4.うさぎ
4.うさぎ
サニーがセシルの身体を乗っ取り、元の身体の持ち主ブルームと脱出を成功させていた頃、メイドのスリィは単独でお城に潜入していた。
「ったく、何であたし一人でこんな物騒なところにいるのよ…ナーレスってば、『俺はちょっと知り合いのところに行って情報を集めてくるから、先にお城に潜入してサニーを探してて。
大丈夫、君は自分の身を守ることに関しては天才だから』とか、無責任なこと言ってさ。
人の反論なんて聞きゃあしない。もう。」
と、ぶつぶつ文句を言いながら、彼女はお城の大広間の隅に身をひそめていた。
大広間はその名の通りどこまでも広く、不規則に螺旋階段がたくさん並んでいた。
螺旋階段はこのお城を形成している塔に繋がっているようである。
「ここのお城の人って足腰が頑丈なのね…ナーレスかサニーがいたら、羽根でひとっ飛びなのに…人間って不便で不公平だわ。」
スリィは螺旋階段を一つずつ目で追い、広間をうろうろしている宿屋を襲撃してきた黒い物体がいないところを探した。
ぽつりぽつりと何箇所かにいる黒い物体はまるで地をすべるかのように、うろうろしていた。
「あれは一体何なんだろう?まぁ、あんまり仲良くなれなさそうだし、なるべく接触は避けたいかな。」
スリィがきょろきょろしていると、螺旋階段の中で一つだけ手すりに鎖がかけられており、通行禁止状態のものがあった。幸いにも、その階段の近くには黒い物体が一匹しかいなかった。
たぶん、結局は何箇所かの階段を上がらなければならないわけだし、とりあえず怪しそうなのから当たってみよう、とスリィは思った。
スリィはそろそろと目標の螺旋階段に近づき、ある程度の距離から一気にダッシュした。
大広間にスリィ自慢の品である黒い編み上げブーツの靴音が響き渡り、黒い物体が一斉にスリィに注目した。
もちろん、目標の螺旋階段の近くにいたのもスリィに気づき、階段の前に立ちふさがった。
スリィは黒い物体をよけ、目的の螺旋階段を一周し、黒い物体にとび蹴りをした。
黒い物体がよろめいたとき、その反動ジャンプした。
すその長いスカートがひらひらと舞、純白のドロワーズが微かに見えていた。
階段の鎖を飛び越え、階段の上にふわりと着地した。
鮮やかな動きだった。
「ふふん、メイドさんだからって紅茶を入れるのが上手なだけじゃないのよ☆」
スリィの動きについていけない黒い物体を横目に見て、スリィは階段を駆け上がった。
「ふふふん、ちょろいもんよ。きっと足がないから、この階段は上がれないんだわ。」
余裕の表情で、スリィが下を見るとなんと黒い物体がふわりふわりと浮き上がってきているではないか。
そんなにスピードは速くないが、階段を走っているスリィにくらべて、スムーズな移動方法であることは間違いなかった。
「反則だわ!こうなりゃ、メイドのど根性を見せてやる!!」
スリィは階段を駆け上がるペースをあげた。
黒い物体から少しずつ距離が開く。
そして、いよいよ階段先のゴールが見えてきた。が、ペース配分を考えないやけ走りに確実に疲れたスリィのペースが落ちてきていた。
「も〜、だめ〜。」
スリィはのろのろと立ち止まり、手すりに掴まり黒い物体を見ながら呼吸を整えた。
黒い物体が確実に近づいている。
「も〜しんどいの嫌だし、大人しく牢屋で寝たいかも。」
黒い物体がどんどん近づいてくる。
それをじっと見つめるスリィ。
黒い物体は集団でどんどんどんどん近づいてくる。
その様子はとても不気味である。
「やっぱり、あいつらに捕まるのは嫌かも…もう!」
諦めたように叫び、スリィはスカートをたくし上げた。
そして、大胆にも一段飛ばしで残りの階段を駆け上がった。
しかし、黒い物体はすでにそこまで来ている。
「もう、あたしも羽根がほしいよ〜ぉう!!」
そう叫んで、彼女はどうには最上階まで到達、そこにあった扉を開けて中に飛び込んだ。
そして、部屋をよく確認せず、とりあえず鍵をかけ、その場にペタンと座り込んでしまった。
「はぁ、はぁ、人間も、やれば、できる!…はぁ〜。」
ドアにもたれて呼吸を整えると、ゆっくり立ち上がり周りを見渡した。
そして、そこには予想外の光景が広がっており、彼女は言葉を失った。
そこはまるで女の子の子供部屋のように光に溢れ、かわいいらしい家具や人形がたくさん置かれていた。
この不気味な屋敷とまったくかけ離れた、とても素敵なお部屋だった。
「……かわいい……。」
スリィは素直にそう言葉にした。
部屋の中央にはレースのカーテンひらひらした天井のある小さなベッドが置かれていた。
そこには白いブラウスに首のところで黒いリボンをしたうさぎがあおむけに静かに眠っていた。
「……うさぎ……?」
スリィがまじまじとうさぎの顔を見ていると、ぱちっとウサギが目を開いて、スリィは目があった。
「うわぁ、起きた。」
「わぁ、誰?」
二人…いや、一人と一匹は同時に声を上げた。
「うさぎがしゃべった?」
スリィが目をぱちぱちさせ、まじまじとうさぎを見ていると、うさぎはベッドの上に二本足で立ち上がり、スリィをまじまじと見返した。
「あなたはこのお城のメイドさん?」
「いえ、違いますけど……あの、何でしゃべれるんですか?」
「うさぎだってしゃべったっていいじゃありませんか。」
うさぎがやんわり微笑んだ気がした。
「私はステアといいます。」
「あたしはスリィ。」
「よろしくスリィ。」
ステアが小さな手(前足?)を差し出してきたので、スリィはそれをやんわり握って握手した。
「ところで、スリィはここまでどうやって来たのですか?」
「どうやってって、このお城の大広間からあの悪魔のような螺旋階段を上がって、ここに入ってきたのよ。」
ステアはそれを聞いて、少し考えるような様子を見せた。
「ここの……この部屋の扉は開きましたか?」
「へ?ええ、普通に開いたわ…でも、今は開けないほうがいいかもね…。」
「そうですか、わかりました。」
ステアは窓のそばのカーテンをめくった。
そこには青いボタンがいくつか並んでおり、ステアはそのなかのいくつかを押した。
「あの、他にあたしに何か質問はないの?」
スリィの言葉にステアはキョトンとした顔で振り返った。
「他にですか?」
「だって、あたし達初対面だし、何であたしがステアの部屋にいるのか?とか聞かないの??」
ステアは少し考え、またふわりと笑って答えた。
「聞いてもいいですけど、絶対知りたいわけではありません。」
「そうなの?」
「ええ、少なくともあなたは私に敵意はないでしょ?それだけで十分です。」
ステアは最後に青いボタンをもう一つ押した。
すると、窓が開き外に続く階段が現れた。
階段の先はお城の中庭に続いていた。
「とりあえず、ここから降りましょう。必要な部分はおいおい移動しながら聞きことにしますがいいですよよ?」
仕掛けに驚いていたスリィはとりあえず、無言でうなずきこの不思議なうさぎについていくことにした。
「あ、行く前に一つ教えて。」
「なんですか?」
「ステアってオス?メス?」
スリィの言葉にステアは一瞬言葉を失ったが、次の瞬間大笑いを始めた。
「私はとても愛らしい外見をしていますがオスですよ。」
「そ、そう……それは失礼しました。」
スリィはちょっと顔を赤くし、下を見ながら彼についていく。
「いえいえ、気にしないでください。」
そう言って優しく微笑むステアを見て、スリィは彼はとても紳士だと感じたのだった。
スリィとステアが階段を下りると窓は閉じ、ステアの部屋はもとの静かな部屋に戻っていたのだった。




