8.最期
8.最期
はるか昔。
ユードラ国の王様を殺した四人目の女王ジェシカと七人目の女王セシルは六人目の女王ディランの手により、地下牢に幽閉されてしまった。
魔法使いのセシルに対して、普通の人間の少女であるジェシカは衰弱が早く、幽閉されて七日目に息をひきとろうとしていた。
「ジェシカ、しっかりするんだ!もうすぐ魔法使いの私の父が強力な魔法を使って私たちをここから救出してくれるはずだ。だから、それまでがんばるんだ!!」
「……無理よ。あなたがそう言うからずっと待っていたけれど、もう七日にもなるわ。
もういいの…私、疲れたから……。」
ジェシカはセシルに悲しげに微笑んで見せた。
「諦めるな。まもなく来る!」
セシルはジェシカの元を離れ、小さく開いている牢屋の窓を覗いた。
「父上はまだか?!」
そんなセシルにジェシカは目を細めた。
(あなたがいなければ、悲しい女王としてこのお城の暖かい部屋で何不自由なく過ごすことができたのに……)
それが彼女の最後の思考となった。
セシルが彼女に再度声をかけたとき、彼女はすでに事切れていた。
「ジェシカ……ひとまず今はさようならだ。
でも必ず、君を生き返らせる。
そのときは私と二人でこのユードラの新しい女王としてやりなおすことを誓う。」
彼はジェシカの屍の前で、そう誓った後、自ら命を絶ち意識体のみの存在となった。
そしてこのお城で眠りに付き、長いときを過ごしたのち、好奇心で城に入った魔法使いの青年の身体と意識体を乗っ取り、復活を果たしたのだった。
「そして、私の愛するジェシカも今、ここに復活した。
これほど喜ばしいことはない!!」
セシルはそう言って、王座の前に立っているジェシカの姿をしたサニーに近づいた。
「何がどうなっているの????」
やっと階段を上り終えたスリィがぜぇぜぇ言いながら、ナーレスの肩をつかんだ。
「お疲れスリィちゃん。」
「サニー、随分髪の毛伸びたわね。お化け屋敷でバイトできそうね。」
「そんなのん気なこといってる場合じゃないんです!!」
ステアがスリィのスカートをつかみ彼女の足にばさばさとぶつけた。
「サニーさんの身体と意識体がはるか昔になくなったジェシカ女王に乗っ取られてしまったんですよ!!あそこにいるのはサニーさんじゃなくて、ジェシカ女王なのです!!!」
「落ち着いて、落ち着いてステア。」
スリィがステアの頭を軽く叩き、彼をなだめようとしながら、ナーレスの方に視線を向けた。
「本当にそうなの?」
「どうかな?」
「え?」
ナーレスのあまり進行でない声と台詞にステアが顔をあげる。
「うちのサニーをあんまり甘く見ないでほしいね。」
ナーレスがニヤリと微笑んだ。
ステアがゆっくりとセシルの方を振り返ると、セシルが驚いたように震えてサニーから後ずさりをしている。
そしてサニーがゆっくりと顔をあげると、姿は女性だけれどもその瞳の色はサニー特有の黄金色をしていた。
「私は…いいや、僕はジェシカじゃない。サニーだ!!」
その言葉とともに、サニーは羽を広げた。
それは真っ白に輝き、無数の羽根をその場に舞わせ、とても神々しかった。
「何故だ!何故、ジェシカは復活しないのだ!!」
「そのわけを教えてやるよ。」
ナーレスが剣を構えてセシルの後ろに立っていた。
「一つ、お前が天使のサニーの力を甘く見ていたこと。
二つ、ジェシカの意識体がとっくの昔に消失していたこと。」
「そして三つ目は、ジェシカはあなたが思っていたほど、あなたのことを思っていなかった。」
「なんだって?」
「彼女の屍に残っていたのはこの姿の記憶と最後の思考だけだったよ。」
(あなたがいなければ、悲しい女王としてこのお城の暖かい部屋で何不自由なく過ごすことができたのに……)
「あなたがいなければ、悲しいけれどこんな最後を迎えることはなかったって…。」
「そんな……そんなの嘘だ!!!」
セシルが呪文を唱え、魔法陣を出現させた。
しかし、そこから例の黒い物体は現れることはなかった。
代わりにナーレスが剣を構えて、近づいてくる。
「!」
「魔力切れだ。覚悟しろ。」
「くそっ!」
セシルは懐から銃を取り出しサニーに向けて発砲した。
弾はサニーの胸に命中し、赤い血の色が広がったが、サニーは少しだけ顔をしかめただけで、その場に立ち、セシルに哀れみの視線を向けていた。
「哀れなユードラ最後の女王よ、この世に永く居過ぎた。」
「!!」
ナーレスの剣がセシルを貫いた。
「いいかげん、お前も消えろ。」
「うう……ジェシカ……」
ナーレスが剣を引き抜くと同時に、セシルの身体がゆっくりと地面に崩れていった。
それと同時に彼女の召喚した黒い物体たちも消えていく。
そして、すべての悪が消えると同時に、サニーも元の姿に戻っていく。
彼の身体から離れるように、ジェシカの屍が王座に戻った。その胸の骨が数本欠けていたのは、先ほどのセシルの銃撃だろうか。
元の姿に戻ったサニーは自分の胸を押さえて、ひざをついていた。
「サニー、大丈夫?」
駆け寄ってくるスリィに、サニーは少し悲しい笑顔でうなずいてみせたのだった。