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  作者: 黒猫
2/2

♯002

 「いやぁ、ははは! すまんすまん。驚かしてしまったな」


そう言って、青年は豪快に笑った。

――頬に紅葉の印をつけて。


 話を聞いたところ、彼は変態ではないらしい。

この近辺で目を覚ましたが記憶も所持品も何もなく、仕方なく人を探していたのだとか。


その話を聞いて、紅葉は申し訳なさそうに眉を八の字にした。


「すいません。早とちりしてしまって」

「いやいや。俺が悪かったのさ。……ところで、急いでいたようだが?」


彼の声を聴いて、紅葉は自分の邪推を思い出した。

――出来れば、それが邪推のままでいて欲しいものだ。


「いえ、私事ですから……」


――そういえば。

と、紅葉は目の前にいる青年の身体を見た。


2メートル近くあろう長身に、大木のような手足。


――最適ではないだろうか。



「……どうした?」



青年が、怪訝そうにその顔を覗き込む。

その瞬間、紅葉の決意は固まった。


「――あの、実はお願いが……」





 道場の入り口に着いたとき、紅葉は人生の中で一番、自分の第六感に感謝した。

中から聞こえるのは、野太い男の声。

紅葉の師匠は女性であるため、その時点で既におかしい。


その様子を見て、青年はにやりと笑った。

自信があるのだろうか。


紅葉は彼に竹刀を渡しながら、


「大丈夫ですか?」


その問いに、青年はニッと笑って答えた。




「――分からん」

「――はい?」



あまりにも予想外な返答に、紅葉は笑顔のまま固まった。



「言っただろう? 俺は記憶がないんだ」



そんな紅葉に、彼はあっけらかんに言ってのけた。

青年はそのまま竹刀を振り回しながら、道場の扉をこじ開ける。


――これでは、どっちが道場破りか分からない。


そう思った紅葉だが、彼の考えは正しかったようだ。


事態は、かなり切迫していた。



 数人の男が、半裸になった師匠を囲んでいた。

師匠はかなり痛手をくらったらしく、口の端から血を流したまま男たちを睨んでいる。


――男たちが何をしようとしていたのか、それは誰にでもわかった。


それは勿論、青年にも。



「貴様ら……何をしている?」



青年は男たちを睨み付けながら、竹刀の先を男たちに向ける。

男たちは珍客の登場に驚いたのは、自分たちの袴に手を当てたまま、此方を見て固まっている。




「いや、お前こそなんで全裸なんだよ」




そう呟いたのは、男たちか、はたまた他の誰かなのか。


兎にも角にもそれを合図として、青年は飛び出した。


それからの彼は、まさに超人。


男たちには、反撃の隙どころか気付く隙すら与えない。



次の瞬間には、紅葉の目には呆然とする師匠と青年のみが、その場で意識を保っていた。


「凄い……」



思わず、紅葉はぽつりと声を漏らす。


「……」


その青年の姿を見てか、師匠は服の乱れをこっそりと隠した。

青年は竹刀を投げ捨てると、腰が抜けたのか動けないでいる師匠に手を差し伸べた。


――全裸で。


……結局、これがオチとつくのか。


手を握った瞬間己を取り戻したのか、師匠は突然鬼のような顔となり、




「死にさらせこの変態がァァァァァァアアアアア!!」



得意顔の青年の頬に、正拳突きをかますのであった。




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