禁断の遊園地デート
電車に揺られる事、小一時間。真と萌の二人は、遊園地へとやって来た。そう、萌の望みは二人きりでの遊園地デートだったのだ。
「うわ~スゴイ! こういう所に来たら一度言ってみたい言葉があったんだよ。せぇのっ、人がゴミのようだ!!」
「マジやめて。ゴミを見るような目で見られてるのはオレらの方だし」
諸君、ここで教訓だ。何でも言う事を聞くなんて、間違っても言うもんじゃない。
でないと、女子学生服を無理矢理着込んだ身長百九十センチの巨漢にアームロックを決められて人ごみの中を練り歩く事になってしまうからね。
「強……すまねぇ。これでお前は完全に変態だ。でも安心してくれ。オレも同類だから」
「ぶつぶつ言ってないで早く乗ろうよっ。一番は電車の中で話した通りメリーゴーランドね。白いお馬さんに真君とわたし、二人で乗るの!」
「いや、一つの馬に二人で乗ったら怒られるんじゃ……ってうおわぁああ~~っ!?」
浮き足立つ真は、萌に吊り上げられて文字通り足が浮く。
何だかもう、これ自体がアトラクションって感じだね。だったら萌の異様な出で立ちも、周囲の人達にはマスコットに見えているかも……いや、気休めは良くないか。
「ママー見てー! お馬さん乗ったよー!」
「…………」
無邪気な子供の歓声を合図に、メリーゴーラウンドは回り出す。周囲で見守る保護者達は無言。その視線はある一点にのみ注がれていた。
「きゃあ~んっ、お姫様になったみた~い! ほら真君、ちゃんと掴まないと落っこちちゃうよ? はい、ここをギュッて握ってね」
「うわぁ~い、王子様になったみた~い……」
木馬に跨る萌の後ろに真が座る。大胸筋を掴まされる真は力無く傾き、姫と王子には程遠い。
ふと思ったんだけど、仮に萌の体が生前のまま美少女であったとしても、これはちょっとどころじゃなく恥ずかしいのでは……。
「あんっ! も~真君、強く握りすぎだよぉ。焦っちゃメッ! だよ?」
「いっそ殺して」
ああ、萌の体が男なのが悔やまれる。そんなこんなで次のアトラクションへ向かおうか。
「ジェットコースターは待ち時間が長いからダメだね。ウォーターコースターに行ってみようよ。真君は絶叫マシンって平気だよね?」
「今のオレに怖いものはほとんど無い」
なら決まりだね、と勢い込んで向かった先は、結局長蛇の列だった。しかし萌の姿を見た人々は一様に表情を凍らせて道を空けていく。
「え……っと……あれ? 何だかわたし、怖がられてる……?」
「あああちっげぇよ! 親切にしてくれてんだよきっと! すっ、すんません皆さん。こいつちょっと訳アリでして、お先に失礼します!」
萌は周囲の反応に今更ながら違和感を覚えたらしい。その空気をいち早く察知した真は、彼女の気分を害さないよう必死に取り繕う。
「真君……やっぱり優しいな。わ、わたし……何だか……」
オペレーターに話をつける真の背中を見つめる萌は、胸元を押さえて瞳を潤ませる。
そしてそのままライドへとエスコートを受け、マシンはスタートした。
──ドバーンッ!
「きゃああぁぁーーッ!!」
「ぎゃああぁぁーーッ!!」
野太い悲鳴のコーラスが水音を切り裂き、絶叫マシンは役目を終える。思いのほか水飛沫を被ってしまった二人だが、今日は真夏に戻ったかのように暑いので問題はないだろう。
「あっははははっ、冷たーい! 見て見て真君、こんなに濡れちゃったぁ!」
「お前はデカイから余計にな。……んっ!? 何だお前、ノーブラだったのかよ」
薄い夏服の生地は、水に濡れて地肌を浮き彫りにしていた。つまり、胸の頂にある見えなくてもいいものがクッキリと色付いてしまっているのだ。
「いやぁん! だってぇ、ブラつけようとしたら壊れちゃったんだもん」
「ふ、ふーん……」
いやいや、ブラなんて必要ないだろ。真もいちいち……ってちょっと待て! 何でお前は頬を染めてるんだよ!?
「ね、真君。次はどこに行きたい? 今度は真君の好きなところでいいよ」
「べ、別に行きたいトコなんてねぇよ」
目を逸らし、無愛想に返答する真。すると萌は手を後ろに組み、回り込むように真の顔を覗き見て、意味深な笑みを浮かべて頬を突く。
「あるでしょ? どれどれ~……あーやっぱり! 真君、お化け屋敷見てるぅ!」
視線を悟られた真の肩がギクリと跳ね上がる。
「ち、ちっげぇよ! 今そこに、幽霊が居たような気がして見てただけだ!」
「も~、幽霊なんて居ないよぉ。真君って前からちょっとツンデレなところあったけどさ、今は二人きりなんだしもっとデレてくれてもいいんだよ?」
「幽霊は居るだろ! この生き証人……じゃなくて死に証人!」
ずるずると引き摺られ、真は抵抗空しくお化け屋敷へと消えていった。
──その後。
情熱的なベアハッグの餌食となった真が医務室に運ばれたのは言うまでもない。