表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
殺害決定!  作者: 明智 烏兎
第五話 反魂の代償
25/37

変わり果てた親友

「ん……ぅ、懐かしい夢、見ちまったな……」


 朝日差し込む真の部屋。その光に瞼をくすぐられ、目を閉ざしたまま残夢に浸る。


「あっ、う……上、様ぁ……」

「その声は火柩だな。おはぎゃああああ!?」


 全く真の奴、強の手が柔らかい訳ないだろう。起こしに来てくれた火柩の胸の谷間に、君は寝惚けて掌を差し込んだんだよ。


 ──コンコン。


「おはようございます、真さ」

「わりぃ!」


 今部屋の外から水乃の挨拶があったようだが、そんなものは二の次。真は目にも留まらぬ速さでスパッと谷間から手を引き抜き、痴漢行為を詫びる。

 しかし抜いた拍子に指が襟元に引っ掛かり、火柩を自分のベッドへと引き倒してしまう。


「真様? どうかなさいましたか?」


 ──ガチャ、バタン。


「ちょ待ッ、言い訳くらいさせてっ!?」


 一秒もかからず状況を悪い方へと汲み取った水乃を追い、真は火柩を押し退けて部屋を飛び出す。


「待ってくれ水乃っ、今のは違うんだ!」

「いやっ、来ないで下さい! 真様を信じた水乃が馬鹿でした!」

「違う、馬鹿はオレだ! 正直に言う、今回はオレが悪かった! だから聞いてくれっ!」


 水乃の腕を捕まえて壁に押し付けると、真は真剣な眼で彼女を見つめる。


「アクシデントはあった。それは認める。寝惚けてて、少し胸に手が当たったかもしれない。けど二つだけ信じてくれ! 火柩は悪くないし、オレも故意でやった訳じゃない!」


 そうだ真、正直に謝るのは良い事だ。だけど正確には“少し胸に手が当たったかも”ではなく、“思い切り揉みしだいた”だろ?


「もう、いいです。いいですから……その……」


 完全に和解……とはいかなかったものの、とりあえず最悪の事態だけは回避できたようだ。

 水乃の仏心に感謝して、失くした信用をこれから着実に取り戻して行こう。


「あ、あらあら……朝から過激ね~……」

「な、なぁ母さん、我々も今晩……ごほんっ!」


 だから真よ。ノーパン睡眠法……そろそろやめないかい?


「こっ、こここれは違いますッ! ボクは無実だし娘さんも潔白ですッ!!」


 またもや最悪の事態だけを綺麗に回収してしまったらしい。浮かばれない……本当に浮かばれないね、君って奴は。



「はぁ~……浮かばれねぇぜ。優さん達にあんな姿……オレってば完全に変態じゃねぇかよ」


 鈴音神社の祭神、蒼眼の黒兎に御膳を出す。脇目も振らずペレットに食い付く黒兎の頭を、真は優しく撫で付ける。


「案ずるには及びませぬ。お父上もお母上も、それに水乃殿だって、上様が思うほど気にしてはおりませぬ」


 そう言って励ます火柩もまた、自分への不埒を咎める事は無かった。


「火柩もごめんな。寝惚けてたとはいえ、む、む、胸に……」

「心得違いをなされては困りまする。拙者、上様に触れていただく事こそ本懐と致すところ。拙者が現世に留まることの由、よもや忘れた訳ではありますまい」


 そう言って跪く火柩は、上目遣いに真を見る。


「わ、忘れちゃいねぇけど……でもなぁ……」

「心得ておりまする。姦夫姦婦は重ねて四つと申しますように、拙者も水乃殿の目が怖い。ですがもし、もしも許されるのなら……拙者を側室として、いえ! 側室などと我意も通しませぬ。せめて慰みとして、そ、そのぉ」

「さ、さてっ! 早くしねぇとガッコに遅刻しちまうぜっ!」


 火柩の熱っぽい視線を振り払い、真は芝居っぽく咳払い。しかし、


「本日は日曜日、学舎が休みだという事も存じておりまする。煙に巻こうとしても無駄ですぞ」


 逃げ口上をあっさりと看破されてしまう。


「だ、駄目だ駄目だ! 色んな都合でとにかく駄目だ!」


 逃げるように本殿を後にする真。追い縋る火柩を無視して境内を早足に進むと、そこである異変に気付き、立ち止まる。

 いい反応だね、真。用心しろ……鳥居の裏に隠れて──誰かがいる。


「誰だ! 出て来やがれ!」


 何かあってもすぐに応戦できるよう、火柩の肩を抱いて鳥居に叫ぶ。真の言葉に応じて、鳥居の陰に潜む影がゆっくりとその姿を現した。


「そんな……嘘、だろ……?」


 目を見開いて絶句する真。それもそのはず、影の正体は真のよく知る人物──鬼強だったのだから。

 それなら真は何をそんなに驚いているのかって? よくぞ聞いてくれた諸君。確かに諸君の言う通り、強が神社を訪れる事自体には何の不思議もない。

 だが……強の惨状を見れば、真の心情も自ずと理解できるはずだ。


「惨い。あの精悍な強殿が、豪侠な強殿が、何とした事……くッ!」

「きょ、強……お前、何があったんだ? どうしてお前が、こんな目に……」


 真も火柩も、目を側めて声を震わす。変わり果てた強の姿は、とても直視できるものではなかった。

 できれば僕も見たくはない。強のこの有り様は、正直吐き気を催すほどだ。アパートから神社までの道程をこの状態で歩いて来たとなると、彼はもう手遅れだろう。

 だけど……僕は傍観者。この状況を、諸君にお伝えせねばなるまい。


「強……お前は男の中の男だった。なのに……どうしてこうなっちまったんだよおぉぉぉぉーーッ!!」


 そう、男の中の男だったはずの強は……女装、していたんだ──。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ