主人公 福⑤
「半日探してやっと一人かぁ……あと2・3人は欲しいな」
先ほどの撮影場所から少しはなれた小道。福は汗を拭きながらデジカメをチェックしている。この場所なら、左右の壁から伸びたツタが頭上を小屋根のように覆い、日陰を作ってくれる。涼しい上にデジカメの液晶画面も確認しやすい。
ところで、先ほどの体術は柔道と空手のようだが、福は格闘少女なのか?
「えへへェ……格闘少女って言う響きは、なんかかっこいいなぁ。けど、違うよ。好きなだけ」
しかし、好きなだけではとっさにああ言う技はでまい。
「本、読んだりー。家で筋トレしたり、サンドバック叩いたり。あと、近所の警察道場や学校の空手部で組み手させて貰ってるの」
それでそのラウンド型おっぱいか。うむ。納得である。
「あ、あのねぇ……」
福は両手を重ね胸を隠すようなしぐさをしたが、その腕で隠せるようなグレードではあるまい。
「あたしさぁ。胸の事バカにされんの、だいッ嫌いなんだよね~」
そう言うと福は不服そうに口をつぼめ、上目遣いであたりをにらんだ。まるで作者に脅しをかけているつもりのようだが。
「脅しかけてんだよ」
ああそう。作者には通じないけどね。
しかし、釈明して置くが、さっきのは福の胸をバカにした訳ではないぞ。むしろ誉めている、賛美していると言っても過言ではない。
「どーだか」
話を元に戻すよ。ならば福は空手部員なのか?
「毎日部活に時間縛られるなんてやだもん。好きなときに行って、やりたい技だけ練習して帰るんだ」
よく他の部員が文句言わないな……。
「私がとってもきゃーいーからじゃない。……うーん。枚数が足んないなあ。やっぱあそこまで行くっきゃねーか」
そう言うと自意識過剰なバカ娘は、デジカメをおしりのポケットにねじ込み、小道を歩き始めた。
「聞こえてるぞ」
さっき『テレビも雑誌も信じてくれない』と言っていたが、このデジカメで撮影した心霊写真はどうするのだ?
「投稿して賞金貰うの。良い出来だと1枚で3万円くらいになるよ」
つまり小遣い稼ぎか。持って生まれた特殊な能力をほかに役立てようとは考えんのかね?
「ほかって?」
未解決事件の犯人を霊視するとか……。
「霊視なんてできないもん。見えて話せて触れるだけ。殺された人が幽霊になってれば、話聞けるかもしんないけど、警察が信じてくれないよ」
じゃ、悪の秘密結社から世界を護るとか……。
「悪の秘密結社に会った事ない」
ああ。そういえば作者もない。じゃ、これだ。さっきみたいに霊を蹴っ飛ばして追い払うんじゃなく、修行してちゃんと成仏させてあげられるようになれば?
「えぇー。かったるいじゃん」
格闘技の練習はやるのに、霊能力を鍛える修行はかったるいんだ。
「きょーみないもん」
興味が持てない事に関しては筋金入りのなまけものである。そんな訳で彼女の霊能力は、先ほど言ったように、見えて話せて触れるだけなのだ。まぁ、それだけでも十分すごいと思うが……。
「あのさぁ、作者は何やってんの?」
お、俺? 作者はお前を主人公に小説を書いているのだ。
「ふーん。なんて小説?」
『福!!がくる』と言うタイトルにしようと思う。
「あたしが? どこに行くの?」
いや、そうではなく。福が来る、すなわち、幸せが来ると言う意味と引っ掛けてだなぁ……。
「えーと。まだ先かなぁー」
もう興味を失ったんかい……。