鬼萌との再会
「え、え~っと……つまり君は、“萌ちゃん”って事? 強の妹で、半年前に亡くなった」
「そうだよ真君。あはっ、久し振り!」
「うっぷ……」
神社での衝撃過ぎる再会から、今は宇佐美家二階、真の部屋へと場所を移している。
そりゃそうだ。親友のこんな痴態、これ以上衆目に晒す訳にはいかないからな。
いやまぁ、真も本当はこんな変態、部屋に入れたくは無かっただろうけどさ。
「鬼君が鬼さんを降霊し、鬼さんはそのままお兄さんの肉体を借りた……という事ですか?」
「そうだよ宇佐美さん」
「うーん……素人には降霊術なんて無理だと思います。何者かの手引きがあったのでは?」
「そうなの? そんな事より真君っ! ねぇねぇ見てー、わたしの制服姿! じゃじゃーん、初お披露目です! 可愛い?」
弾みをつけて立ち上がった萌はその場でクルンと一回転。ミニ過ぎて目のやり場に激しく困るスカートの裾を摘まみ、白い布地を見せつける。ついでにそこからはみ出た棒状のモザイクも、惜しげもなく。
その拍子に弾け飛んだ第二ボタンが、水乃の額にヒットした。
「か、鏡見てないのかな?」
「いたた……お、恐らくですが、鬼さんはお兄さんの肉体を借りて生前の姿に化生していると、そう思い込んでいるのではないでしょうか。幽霊は見たいモノしか見えないという説もありますし……」
「え? 化粧? してるよ~。薄~く分からない程度にだけどねっ!」
「どうせなら誰だか分からない程度に厚化粧してください」
真の泣訴に苦笑する水乃は、すぐに表情を引き締めて言う。
「真様。この冗談めいた状況、実は結構問題なんです。鬼さんは『幽鬼』としての側面より、『怨鬼』としての側面が色濃い。降霊術が不完全だった事……そして何より、大きな未練が彼女の魂を歪ませています。このままでは、鬼君の肉体が鬼さんに奪われてしまう可能性も出てくるでしょう」
おいおい、それはあらゆる意味で阻止しなければマズイじゃないか!
「マジかよ……どうすりゃいいんだ?」
「上様、ご安心召されませ。『幽鬼』を成仏せしめる手立てと申せば、答えは一つ」
「なるほど、未練を断ってやりゃいいってワケか。さすがは火柩、伊達にあの世は見てねぇぜ」
内緒話に業を煮やして、強……もとい萌が頬を膨らませる。
「さっきからコソコソ何話してるのかなぁ……せっかくこの世に戻って来たのに、真君ってば余所余所しいし。それに……そのちっちゃい子は何なの? わたし、真君は宇佐美さん一筋だと思ってたから仕方無く身を引いたのに、いつの間にかそんな子供侍らせてエッチな格好させて……もしかして真君ってぇ、変態さん?」
「テメェに言われたくねぇよ!」
全くだこの変態野郎!
「真様落ち着いてください! 今の言葉にはヒントが隠されています」
「え……あぁそっか! 萌ちゃん、火柩の事が見えるんだな!」
「いえ、そっちじゃありません。今の台詞の中に、鬼さんが抱える未練の正体が隠されていたんですよ。つまり……鬼さんは真様の事をお慕いしていたようですね」
仕方無く身を引いた、という部分か。それは確かに、大きな未練になっていそうだね。
「オレの事を……そ、そうか。そう思うと何だか急に可愛く見え」
「逢いたかったよ真君。ウフッ!」
「ねぇよ」
そう言うな。親友の身命が懸かっているんだから。
「まぁまぁ。ここは一つ、同じ幽霊である拙者にお任せあれ。もし萌殿、其方どのような用向きでこちらに参られたので?」
「うにゅ? 何でここに来たかって事?」
人差し指を顎に当て、小首を傾げる萌。
「左様にござりまする」
「それはねぇ、真君にもう一度逢いたかったからだよ。真君に逢って、わたしの想いを伝えたかったの。す……好きでした……って」
好き“でした”、か。どうやら危惧するまでもなく、萌は自分の立場を良く理解しているようだ。
そう……萌はすでに、亡き者なのである。
「分かってるの。真君には初めから宇佐美さんが居たし、今はもう、わたしはお化け。この身体もお兄ちゃんに返してあげないと、ね。でも……でもね! 最期に一度だけ、思い出を作りたい。わたしと真君の──魂に残るように」
溢れる想いを、言葉に託す。
これはかなり萌えるシチュエーションじゃないか。叶えてやれよ、真。
「萌ちゃん……分かったよ。萌ちゃんの頼みなら、何でも聞く」
「……本当に? 本当に何でも聞いてくれる?」
「あぁ、何でもだ」
大きく頷きを返す真を見て、それまで不安に曇っていた萌の表情も明るくなる。
「ありがとう真君! それじゃあ早速、しゅっぱぁーつ!」