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3.ブルーム

3.ブルーム



固い床の上で僕は目を覚ました。

ゆっくり起き上がると、肩と羽根に焼けるような痛みを感じて、少しだけ涙が出た。

どうやら2発目は羽根を撃たれたららしい。

ご丁寧に包帯が巻かれていたので、どうらや僕を殺すつもりはないらしいことがわかり少しだけ、ほっとしてしまった。

でも、囚われていることには変わりない。

ここはどう見ても牢屋で、快適な場所とは言えなかった。

怪我は重傷だけれど、動けないほどではないし、天使だから治癒は早いはずだ。

ナーレスはたぶん、助けに来てくれると思うけど、何もせずここで待っているのはなんだか情けないから、とりあえず努力はしよう。

そんなわけで僕は牢屋の中をうろうろし始めた。

牢屋といえば大体地下にありそうだが、ここはどうやらお城のたくさんある塔の一つに作られているようだ。

鉄格子の外は螺旋階段で、階段沿いにずらり牢屋になっている。

なかなかおもしろい構造である。

牢屋に窓はなく、かわりに塔の一番上が吹き抜けになっていて天窓から明かりが注がれているようだ。

だから、牢屋にしては明るい。

ふと、階段のしたほうから、足音が聞こえてきた。

どうやら見張りが上がってきているらしい。

これはチャンスだ!!

「ブルーム、ちょっと離れるから、頼むよ。」

僕は自分自身に話しかけた。

すると僕の頭に直接、別の声が響いた。

OKの返事をもらうと、僕は身体から意識を手放した。

振り返ると、僕が乗っ取っていた人間の身体が立っている。

髪の縦ロールはまっすぐなストレートになり、金色だった目が紅茶色に変わっている。

僕より少し悪そうな目で、彼は口を開いた。

「あいつの身体を乗っ取るのか?」

「うん、そしたらとりあえずここから出られそうだと思うんだ。」

「そう、簡単に乗っ取らせてくれるかな?」

彼は僕が乗っ取っていた身体の持ち主ブルームだ。

僕は意識体といって、実体のない幽霊のような状態になっている。

このまま、今階段を上がってきているであろう見張りの身体を乗っ取り、牢屋を開けよういう魂胆である。

「来たよ。」

ブルームの言葉を聞いて僕は牢の中から階段の方に移動した。

階段から上がってきた見張りは、僕を撃ったセシルだった。

僕はブルームと顔を見合わせ、とりあえず階段の上に身を潜めた。

セシルはブルームの牢屋の前で足を止めた。

「お怪我の具合はいかがですかな?天使様。」

相変わらずの冷たい声だった。

ブルームは僕に一瞬だけ視線を向けてただけで、すぐにセシルから顔を背けた。

僕はセシルの背後にそっと忍び寄る。

「まぁ、そんな怖い顔をしないでください。私の言うことさえ、聞いてくれれば悪いようにはいたしません。」

ブルームはまだ黙っている。

彼は僕としゃべり方や声が違うことと目の色が違うことをを心配しているのだろう。

「天使様にぜひ会いたいと言っておられる方がおりまして。

その方にお会いし、力を貸していただきたいのです。」

僕はセシルのほぼ後ろにいる。

今、彼が振り向いて僕を見つけてしまったら、この作戦が失敗になってしまう。

ブルームは彼の注意を引くために、大きく目を見開いて、僕と違う色の瞳を彼に見せた。

「!」

セシルが気づいた瞬間、僕は彼の身体に入り、彼の意識を無理やり奥へ押しやり眠らせてしまった。

「大丈夫か?」

ブルームの声が正常に聞こえたので、乗っ取りは成功したようだ。

「何とかうまく乗っ取れたよ。

彼の意識がいつ起きるかわからないけど、とりあえずはここから出られそうだ。」

セシルの服を調べると牢屋の鍵が出てきたので、鍵を開けた。

「うまくいってよかったよ。」

「まったくだよ。俺がいなかったらできなかったことだぜ。」

「はいはい。」

ブルームは人懐こい笑みを浮かべながら、階段の下を見ていた。

「とりあえず、降りてみようぜ。奴も下から来たしな。」

「それにしても、僕に会いたい人って誰なんだろうね?」

「さぁな。たぶんお(セシル)のボスだろうな。

お前、丁度その格好だし、おもしろそうだからちょっと探ってみようぜ。」

「それより早く脱出してナーレスと合流しないと…。」

「まぁまぁ、俺こうして動くの久しぶりなんだからいいじゃないの。その身体でしばらく一緒に行動すればどうには敵の目もごまかせるよ。」

「で、でも〜…。」

「いいからいいから!はい、レッツゴー!!!」

意気揚々とブルームは階段を下り始めた。

僕も仕方なくセシルの身体で彼についていく。

ブルームはこんなに好奇心旺盛だったんだな…。

彼がどうして僕に身体を乗っ取られることになったかは別の話だけど、少なくともこんなに楽しそうな顔をしているのは久しぶりに見た気がする。

そんな彼に思わず身体を返してもらうことも忘れて、僕はこの不気味なお城を探索することになったのである。

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