そして“死神に狙われている”と聞かされて唖然も失笑もしないところをみると、もしや……。


「あの~……もしかして、タマちんもオカルト関係者?」


 真の問いに、ふぐりは胸を張って答える。


「うん! あちきは“なでしこちゃん”に頼まれて、ヌシさんをお守りする目付役として使わされた狐でありんす」

「き、狐!? タマちんが? っていうかナデシコちゃんって確か……稲荷神社の娘さんだったっけ?」

「良かった、ヌシさんが覚えてなかったらどうしようか……と……」


 そこまで口にしたところで、ふぐりはぴたりと動きを止めた。


「タマちん?」


 真の呼び掛けにも全く応じる気配が無い。


「お~い」


 ふぐりの目の前で掌をひらひらと上下させるが、ふぐりの視線は宙を彷徨ったまま変化無し。

 まるで世界の果てを見ているような……それでいて自分の内側を見ているような、不思議な表情だ。


「そんな、嘘じゃ……あちきの結界が……あぁッ!」


 直後、ふぐりは両手で頭を抱え、悲鳴にも似た叫びを上げる。


「たっ、タマちん!?」


 突然の出来事に慌てふためく真。その場に崩れ落ちそうになるふぐりを支えると、訳が分からないままベッドに寝かせる。


「どうしたの!? どこか痛いの!?」

「いやっ! だめぇ……ぁぁああっ、入って……入って来ないで、くんなまし……!」


 喉の奥から搾り出したような、ふぐりの悩ましい喘ぎ声が保健室に響く。シーツごと握り締めた掌には爪が食い込み、赤い血がベッドに滲んだ。


「や、ヤバイよこれ、ただ事じゃねぇぞオイ……!」


 真は混乱する頭をフル回転させ、とりあえずふぐりの着衣を緩めてやる。


「なで……なでしこちゃんが……危な、い……」


 うわごとを繰り返すふぐりは、何かを必死に訴えようとしているようだ。


「え、何?」

「もうだめぇっ! 破れてしまいんすうぅぅ~~ッ!!」


 保健室に絹を裂くような悲鳴が甲走る。ベッドから飛び起きて白いカーテンを躍らせたふぐりは、開放された窓からハードル競走の選手よろしく飛び出していった。


「た、タマちん……?」


 唖然としてそれを見送った真は、カーテンの裏側に見知った顔が並んでいる事に気付く。


「あれ、みんな来てたのかよ。いや~参ったぜ、タマちんが急にわぁっ!?」


 間一髪、白刃取りで死神の鎌を受け止める真。


「な、何しやがるリリー!」

「こっちの台詞でしょ! あなた先生に何て事してんのよ!」


 いがみ合う二人の間に強が割って入り、


「よせ、リリー。真を許してやってくれ」


 と、鎌を掴んで持ち上げた。

 あぁそうそう、言い忘れるところだった。デートの一件からなぜか強も『幽鬼』を認識できるようになったんだ。

 強は元々男にしては強い霊力を持っていたから、萌に取り憑かれた事で霊感が表面化したのかもしれないね。死神に遭遇した真が霊感に目覚めたのと同じように。

 それに伴って真が《業報者》である事、フェリシアとリリーと火柩の正体、その目的も明かされた。

 まぁその、うっかりというかやっぱりというか、黄泉にも全部聞かれてしまった訳ですが……。


「許すって何だ? オレが何かしたのかよ?」

「今更とぼけても遅いのぅシンちゃん。皆一部始終聞いておったぞ」

「は……?」

「シンちゃんや……タマちゃんを手篭めにしおったな?」

「てごっ!? し、してない! する訳ない! 何でンな事になってるんすか!」


 したり顔を貼り付けて言う黄泉に真はハッとなって、


「聞いてたっていうのはさっきのタマちんの悲鳴か! 冗談じゃないっすよ!」


 と、突きつけられた痴漢容疑を大慌てで否定した。


「じゃ、じゃあ真様は……な、な、何をしていたんでしょう……?」

「水乃までオレを疑うのか……。あのな、オレは別に何もしちゃいねぇよ。そろそろ授業も終わった頃だな~と思って起き出したら、急にタマちんの様子がおかしくなったんだ。だからベッドに寝かせて……苦しそうだったから服も緩めて……」

「シン。シーツについてる血は何?」


 それまでずっと静観していたフェリシアが、ぼそっと口を開く。


「フグリの言っていた“入って来ないでくんなまし”、“破れてしまいんす”って、どういう意味?」


 妹よ、頼むから黙っていてくれ。


「上様……なにゆえにござりまする! ふぐり殿と姦通しておきながら、なにゆえ拙者はお情けを頂戴出来ぬのでしょうか!? 拙者では慰みにもなりませぬか!?」


 でないと、エロ忍者がこうなるからね。


「お、落ち着け火柩! これは別に……えぇと、何の血だ? シーツを握り締めた時についたんじゃないかな。……あれ? オレ、大丈夫だよな?」


 途端に青ざめていく一同。

 真よ、君まで自分の行動に自信を無くしてどうする?


「かっかっか! どれ、ここまでにしておこうかの。安心せい皆の衆、シンちゃんは潔白じゃよ。いやいや、からかって悪かったのぅ」


 満足げに笑う黄泉の言葉は、まるで事の真相を知っているかのような響きを持っていた。


「からかったって……どういう事っすか?」

「タマちゃんは実家の危機を感じ取って帰っただけなんじゃよ。なにせ今頃、稲荷の神社は大変な事になっておるからのぅ」

「実家が稲荷の神社? という事は稲荷先生って、やっぱり稲荷神社に縁の方だったんですね! でも……危機を感じ取ってって、どういう事ですか?」


 水乃の指摘に、黄泉は「しまった」というような顔で口をつぐむ。

 やっぱりだ。黄泉は何かを知っていて、隠している。


「水乃の言う通り、今の口振りは確かにちょっとおかしいな。タマちんのそんな事情、普通は知ってる訳ないし……ひょっとして黄泉さん、何か隠してないっすか? たとえば、タマちんの様子がおかしくなったのは黄泉さんの仕業とか……」


 そう思ったのは真だけじゃないようで、水乃達も挙って疑いの眼差しを向けた。

 ふぐりの言っていた事、そして黄泉の言葉を統合して整理してみよう。


 一、ふぐりは稲荷神社というところから真を見守るために使わされた狐(?)らしい。

 二、あちきの結界が破られる、というような意味の言葉を残して走り去る。

 三、黄泉が言うには、どうやら稲荷神社に何か大変な事が起こったらしい。

 四、そんな事を知っている黄泉は、一体何者だ?


 ……と、こうなるワケだ。


「な、何じゃい何じゃい! R指定の展開にならぬよう人が気を遣ってるのに……お主らなぞもう知らんわい! 勝手になでなでしこしこやっておれ!」


 いつかと同じように逆ギレしての逃げ口上。呆気にとられて立ち尽くす真達を残して、黄泉は一足先に保健室を出て爪を噛む。


(むぅ、抜かったわ。このわしがこうも容易くボロを出してしまうとは……全く、泣く子とシンちゃんには勝てんという事かのぅ……。まぁ何はともあれ、これで邪魔な狐は去った。後はシンちゃんと死神共を……)


 一人でさっさと出て行ってしまった黄泉を追って、真達も保健室を後にする。一行が昇降口への廊下を進んでいると……、


「ねぇねぇ、あの二人……」

「うっわぁマジなの!? マジであの二人ってデキてんの!?」


 すれ違う生徒達から好奇の視線を浴びて萎縮する真と強。そんな二人を、水乃達が護り固めるように……って、あれ?


「他人のフリ他人のフリ」


 う、浮かばれない……本当に浮かばれないな、君って奴は……。

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