思いがけない再会
「アーリャ姉さん?!」
その人を見て、あたしは思わず叫んだ。あたしの叫び声にビクリと身体が動いたアーリャ姉さんの手元で、ガチャリと金属が当たる音がする。
両腕に魔力封じの枷を嵌められ、枷と枷をやはり魔力封じの鎖で繋がれた姿で皆が集まる広間に引き出された数人の中に居たのは、もう十何年も前に別れた異父姉アーリャだった。
「姉だって? ヒュウッ、シーラも前皇帝の娘だったのかよ」
「はぁ? そんな訳ないじゃない。アーリャ姉さんとは異父姉妹なの。母の方が一緒なんだってば」
「なんだよ。お前も皇妹だったら話は早かったのによ」
「違いない。すぐにでも皇宮を攻めて乗っ取れたかもな。そんでシーラ、お前が女皇帝に……」
「止めてよ、あたし皇帝だの王だのなんてご免だわ。そういう身分っていうのから国民を解放するために戦ってるんじゃないの?」
「なんだよ、ちょっとした冗談だろ」
「笑えない冗談やめてよね」
仲間が口々にもらす勝手な言い分に、あたしの気分と機嫌が悪くなる。
あたしだって好きで姉妹をしていたわけじゃない。だいたい、義姉が皇妹だなんて今知ったっての。
母から義姉は皇宮の偉い人の娘なんだってだけ聞いてたんだもん。その偉い人が前皇帝だなんて思わないでしょ。大臣とか、将軍とかそんなところだって思ってた。
母は昔、前皇帝からの指名依頼で皇太子アーグに剣の指導をする為、皇宮で生活してたらしい。
毎日皇太子を指導する姿を偉い人――前皇帝の事だったんだなんて、びっくり――に見初められ、愛妾として召し上げられて姉を産んだ。妃じゃなくて妾だったのは、側妃なんて嫌だって言ったんだろうなぁ
当の母は皇宮に出入りする吟遊詩人に惹かれてて、彼を脅しに使われて側妃になれって迫られたんだとか。子供を産めば解放してやると言われて渋々承諾したのだと、私が幼い頃よくこぼしていた。
母には色々不満はあったものの、生まれてきた姉は剣技の才能があったらしく「剣を持たせたらなかなか良い筋をしていたんで、つい熱を入れて指導しちゃったわ」なんて笑ってた。
母の実家はそこそこ高名な代々続く剣士の家で、「一子相伝の最終奥義なんて物まであるんだからね」っていつも笑ってた。子供の頃は胡散臭い話だと思ってたけど、今になってあれは本当の話だって確信してる。
だって今のあたしけっこう強いのに、あたしが子供の頃に手抜きな指導してた母よりずっと弱いって分かるんだもん。
私だっていい線いってるって言われたけど、母はその技を義姉に伝授してしまったからって教えてくれなかった。
帝国の強力な戦闘力になっちゃうのに、いいの?って何回も聞いたけど、母は「それはいいの」って笑ってた。帝国民を苦しめる皇帝、ひいては帝国なんか無くなっちゃえばいいのに。帝国に有利な戦力を伝えたのに、何で母は笑ってたんだろ。
つい最近まで皇妹とか帝国軍の総代表が強すぎて、私たち抵抗軍は全滅しそうになってたっていうのに訳わかんない。
あちこち点在する抵抗軍だけど連携は取れてないから、グラーキスの奥に拠点がある以外の抵抗軍たちはどんどん殲滅されちゃって、フランマテルム聖王国とディニタス帝国あたりで残ってるのはあたし達ともうあとひとつふたつくらい?
そんな強い敵の相手になれたのは、あたしと母が所属してるこの抵抗軍『アッシ』のリーダーと母、そして辛うじてあたしだけって状態だった。
そんなすごく強かった母も、数年前に弟子の皇太子……ううん、その頃には前皇帝を廃して皇帝になったアーグに殺されてしまった。だから、あたしは皇帝アーグを絶対許さない。
同じ母に育てらてたのに、なんで義姉は皇帝に協力なんてしてるんだろう。
そんな事を考えてたら、やっと俯いて下を見ていた義姉がのろのろと顔を上げる。義姉の視線があたしを通り過ぎ、斜め後ろにいる人物あたりで止まった。驚いた顔して、目を見開いてる。
「イ、アー…ヴ…の……?」
呟きは小さすぎて聞こえない所もあったけど、たぶん誰かの名前だ。まさか、義姉は彼を知ってる?
ちらりと様子を伺うと、彼もまた目を見開いて驚愕の表情が浮かんでた。
「なんだ、こいつイアーヴって言うのかよ」
「やっぱ敵だったんじゃねぇか」
「とっとと放り出した方がいい」
またもや後ろの青年に対して、口々に勝手な事を言い出す奴ら。言われてる当人は無表情で平然と立っているから、そんなに傷ついてるわけじゃないんだろうけど。聞いてるこっちは気分悪い。
黙る気がない奴らにイライラが止まんない。
「止めなさいよ。あんたたちだって、何回も彼に助けられたことあるじゃないの」
「そういう振りしてスパイしてるのかもしれないだろ」
「そうだ、そうだ。皇妹が名前を言ってたじゃないか」
「イアーヴ、だっけ?」
「いいえ、彼はイアーヴじゃない」
熱くなる奴らを黙らせる迫力で、義姉が言い切った。
義姉は怒鳴ったわけでも大声を張り上げたりしたわけでもない。でも、無視できない威圧感のある声に、好き勝手に騒いでた奴らの口がピタリと止んだ。




