死なせないために
「がはっ! ごほ、ごほっ……」
むせ返るような深緑に染み入る蝉の声。耳を塞ぎたくなるほどの大合唱に紛れて、女の咳き入る声が辺りに響く。
「はぁ、はぁ……霧、崎……」
陽光を照り返す川は昨日の雨の影響か、幾分水量が増して見える。
激流を逃れ、川辺にうずくまって喘ぐのはリリー・ハミルトン。その傍らには、伏して動かぬ真の姿があった。
「馬鹿……何でこんな事になってるのよ。私なんかを庇って、ホント馬鹿」
仰向けに転がした真の口元に手の甲を寄せる。やはりと言うか、呼吸が無い。
真とリリーは川に転落した。かなりの高さから落ちたため、咄嗟に彼女を抱き寄せた真は自ら下敷きとなり、そのまま水面に激突し気を失った──その結果がこれだ。
「絶対に死なせない。悩殺するって、約束したもの。……だから」
人差し指と中指を揃えて、真の顎をそっと持ち上げるリリー。自慢のツインテールは崩れ、濡れそぼつブロンド。それを煩わしそうに掻き上げ、ゆっくりと……しなやかに上体を沈めていく。
「恨まないでよね」
薄紫の唇に、薄紅の唇が、重なった──。
やぁ諸君、今回の話を読んで「短かっ!」と思ったのではないかな?
本当ならこの話は次話と繋げた方が文字数的にちょうどいいんだけど、サブタイトルや展開との兼ね合いで分割する事になったのさ。
一日一話更新でやって来た本作だが今回はそういった事情もあり、このまま次話を連続投稿するので引き続きよろしく。
もちろん君さえ良ければ、だけどね。