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5.昔話

5.昔話



サニーとブルームが協力して脱出し、スリィが謎のうさぎステアと移動をともにし始めた頃、ナーレスはユードラから遠く離れた異国の地にいた。

真っ白な雪に覆われたその国はビチェスという。

そのビチェスの郊外にある大雪原にナーレスは立っていた。

彼の目の前には恐ろしく古い井戸がある。

無表情で彼はその井戸を眺めていたが、ついに彼は覚悟を決めたように口をへの字に曲げて、その井戸に足をかけた。

そして、雪のちらつく極寒の中、彼は井戸の中にダイブしたのである。

井戸の中の水はまるでナイフだった。

彼の皮膚に刺さるような痛みが走り、意識が飛びそうになったが、彼はなんとか、それをくい止めることができた。

無理やり目を見開き、井戸の底を見渡すと緑色に光るランプが見えた。

水の中なのに、そのランプには緑の炎がともっている。

ナーレスは必死に泳いで、そのランプに触れた。


「ん?」

白い長い髪を三つ網にし、黒いドレスを着た女性は突然の訪問者の気配を感じ、入り口の方に振り返った。

すると、彼女が「入り口」と読んでいる、白い魔法陣の上にナーレスがびしょびしょの格好で立っていた。

「ルーティンさぁ〜ん、この入り口もっと入りやすくならないの〜?」

ナーレスの情けない声にルーティンと呼ばれたその女性は、口の端をくいっと持ち上げて、笑いをこらえた。

「わしはあいにく、誰にも会いたくないので、あのような入るまでに死にかける入り口にしている。確か、死んだ奴もいたな。」

ルーティンは小さなランプに明かりを灯した。

すると、魔法陣は発光し、ナーレスを包んだかと思うと、ナーレスの服や髪はいつのまにか乾燥していた。

「これはこれはどうも。」

ナーレスは自分の服装が乱れていないことを確認し、魔法陣から降りた。

その間にルーティンは別のランプに火を灯した。すると、ナーレスの前に椅子とテーブルが現れ、少し悪趣味なティーカップにどろどろの紅茶が入れられた。

ナーレスは苦笑いし、椅子に腰掛け紅茶を一口のみ、驚いた顔をした。

「案外、うまいっすね〜。」

その言葉を無視し、ルーティンは王座のような高級そうな椅子にゆったりと腰掛けた。

彼女の正体はランプの魔法使いラミュア・ルーティン。

外見も名前の女性のようだが、実は男性である。

ルーティンは今、この極寒のビチェス国の行方不明となっている王女の身体を乗っ取っているのである。

ちなみに彼は邪悪な魔法使いである。

「で、今日は何の用だ?」

「ユードラ国の昔話を聞かせてもらいたくて、あの恐ろしい井戸に飛び込みました。」

「わざわざ命をかけてまで、話を聞きに来るなんて、お前もよほど暇なのだな。」

ルーティンが椅子にかけてあったランプに火を灯す。

すると、部屋の壁一面が本棚になり、その膨大な本の中から一冊の本が、彼の手元にぱたぱたと鳥のように羽ばたいて、降りてきた。

「今、仲間がその国のお城に囚われていたり、潜入したりしています。

俺も続きたいところなんですが、あまりにも急で情報がないので、ここに来たわけです。」

「ふん、ご苦労なことだ。」

ルーティンはパラパラとページをめくった。

「一度しか言わぬから、よく聞いておれ。」

「はいはいさ〜!」

ルーティンは感情のない声で本を淡々と読み始めた。


〜ルーティンの語ったユードラ国の昔話〜

城を建てることを愛したユードラ国の王には七人の王妃がいた。

どのような経緯で彼女らがこの国に嫁入りすることになったのかは、わからないが、それぞれの王妃がそれぞれの理由で王を愛していた。

最初の王妃は没落貴族の娘で、王の財力を深く愛していた。

二人目の王妃は建築家の娘で、王の建てているお城を深く愛していた。

三人目の王妃は学者の娘で、城に眠っている多くの本たちを愛していた。

四人目の王妃は隣国の第3王女で、政略結婚を強いられ、王に歪んだ憎しみを向け、王の存在を深く愛していた。

五人目の王妃は農家の娘で、王を深く敬愛し、お城の庭を深く愛していた。

六人目の王妃は大臣の娘で、王の持つ政権を深く愛していた。

七人目は魔法使いの娘で、王の四人目の妃を深く愛していた。

王が一番可愛がっていたのは一番年の若い五人目の王妃でまるで、二人はまるで親子のようだった。

王は誰とも交わらず、子を設けず、やがて四人目と七人目の王妃に手にかかり、この世を去った。

殺人をした二人の王妃は六人目の王妃により牢に入れられた。

最初の王妃は国のお金を持って、故郷に帰り、三人目の王妃は地下の図書館に身を潜めた。

二人目はお城に残り、研究を続けたかったが六人目に追い出された。

五人目は王に安全といわれていた部屋に逃げ、ずっとそこに篭ったっきり姿を見せない。

やがて六人目の王妃とその父親の大臣は国を支配し始めたが、国はすぐに衰退し、彼らは暴徒と化した国民に死刑にされ、国は静かな村になりさがったのだった。

まもなく、牢屋から白骨化した四人目と七人目の王妃が発見される。

図書館に身を潜めていた王妃は生きていて、そのまま余生を本を読むことに費やした。

五人目の王妃は最後まで見つけることができなかった。

おそらく、誰も空けることのできなかった開かずの間で静かに生きを引き取ったか、窓からどこかに逃げたのあろう、ということになった。

村はこれからずっと静かで平穏であろう。

未来、唯一村の平和を乱すものがあるとすれば、それは魔法使いの娘であった七人目の王妃のことだ。

彼女の父はとても邪悪な魔法使いで、娘に滅んだ後の復活の方法を娘に伝えていたという噂を聞いたことがある。

長い年月を経て、もしかしたら、少しずつ彼女の怨念に魔力が蓄積し、復活を成功させるやもしれない。そのときは彼女の愛した四人目の王妃も生き返らせ、二人で再びこの国を苦しめることになるであろう。

どうか、そうならないことを祈っている。


「で、その祈りは通じなかったようですね。」

「だな。」

「最後にそれぞれの王妃の名前を聞いて良いですか?」

「ティラ、アン、ファム、ジェシカ、エストリア、ディラン、セシルだ。」

「セシル……ね。」

ナーレスは小さくそう呟いた。

「お望みの情報は得られたか?」

「ああ、お陰でばっちり核心に迫れましたぜ。」

ナーレスはにっこりと微笑むと、ルーティンの顔の前に急接近した。

「ありがとうございました。またヨロシクです。ちゅっ」

「!」

ナーレスはルーティンの唇に軽くキスをした。

驚き慌てるルーティンの姿が珍しくて、可愛くて、おかしくて、ナーレスは最高に楽しい気分になった。

「貴様、殺してやる!!」

「はいはい、またね〜♪愛してるよ☆」

ナーレスはそういい残して、魔法陣の中に消えていった。

そして、いつのまにかナーレスはさっきの冷たい井戸の中に戻っていた。

慌てて水面に出ようと、夢中で泳いだが、いつの間にか水面に厚い氷がはっている。

氷にはルーティンの姿が映っている。

「せいぜい、そこで苦しむがいい。」

ルーティンの冷酷な顔がふっと微笑み、そのまま消えた。

しまった!ここはまだ奴のテリトリーの中だ。

調子に乗った自分を呪いながらナーレスは必死に氷を押した。

あまりに慌てていたため、自分で魔法を使うことをしばらく忘れていた。

限界の近づいた頃、ふと、自分の能力を思い出したナーレスは慌てて左手に魔法陣を出現させ、氷を破壊した。

井戸から這い上がったと思ったら外は極寒の寒さである。

「も〜ちょっと手加減してくれてもいいのに〜。」

ナーレスは寒さに震えながら、ビチェス国を後にしたのだった。

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